第三十四話
翌朝。
夜中小さな丘の上の教会に戻ったアスラと紫蘭。
雪もほぼ溶けていた。
しかし空からはまだちらちらと粉が降ったり止んだり。
神父に昨日の被害を聞くと、人の方は軽症。警邏に入って偵察していたアルフェルドの早期の行動が功を奏した。
一番は民家の被害。
その住民も暫くは教会の横の孤児院の空き部屋に避難しているとのこと。
結局あのまま、ソフィーは帰ってきていなかったようで、それを聞き、枷のつけっぱなしの紫蘭はわかりやすいくらいに落ち込んでいた。
しかし朝になると俺が見つける感を出していた。
師のそれをアスラはちょっと面白そうに見ながら、ドア側に立つ者をチラ見する。
「そこまで被害がなく、安心しました」
警邏の者たちの報告を聞きアスラは朝食を頂く。
ちょうどその時、教会にアルフェルドが来た。
アスラの泊まっている建物の方に来たが、神父の、
「昨日はお早い対応本当にありがとうございます!市長や今までお勤めされていた警邏の方々も平に感謝しておりました」としっかり捕まえられていた。
「あら、それがワタシのお仕事だったし、とりあえず警邏は不審なヒトいなかったから大丈夫よ」
と言いながらもその心内は『聖女様』とレイラのこと。思いながらニコリと微笑む。
「ありがとうございますっ」と、神父が再度感謝を述べ、「紅茶をお持ちしますので」と、紅茶を淹れに行く。
それを見届けてから、
「おはようお二人とも」
と、アルフェルドが、テーブルの椅子に座る。
紫蘭は一瞥して無言。
外を見ていた。
「もーー拗ねちゃって」
「そろそろ師匠の手枷とマスク取ったら?」
と、恐る恐る進言するアスラ。
「うるさいからこのままでもいいでしょう」
と、アルフェルド。
紫蘭はまたアルフェルドを見て、
ミゼーア……と言いたげな顔をしながら再び外を眺める。それの様子を見て、
━━まあ、弟子の俺よりも実は周知だったのは教会入って驚いたけど……
紫蘭様の扱いも粗々なんだよなぁ。
大丈夫なら何も言わねぇけど……。
と、アスラは彼らがもっと昔。
アルフェルドが自分たちとパーティを組む前から一応教会の一員なっていることを彼らパーティが入ってから知ったアスラ。
元亡国の王子でその暗殺の腕を教会に買われた、とその時聞いた。
また、ローゼンベルグ卿の様に竜と『契約』もしていた。その好きな子――竜のせいでおしゃれに目覚めた。
アスラたちはそれを聞いた時。否、今もその経緯に驚いている。
(見かけによらねーよなぁ、みんな……。
ルシは天使族に拾われたらしーし、レイラくらいじゃないか?
