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15 なんらかの罪に問われない?

「それじゃあ祝勝を記念して――乾杯!」


 きん、とソフトドリンクが注がれているグラスをふれあわせて中身を飲み干す面々。

 日没、焼肉屋は大繁盛といった模様。店員がせわしなく肉やグラスと行き交っていた。


 あー、メロンソーダ美味しい。

 生ビールのほうがもっと美味しいのに。

 冬に暖房を効かせた部屋で呑むキンキンに冷えた生ビールよ……。


 初手でレバーを焼き始めた吉岡君が不思議そうな顔をしてこちらに訊ねてくる。


「里見サンは酒飲まないんですか?」

「バッキャロウ未成年連れて酒が飲めるわけないだろ」


 ()、キレた……!

 俺は大人としてはゆるゆるで体面も悪いほうだがさすがに身内でもない子供を連れて酒は飲めない。


 なにかあってからじゃ遅いのだ。

 そもそも未成年連れて食事に行っている時点でかなりアウト寄りだ。


 心底悔しそうにしていたのか吉岡君は目をまん丸にして「ウィ、ウィ……」とよく分からない鳴き声を発している。


「特に奢りは危ないですねえ」

「なんらかの罪に問われそうだな……」

「いえ、ウチらが里見さんに奢るんです。今日はお兄さんがいないと二重ダンジョンでやられてましたし」


 草加さん、それはそれでなんらかの罪に問われない?

 俺は訝しんだ。


 伊織君と南条さんが肉を育て、それを皆で取り分けていく。


 こういう時に性格が出ると思うのは俺だけだろうか。

 伊織君は肉を育てるのに精一杯。

 南条さんは肉と野菜をバランスよく焼いて自分を含めて周りに行き渡らせている。

 吉岡君はぼんじりやらミノ、豚レバーを執拗に焼いている。

 草加さんは野菜を焼いて他人の焼いた肉をそれとなく貰っていた。

 宍戸君は……食べるだけである。


 こちらの視線に気づいたのか南条さんが苦笑いをした。


「焼肉奉行なんです、リッ君は」

「だからコイツに焼かせるとテスト前一週間みてーな緊張感になるんすよ」


 南条さんの説明に吉岡君が付け加える。

 なんというか……意外な一面というか……。


 続けて伊織君は吉岡君と草加さんに押しつけられた肉と野菜を口に運びつつ、


「あとこういう時くらいはなにもしない方が僕たちも気が楽なんですよね」

「カボチャ食べ、カボチャ」


 野菜を全員に行き渡らせる草加さん。

 その上でしれっと牛タンを食っていやがるのでなかなかに強かである。


 俺はというともうお客様というしかない。

 なにをせずとも食べ物が流れてくる。


 ありがたいがはっきり言って心苦しさのほうが上回るのだけれどもね……。


 しかし彼ら、五人で行動しなれている。

 仲良しグループというよりは完全に創作に出てくる冒険者パーティだ。


 過酷な戦いの日々のなかこうやってどんちゃん騒ぎをして結束を強めるひとつの社会。


 焼かれたタンが誰かから取り分けられる。


「さすがにここまでしてもらうわけには……」


 親切や感謝は伝わってくるが過ぎたるはなんとやら。


「いいんですか里見さん。ウチの焼肉は厳しいですよ……」


 宍戸君は不敵に笑う。

 なんだよ厳しい焼肉って。

 なんだかおかしくなってつい笑い声が口から漏れてしまう。


 南条さんはすかさず宍戸君のフォローに入る。


「リッ君、里見さんはもう石焼きビビンパを三杯も食べてる。……使い手だよ」

「いや君もボケるんかい」


 真顔でなんてこと言ってるんだよこの子ら。

 これが学生ノリってやつか?


 多分違うんだろうけれど。


 大量のカルビを食べきった伊織君が焦燥しきった顔で呟く。


「……アブラ、キツイ」


 三十代みたいなこと言うな……。

 同じくらい俺もカルビを食べているがまだまだ胃袋には余裕がある。


 そんな俺を見て吉岡君は感心したように頷くのだ。


「あの身体を維持するにはこのくらい食べないといけないんだな……」


 彼……彼らの食事量は一般的な男子高校生と比べてもちょっと多いくらい。


 単純に俺が食べ過ぎなのだ。


 最近の困ったことのひとつがこの食事量の増大だ。


 最初は肉体の強靱さを維持するためには必要だろうと思っていたのだが、地方全体で見ても冒険者の食事量が増えているという情報はない。


 宴もたけなわとなってきたところ草加さんが〆のデザートを頼んで……いや、ハラミかよ。


 支払いは結局割り勘にしておいた。

 色々と話し合った結果、こういう時くらいは対等でいこうとのことであった。



 宍戸君たちと別れて帰り道をゆっくりと走っていく。


 しんしんと降る雪が夜の街灯に照らされるとぼう、とぼやけて幻想的だ。


 これまで俺は基本的にソロでダンジョンを踏破してきた。

 八坂女史や宍戸君たちと潜る方が例外になるくらいには数をこなしている。

 それによって庭のダンジョンも変化するかと思っていたが一向にその気配はなく。


 だが今回攻めた……いや、逃げたのは二重ダンジョンだ。

 前回レアドロップダンジョンが拡張されたのは大賀山の二重ダンジョンを攻略したその日。


 もし予想が当たっているのであれば……。


 この胸に渦巻いているのは好奇心か、それとも不安か。

 おそらくはその二つを軸にない交ぜになったものがただ消化しきれずにわだかまっているのだろう。


 家にたどり着く。

 新雪を踏みしだいて庭へと向かう。


 スマホのダンジョンマップアプリを開いて――まぶしいな。


 顔をあげると、庭にはコート姿の青年が厳しい顔をこちらに向けて声をぶつけてくる。

 彼は顔や耳が真っ赤であることから随分と待っていたようだ。


「里見司さんですね。少しご同行願えませんか?」


 ちら、と顔写真付きの身分証名称……警察手帳を見せる。

 こちらがじっと身構えると、彼は大きく手を振って否定して見せた。


「ああいえ、なんらかの嫌疑がかかっているというわけではなく……。協会長が呼んでいるので」


 ……協会長?

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