第九話
紫蘭が断っても熱は冷めないようで、とうとう
「じゃ実戦でこれを試したい」と言い出すアスラ。
「ならば、仕事をして来い」との紫蘭のお達しで今度は女竜騎士━━忌竜とアスラの二人で魔の森へ向かうこととなった。
陽は暮れかけていたが、「ちょっとこの感覚無駄にしたくないんで」と、アスラ。
(じゃあおまえが行けば良かっただろ……
スイッチが入ると本当に面倒だな。またこいつ徹夜するつもりか?)
とは言わず「さっさとやれ」と語れなかったせいか少しイライラな紫蘭。
「じゃ、行ってきます〜」
見送ってから「……また爺さんたちと麦茶飲もうかな」と、屋内へ入っていった。その爺さんたちが再び青ざめたのは言うまでもない。
夕闇。
色とりどりの宝石の森は月明りの煌めきを待つ。
滅紫色の中蠢く黒い物体。
そこは日中紫蘭が退治した場はもうスライムたちであぶれており、この辺でまた竜が諭す。
「ここにはスライムしかいないし、ある程度は力を出しても平気だろう。
獣人たちは感情を歌に乗せて魔法を使うがまあ天人はしなくとも大丈夫だ。それに先も言った通り君は自分でもわからないくらいに防衛しながら力を出している。
つまりまあ……今の感情でも爆発すれば良い」
「へへっ」と嬉しそうに「付き合わせて悪いっすね」と伝え、竜は「まあ暇だしな」と言う。
伝えることは伝えたと、アスラは先程教わった感覚を試す。
パチンと両手を拝む様に叩き、またゆっくりと開く。
最初は線香花火のような情緒ある火花。
それが止み、それから出たらしき光を膜のようなものが包み込む。
(って言っても……わ、わかんね〜
ま、俺昔から体動かすの好きだし、戦うのすきだし
実際面白かったしなぁ
それでテキトーしてたらここに来ちゃったし……
でももうちょい、鬼気迫る戦いしてみてーーな
そだ。火の席貰うため昔パーティ組んでた奴と戦ったけど……ああいうの。良いなぁ。
ま、こう言うのを乗せれってことだろ)
と、魔法にイメージを乗せるため、昔のパーティメンバーを思い出していた。
それを竜が少し離れた魔石の木の横で眺めていると、
「━━爆縮せよ‼︎俺のたまし〜」
指パッチンした。
まるでヒーローの登場。
ポージングもバッチリ。
視界が白くなり、轟音。
「っ‼︎⁉︎」
竜は想像以上の熱風と爆発で咄嗟にバリアを張る。更に向こうの関所の方も目を向け守ろうとしたが、先に内部にいた枢機卿たちが行動していたらしくほっ、と息を吐く。
それから距離を取った竜が目を開く。
見えるは本人の感情を乗せたせいか、
ピンクや水色に輝く煙と、きのこ雲。
地面は真っ黒。
魔石の木々はその周辺が無くなり、変わりに黒い大地にキラキラとその欠片が輝いているのが見えた。
残った魔石の木も、焦げ、影の様に跡を残した。
「ひゃーーー」
やっちゃったよりも楽しかったと言ったトーンで悲鳴をあげる爆破の元。
アスラ自身は無傷。
しかし着ていたジャージは上はどっかいき、裸。
下も無。
竜自身は無性。今は女の子の姿を借りているので、アスラはとりあえず両手で隠していた。
「これから制御するんだぞ」と、諭す。
「ほら、人は大変だな」
と、羽織っていたマントを渡した。
流石に下半身を隠すためなので申し訳なく、「え?これいいの?」と聞く。
「また作って貰う。それに、私にとっては飾りに近い……、」しかしと続ける。「リゼ……君のいうローゼンベルグから貰ったのだ。洗って返せ」とちゃんと念を押す。
「おっ、了解!! ありがとうございま〜す」と、それを腰に巻いて、更に奥に行こうとするアスラ。それに、
「待て」と静止する竜。
しかし、「まだイけそうっすけど!?」と、心底楽しそうにするので、ため息をつく。意外にも早く終わりまだまだアスラは足りない様子。かと言って
「ほら……、迷わない様携帯を渡しておこう君のより性能良いからな」と、取り出す。
首にぶら下げるタイプで、「一応バリア張るから破壊とかは気にするな。多分今の魔法くらいなら破られない」と、その機器に手をかざし、渡す。
渡されて早々に、
「エ、俺のタブレットより繋がんの早い……それになんか頑丈すね」と試し使い。それから首にかけた。
━━なんでネックレス式? 中々ないぞと思ったけど……
この竜がホントは忘れっぽいとかかなぁ?
抜けてるイメージないけどな……
ア……いや。枢機卿大好きなら師匠みたいに一途馬鹿タイプか。
なら納得。
と、思っていると、アスラにも毒耐性のバリアと自らの魔石のお守りを持たせて、
「明けには帰って来い。あの男にも伝えておこう」と、竜が。
「ああ、師匠に伝えといて。じゃ」と、さっそく飛び出す。
それから三日ほど山籠りしたアスラ。
叱られるよりも、魔石の大量に手に入ったので、感謝されたのは別。
ちなみにしっかりタブレットは壊されており、ちょっと泣きそうになった竜がいた。