第四十五話
鬼人――騎士団員のような魔石を体内に入れた者たちが魔法の過剰使用や精神的負荷で侵されて体のどこかしらが結晶化した者をそういう。
緑青色の液体化した体を人形に戻す。
なるべく気温で凍らないように操る水は常に沸騰していた。
そのせいか体が半透明で沸騰時に出る泡がコポコポ音を立てる。そんな状態のレイラが問いかける。
「? そこまで痴呆になったのか?」
「黙れ。おまえに負けたあの時からどうやって倒そうか考えた。……依頼はまだ有効らしいからな。ああ、それに誇るといい。おまえの懸賞も随分高いぞ。
これでオレの兵隊を作って……国を作って……、」
ぶつぶつ喋り始めるレイラ。指に髪を水を絡ませ遊ぶ。めちゃくちゃだなと思いながら紫蘭はずっと騎士たちに向けた。
随分鈍くなっており、姿も人間に戻っていた。二人は地に伏しており踵を蹴ってそこまで氷を這わして凍らせた。レイラを警戒してチラッと見るが、「オレは水天にもなって、ははっ……」と揺蕩う水、天井や床を行ったり来たり蠢き、未だ妄想中。
そちらは放っておいて残りの恐らく副隊長のオーガに一気に間合いを詰めて腰から抜刀して下から上に撫で切り。切り口は氷となって、血の代わりに赤の多種多様な花を咲かせた。
その一撃でシュウと音を立てて縮み倒れる副隊長。ここにいる者たちは凍傷は免れないが自業自得と思い、ようやく変動する水に向かう。まだ「また全ての飲み水にでもオレの魔石でも……」「オレの国は植民地にされた故郷が良いな……」と上を浮遊しながら呟いていた。
紫蘭もそれを習って翼を広げる。忍びよって回し蹴りを食らわす。ホールの窓にレイラが激突。その衝撃で窓は割れ、レイラは吹雪く外へ放り出された。
空中で身を翻して体勢を整えた。
「っ――……、腕もないくせに……。相打ちしてくれると思ったのに、役に立たないやつばかりだ。……波の綾、流嚇」
沸騰したままの体を中心に周りの雪を水に変えて空中に波が出現する。
それを紫蘭は凍らせる。
美しい波の像が出来上がりそのまま落下していった。それにレイラは「ち」と舌打ちする。
しかし熱湯のようで一部紫蘭は被ってしまい。元々ガラスのひび割れた状態だったため足がもげた。レイラはそれには上機嫌になり髪の辺りの水を指で絡ませる。
紫蘭が放置していた内に、背からは黄の鳥の翼の骨から枝分かれしたような物が生えていた。魔法で浮いているため飛ぶためというより周りの空気から水を集めるための目的のほうが強いらしく枝分かれした一部がなくなっていた。
嬉しそうに蠢く水の触手。
「ははっ、……やっと堕とすことができるのか。オレの手で……唸る溟海、鬨をあげる……波よ」
視界が遮られるくらいの白魔。その中でざああと燐葉色の流水が流れて踊る。紫蘭はまた羽ばたきながら降る玉屑を頼りに躱し凍らせようとする。しかし高い温度の液体はあまり凍らず、雲とさせる。
レイラは「……はは」と楽しそうに寄せては返し。幾重も波打って来るそれらを先程のように躱す。「躱すなよ……」と水泡を放っていく。波を躱してあしらっていた紫蘭は急に現れた泡に突っ込みそうになり寸でとまるが「……っ! しまった」と残っていた片足だけは波に攫われてしまった。
対処している間紫蘭はレイラの背から出る羽根の状態を確認していた。どんどん消費していく枝分かれしていたものはとうとう鳥の翼の骨だけになった。
波も潮が引くように量はすくなくなっていく。レイラはまだきがついていないようで天候からも助けを借りる。
「冥雹よ。玉屑と共に揺蕩い聖女と共に導いてくれ……」
唄う白魔。更に雪は激しさを増す。レイラは自分の力が消えたことに焦り出す。魔力の消費が比較的少ない水のバリアや矢を放つ。それらも凍っていき、吹雪で視界も白くなっていく。レイラは「……――くっ」と悔しさと凍える寒さで身が凍りだす。
沸騰して外気の温度の対策をしていたはずが魔力が底をつき始めたためかレイラの体が凍りだす。
「はっ!? ッッ!! …………クソ、、クソッ」
これ以上固まらないように「烈水……潤濶せよ!!」と提唱するも末端から凍っていく。「っ……ひ」と喉に悲鳴が張り付く。
降る雪は段々と雹になっていく。岩大の雹が降り出し熱水でどうにか溶かしたり躱したりしていく。
とうとう白い雲から隕石並の氷塊が現れレイラは「……!」と思考が周りの景色と同じく白くなってしまった。その刹那。紫蘭が飛んで撫で切り。孔雀石マカライトと燐葉石。
先になるにつれて琥珀色となる。完全に固まってからレイラだったものは落下していった。「そろそろ限界だ」と頭を抱える紫蘭。
「……はぁ、……み、ミゼーア……」
堕ちた部下の所在を探ろうとしたが、無理矢理復活したこと、体も血は出ないが痛みはあるので紫蘭もレイラの後を追う様に白魔の中に堕ちていった。その墜落に砕けた体の氷が筋となって輝いた。