14 トカゲの尻尾切り・後編
鉄杖と曲刀がぶつかり合う。
幾度となく金属が甲高い声を上げる。
「――!」
〈鑑定〉曰く、眼前の敵はリザードマン・ジェネラルという。
トカゲの将軍はシュルルと舌を鳴らし暴風のような連撃を放ち続ける。
杖で何度弾いても相手の体幹はブレず、それどころか威力が上がってくる始末。
この感じ大賀山のオーガよりも数段強いな。
だけどこいつは戦い慣れていない。
付け焼き刃の技能と圧倒的なフィジカルで戦っている……ような。
つまりは俺と同じタイプってことだ。
もしかすると尋常じゃない手段で力をつけているのかもしれない。
まあそこは後で考えればいいだろう。
敵の攻撃は馬鹿みたいな力押しではある。
しかし技量があってなお衝突のたびに杖が曲がりつつあった。
杖ってか鉄パイプみたいになってら。
脇見する暇はないが宍戸君たちはこの場から離脱しただろうか。
ダンジョンが崩れてきているし攻撃からかばえるわけでもないのでもうこの広間から離れてくれていないと困る。
「んでもって俺も時間をかけられるわけでもない……しっ!」
ぎぃん、と火花が散る。
こちらの方が若干押されている。
フィジカルだけなら俺より上かもしれないな。
ちなみに俺は技を修めていない。
魔術とか魔法も使えないので単純に力が強くて棒の扱いが上手いだけの人である。
必殺技とか憧れるよね。
これまではドーピングされた肉体でごり押しができたが今回はその長所で負けている。
相手が強い分野でわざわざ戦う必要はない。
唯一俺が勝っているであろう分野は技巧だ。
アイテム由来のものではあるが現状、俺の強みのひとつだ。
活路を求めるならばそこをフルに活用するしかない。
「――!」
トカゲ将軍の鳴き声。
あからさまにこちらの劣勢に喜色満面といったところ。
だがそれもあと少しだ。
二度、三度。
相手の曲刀の同じ場所を万の鉄杖で打ち付けていく。
もちろんこちらの杖は別の箇所をぶつけている。
トカゲが叫ぶ。
巨躯は渾身の一撃を振るい、俺のパリィは力尽くでかわされた。
大きく後ずさりをする俺にたたみかける将軍。
「待ってたぜ、この瞬間をよ!」
「?!」
トカゲが振るう曲刀にヒビが入り刀身がわずかに欠けていく。
今の俺にとってこの亀裂に攻撃を撃ち込むことは児戯に等しい。
吸い込まれるように鉄杖が亀裂を叩き――断末魔の声を上げる剣。
杖はギリギリのところを保っている。
敵は放心。
保って一発、力比べは不利。
――今だ!
無音になる世界。
ぐにゃぐにゃに曲がった杖は綺麗にリザードマンジェネラルの頭部を砕いた。
粒子になって消えていく敵。
ボスよりもはるかに強いイレギュラーの守護者。
やつは強敵と言って差し支えがない強さで、できればもっと強い装備を手に入れてから挑みたい相手だった。
敵の魔石を回収して階段を駆け上がっていく。
疲れが影響しているのか階段が長く感じられる。
……いや、本当に長い!
ダンジョン崩壊の速度は増していて逃げ切れるか否かのデッドヒートを演じざるをえない。
上階にたどり着くとボロボロの草加さんが「案内します!」と待ち構えてくれていた。
正直ここで迷っていたら確実に虚無の海に飲み込まれていたので助かるとしか言い様がない。
脇にがっしりと少女を抱え、彼女の言葉通りに迷宮を踏破していく。
「このさききききき」
「舌噛むぞ!」
こちらの速度の出し過ぎによって頭をガクンガクンと動かす草加さん。
彼女は素早くスマホをこちらに渡して地図を見せる。
黒い海がダンジョンを飲み込んでいく。
ここまで急に来られると執念じみたものを感じてしまうほどである。
草加さんは舌を噛むのを恐れずに叫ぶ。
「階段!」
歩くのも面倒になるくらい長い階段を十何段も飛ばしながら駆け上がっていく。
二段飛ばしすら高校の時以来だってのに!
しかもそろそろ踏み場所も崩れそうだ。
せめてここを抜けきる!
跳べ! 跳べ!
「跳べっ!」
右足の親指に思い切り力を入れて――跳躍する。
身体の制御を完全に失ったジャンプは、しかしダンジョンの崩壊速度をやや上回る。
三段跳びの選手よりも高跳びの選手よりも長く高く跳び……青いラインを通りすぎていく。
通常のダンジョンに浮きながら再侵入。
当然重力はこちらのことを忘れてはくれずしたたかに頭と背中を地面に打ち付ける。
い、胃の中身が出そう……。
しばらく目を回したあと、草加さんの慌てた声とともに身体に預けられた重さが消えた。
「だ、大丈夫です?」
ちょっと西のイントネーションを思わせる言葉。
多分目の前に草加さんが居るんだろうけれどいま視界がぼやけてる……。
「……ダンジョンの崩壊は? いま視界がぼやけてて」
「大丈夫です。二重ダンジョンの上は崩れそうにないです。ダンジョンコアもまだ取ってないので」
彼女の言葉が終わるとガチャガチャと金属の音をさせながら集団がこちらに寄ってくる。
誰だろうかとの疑問はあったがすぐに氷解した。
宍戸君たちだ。
「里見さん大丈夫ですか?」
「棒高跳びみてーに跳んできたな」
「南条、回復お願い」
宍戸君、吉岡君、伊織君の声が混ざっている。
その直後に南条さんの声とともに暖色の、暖かな光が視界を包む。
視界が徐々に晴れてきたのは回復魔法のおかげか。
迷宮内であることには変わりないがまるで平時であるかのようなぽやぽやとした面持ちで南条さんはこちらに訊ねてくる。
「まだ痛むところはありませんか?」
大丈夫、と返そうとしたところで特大の腹の虫が鳴り響く。
……俺の腹から。
「か、回復魔法は本人がため込んだエネルギーで補うので」
慌てる南条さん。
俺はため息をついて、一言。
「今日は焼き肉だな」
おーっ! と拳を上げる宍戸君たち。
……ひとりのつもりだったんだけどなあ。
まあいいか。




