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10 有望株

 午後四時頃、とある高校の部室棟に集まる俺と宍戸君たち。

 どうやらとあるこの公立高校の一室にダンジョンが生まれたとのことなので宍戸君から相談を受けたのだ。


 ちょっと一緒に潜っておきませんか?

 と。


 俺がチャットで『平日だけど大丈夫?』と訊ねると、彼は『通ってる高校なんで』と返してきた。

 まあ今度一緒にダンジョン行こうみたいなことは言っていたし……。


 ということで俺はアプリでダンジョン駆除の依頼を受注していた。


 剣道部の部室に生えたダンジョンはその手前の部屋である剣道場にまで侵食が広がっている。


 学ラン姿から冒険者が身につける作業服――作業服と言うもののちょっとしたスーツにも近い――に着替えている宍戸君たち五人組。


 彼らはざわついている校内で据わりが悪そうにしていた。

 多くの生徒・教職員が押しかけようとしている中、俺はぼやく。


「警備員の人は特別給でちょっとした贅沢ができるだろうな」

「こういう時ってお金が出るんですか?」

「……知らない」


 宍戸君の問いかけにこちらが正直に答えると他のメンバーからあからさまにため息がながれてくる。

 適当なことを言うもんじゃないな……。


「本当にこの人で大丈夫なんか?」

「大賀山のボスから逃げるオレたちよりかは強いだろ」


 などと気の強そうな女子とぶっきらぼうな男子がそれぞれ俺を見定めてくる。

 明確になめられているということであまりいい気はしないが、おっとりとした女子と眼鏡の男子が彼らをいさめるのでここはなにも言わないでおく。


 困ったように笑う宍戸君。

 まあ自分たちのリーダーが勝手に知らないお兄さんを助っ人として連れてきているのだからあまり面白くはないだろうな。


「里見さんは連携を考えずに自分の判断でやっちゃってください」

「いいのかい?」


 向こうが合わせるのであればそのように甘えるけれど、そうなってしまえば戦力としてはむしろ減退するのではないだろうか。


 そんな考えはお見通しとばかりにおっとりとした女子が胸を張る。


「私たちのチームワークはひとり入ったくらいでは破綻せず、むしろ強くさせてみせますよ」


 おお、すっげえ自信。

 俺はソロでやっているので連携とかは上手くできない。


 なので俺を上手く組み込んでくれるのであれば大歓迎である。


 メンバーそれぞれが侵入前のルーティンをしている中、パンパンと手を叩いて切り上げさせる宍戸君。


 集中している時に大きな音を出されるとキレるか聞こえないかのどちらかの俺としては不安を覚える所作である。


 しかしメンバーはそれに慣れているようですっと気負いも緊張も見られない顔つきに変わった。


「よし、じゃあ行こうか」


 えいえいおーと拳を上げる宍戸君たち。


 俺も小さく拳を挙げてみた。

 野次馬の生徒が不審者を見る目つきでこちらを見ていた。


 ……悲しい。



 ダンジョンを征く。


 先頭はぶっきらぼうな男子、その次は俺と言った具合である。


「〈鑑定〉の技能を上げたい際にはとにかく触ってみたり模写してみたりするのが一番らしいですよ」

「それはやってるなあ……」


 道中で我慢しきれずと言った様子で宍戸君がこちらに助言をする。


 刀とかネックレスとか資料になるからスケッチはよくやっている。

 水薬のビンや液体の質感を描き分けたりとやってみてはいるがどうにも技能値が上がってくれないのだ。


 ただこれをやっていると静物デッサンとかを死ぬほどやらされてた時期の複雑な感情と向き合うことになるので精神衛生上はよくない。

 そういえば本当の天才はいまどこでなにをしているのだろうか。


 気にはなるもののネットで他人を調べないことにしているのでやらないけれど。


「本職はイラストレーターだからデッサンくらいやるし、暇な時は解剖学の本とかに目を通してはいるよ」


 とはいえ最近は以前よりやれて……いや、やってるわ。

 なんなら健康になった分以前より量も質も増えてるわ。


 こちらの発言になにか驚くところがあったのか宍戸君たちは口々におしゃべりを始める。


「えっ、本職が冒険者じゃなかったんですか」

「プロのイラストレーターだって」

「えっちな絵描いてるんですか?」

「そんなんウチらに言えんやろ……」

「……お前ら、一応ここはダンジョンだぞ」


 それぞれが感想を述べたあとにぶっきらぼうな男子が一言で気を引き締めさせる。

 そこからは余計なことを喋らずに冒険者業に関係のあることしか話さなくなってきているあたりちゃんとしている。


 若い子を見てちゃんとしているとか思い始めるのっておじさんになってきた証拠っぽいよな……。


「――敵」


 気の強い女子が短く発する。

 次の瞬間には全員が武器を抜いて三叉路の二方向に向かって構えた。


 出てきたのは人型のトカゲ・リザードマンが四体。

 ざっくり言うとホブゴブリンより強く普通のオーガより劣るくらい……らしい。


 この前はホブゴブリン相手に苦戦していたようだが……。


 俺は新しく庭で手に入った杖を構える。

 〈(よろず)の鉄杖〉、あらゆる武術系の技能の成長率が著しくあがるというものだ。

 また50Lvの〈杖術〉スキルの補正が入る。


 この間の〈巧者の木刀〉が80Lvのプラス補正だったのでそこは落ちるが耐久性やらを含めると確実に杖のほうが優れている。


 杖を構えて前に出ようとすると眼鏡の男子が待ったをかける。


「僕たちが危なくなったときはお願いします」

「了解。こっちの判断で動くから早く動きすぎて怒らないでくれよな」


 とおどけてみるも彼らの戦いぶりは圧倒的なものだった。


 おっとりとした女子がなんらかの魔法をかけて能力を向上させる。

 宍戸君とぶっきらぼうな男子が敵を引き受ける。


 眼鏡の男子が魔法の盾で相手の飛び道具を無効化させ、一瞬の隙を狙って気の強い女子が後衛を片付ける。


 そこから先は特筆することがないほどの完勝であった。


 正直、一週間ほど前までホブゴブリン相手に逃げていたチームとは思えない。


 疲労の差はあるにしても比較にならないほど。


 たまにこういう人種がいるらしい。

 今のところは大したことのない実力でもひとつひとつレベルを上げていく、その上昇率がとんでもない人間が。


 天才という言葉で片付けるにはもったいない、しかし有望であるには変わりない者。


 そういえば協会でもやけに注目されていたと思っていたけれど、そういうことだったのだろう。


 ……ここ俺必要かな?

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