第三十三話
━━「水か……羨ましいな」
港町のホテル。
人はもちろん、ホテルマンさえも格式高く見える。
装飾もシャンデリアに混じる光を灯し暖かみを感じる魔石。
待合所やフロント前のソファなども少しキラキラしており、ゆったり安らぎを与える魔石が含まれているのがわかる。
見ただけで上位ランクと思えるそこの一部屋。
昼の鎧は脱ぎ捨て、その辺に。
ご飯や飲料水等のゴミも散らかし放題。
元はこういう性分。
普段の几帳面な彼、レイラを知るものはこの汚部屋を見たら「どうした!?」と言われる程。
変えるつもりは無い。と、伝えている。
実際、今レイラが招待してここにいるアルフェルドも特に何も言わず、比較的に綺麗なテーブルを使っていた。
戦闘も一人の事が多い。のは、アスラ並みに戦闘狂なのがバレない為。
その様な彼が、スウェットに着替え外を見る。
山は雪灯に夕闇から照り、荘厳。誰の力かわかる分、不愉快だなと、レイラは発泡酒の空き缶をその辺に投げ捨てる。
それに悔しさを噛み締め髪を指に絡ませる。
実は誰にも知られていないし、言ってはいないが、紫蘭と戦った事はあった。
「あなたを倒してから、水天に……」
そう言って挑んだあの頃。
氷と水。
しかも紫蘭の住む氷城。
恥も外聞も捨てて、炎の魔石を付与した剣を持って行った。
が、大敗。
その城の王の謁見の間の様な場。
破れて膝をつき、
「な、なぜ……?」
と、炎の魔石を使って、氷を溶かし水とし背水の陣から地の利とした作戦を考えていた。
どうにか功を奏し、紫蘭の片腕を取る事が出来た。
それは氷塊となってその辺に転がっている。
結果的にそれしか爪痕を残せなかった。
レイラが戦闘にのめり込みすぎたせいで、彼自身はあまり覚えていない。
熱湯となって紫蘭に襲いかかったが、魔力の違い。
天人となってからまだ扱いきれていないそれ。
いつの間にか膝をついたこの状態であった。
汗か水か涙でびちゃびちゃで、タオルを投げながら、
「ミゼーアの、彼女の席。誰も座らせるつもりはない。去るが良い。また、挑むなら相手はしよう」と、紫蘭が諭す。
返事のないレイラに対して「水が使えるとは、羨ましいな」と、羨望の言葉を呟いた。
***
「なんとなく、紫蘭の言葉が忘れられない。腹が立つ」
「あら。まだやる気なのね」
空気を察して黙って待ってくれたアルフェルドが口を開く。愚痴を黙って聞いてくれるから酔いも相まって紫蘭と戦ったことがあることを話していた。
会話しながら、アルフェルドは掃除に取りかかった。そして、
「中々第二部隊大変そうね」と聞く。
「ああ、アクア卿の周りに侍る側近たちや、本部にいる第二部隊……卿の息のかかった者は過激でな。世界を統べるならもっと兵隊を。精神系の魔石を調達するべきだという思想だ。
特に水は人には必要だろう? だから、水使いを異様に求めているみたいだ。
オレはまた紫蘭と戦うだけしか頭にないんだがな」
オレはそれよりも、紫蘭と戦えるなら利用してやる全てと思いながらも口には出さずに胸に秘めた。だから実際はレイラも技術はしっかり盗んでおりたまに情報収集などをアルフェルドと共に行うこともあった。今もその話し合いが終わったところの愚痴大会になっていた。
「まあ、そんな向上心あるなら大丈夫じゃない? また挑むつもりなんでしょう?」
「ああ、そのつもりで計画してる」
「……そ、そう?」
と賛同しながらホテルと言えど、従業員に申し訳なくなってきたのでアルフェルドは掃除を始めた。
(ルシフェルちゃん帰らせてよかったわ。
あの子正義感強いし、私より綺麗好きだし…この子も綺麗好き、おしゃれ好きだった筈なんだけど……。
それに、嘘が混じっている気がするわね……、嘘だけしかないかもしれないわ。魔石摂取って魔物のものに限られていたはず。獣人とかのものは流石にないと思うけど、やってたら良くて人格変わったり……オーガか鬼人かになるとか不死鳥様がいっていたわね。
この辺りも研究部署とか調査したりしなきゃいけないわ)
そうお互い胸に秘めながら、「さ、レイラちゃん。手、動かして?」
と、掃除を促し夜が過ぎていった。