あいつが俺と歴長いよなぁ、あいつからだっけ? パーティ組もうってったの……。
あいつ師匠から聞いたのだと、何回か戦ってたんだな羨ま)
と、ぼーっとアスラが考えていると、
「何?今日もアタシ綺麗だから見惚れたの?」
「いや、予期せずみんな集まれたの嬉しかったなって」
へへ、とご飯を平らげて無邪気に笑う。
「あら、流石アスラちゃんね」と嬉しがった。
「どうぞ」
と、神父が紅茶をアルフェルドに差し出す。
「ありがとう」と、ちびちびと飲みつつ「もう支度できた?」
「もうちょっと待って〜」とアスラ。
よくやく食べ終えたアスラ。
食後の紅茶をガブガブ飲む。
「まだいいわ。お話あるし」
紫蘭は耳を傾けつつ、
━━ミゼーア、必ず見つけ出してやる。
アルフェルドのやつ、距離置いたら締め付ける手枷つけおって……口の取れたら文句の一つでも言っておこうか
と、人知れず決心と愚痴。
その心内を知ってか知らずか「静かでいいわね」と、呟くアルフェルド。
睨んでいるのを察してか、「そんな見つめないで頂戴」と、軽くあしらう。
「そうそう。昨日アナタたちと別れてから、三人で食事会しようとしたんだけど……」
「え?! ずるい!!」とアスラ。その反応に待ってましたと言わんばかりに
「今度は四人で、ね?」と言ってから「ルシちゃんだけ先に帰っちゃって、また真面目にも残業してたのよ。
で、朝一部下のコにまとめた資料…粉とかオーガとか預けて本部の研究部…第三部隊に渡したみたいなのよ。
もしかしたら、結果わかってるかもしれないわ」
「ルシ真面目すぎ」と、再び注いだ紅茶を丸呑み。
「じゃ、そろそろ行きますか」と、窓の外を見ていた紫蘭の手を引き神父の「ソフィーを……お願いします」
その言葉を聞いて外の魔道車に向かう。
もちろんだと、神父に頷くもズルズルと引っ張られていく紫蘭。
「もが」と、不服そうにした。
━━手を引くのは俺を離さんためか。
昨日のオーガもだが、ミゼーアが心配だ。あのあとどこにいったのか。
早く行かねば………
と、思いながらもされるがまま。紫蘭はまた車に押し込められた。善い止めの薬は飲めないので覚悟を決めた。
「もうわかってんの? 結果」と、動く気のないアスラ。
「そりゃもーーーわかってるに決まってるわよ。
優秀な我らが教会研究部よ? 自らの体さえ実験に使う変態のいる部署よ?」と、アルフェルド。
「お、おお、そうだったわー」
と、乗りこんでから、「紫蘭様、酔わないすか?」
と、紫蘭に聞いた。
普段も今回ここに来た時も自ら飛んで行くから。
もしかしたら、魔道車は初めてかもと思ったアスラは紫蘭に聞いてみた。
しかし紫蘭はその問いに被りを振った。
「なら、いいっすけど。
あとあのソフィーって子と他の町、村行ったんですよね?
その辺は伝えました?」
今度は頷いた紫蘭。
紙に書いてルシフェルたちに渡した旨をジェスチャーした。
そう伝えながら、
━━何だか昔喋れなかった時の事を思い出すな…
皆良く俺の言わんとしてる事を汲み取れるな
と、喋れなかった時を思い出す。
紫蘭は二人の会話をさらっと聞きながら、走る車の外を眺めた。
「それならいいっすけど
アル、やっぱ反教会の人間か?」
「それなら個々に効く毒とか出すわよ。
天人も一応効く子は効くし、半不老だし死ににくい子もいる筈。
嫌いならさっくり全滅させるわよ」
と、恐ろしいことを言うアルフェルドに「ひぇ」というアスラ。アルフェルドは続けて、
「あと風評被害の事とかね
今回は教会の威を示しちゃったじゃないの
あ、でも組織名胡蝶蘭らしいから…一応聞くけど
紫蘭様その辺は? 関わってないわよね?」と聞く。
聞かれたので外から彼らに向かってまた首を振る紫蘭。
「そう、貴方様のお名前入ってる上に蝶…
ちょうど教会の正式名聖蛾教会となんだか対になってるの。余計気になっちゃって、多分……」
と、アルフェルドが伝えた。
「そういう意味じゃ風評被害は被ってるっすね、師匠」
「確かに」
━━胡蝶蘭か。前に枢機卿たちが水がどうのと言うていたな。そのものたちの事か。
こうも人影を出さないあたり、教会の誰かしらと繋がっていそうだな。アルフェルドはその辺わかっているのか? ま、隠密隊たちもと関わるだろうし、
ミゼーアを苦しめているのも彼ら、という事かな?
と、紫蘭は思い、空の向こう。帝都の上。
きらりと輝く浮遊石を優しく見つめた。