第三十二話
オーガ種。
肌は赤や青様々。
成人男性二人分くらいの身長。
鬼人という人間の姿形にツノのみが生えた存在から進化、又は退化した種族、という前の状態がある。
普通の魔物とは少し違う過程を持つ種族。
彼らが疑問に思っているのはそのオーガの前の状態である鬼人の目撃情報が出ていないのに、突然出没したから。
━━いや。魔物防止の壁があるだけで、関所があるわけじゃない。
鬼人が来ていたとしても、フードさえすればバレない可能性もあるか……。
と、ルシフェルは思った。
「誰がここにいたかはまだその辺の貿易会社から聞き取り中だ」とレイラ。
「ありがとうレイラ」
「明日、これと別件でここで他国と国の政治家が会議するらしい。普段守護してる第四部隊はもちろん。
俺たち第二と第一部隊も一緒に受け持つそうだが、聞いていたか?」
「いや? 僕は通信機なんてほぼ見ないからな」
と、貰った調書を見つつルシフェルは答えた。
「ああ、そうだろうな」と返事したレイラの視線はルシフェルの後ろの「おなかすいたーー」「もご」だの口々に言っている有象無象の一人。
彼らを見ながらルシフェルはレイラの心情を理解していた。
他の者たちと同様、上に上がるにはあの人を倒さなきゃ行けないだろうからと、目の前の旧知を思う。
それを宥めるかどうか考えてからやめたルシフェルは後ろの三人に、「ほら、宿帰るぞ」と伝えた。
「そうねぇ」と賛同するアルフェルド。
「俺と師匠は教会に帰るわ。あの後気になるし」と、紫蘭の肩を組む。
「すまん、頼む」
「あ水天様? そのままでお願いよ」
「?! もご……」
枷をつけられたまま帰らせられる紫蘭。内心だけジタバタする紫蘭を他所に、皆思い思いの行動をとる。
「っと、ルシ。俺は一回本部帰るわ。結果出てそうだし」
「じゃ、アタシも帰るわ。
ルシちゃん後で教えたげるから……いい? ここの警邏隊の人たちは特に関係ないみたいだし。ただ、この街を守る以外は、怪しい動きもなかったわ。……じゃあ紫蘭様、アスラちゃん明日ね」
「わかった」と言うルシフェルの言葉を聞いてアスラは第二部隊の用意してくれた車に紫蘭を押して詰め込んで「じゃ」と言って乗りこんだ。
二人を見送ってからレイラが、
「お前たちで紫蘭様どうにかして退かせる事はできないか?」
「やきもち?あ、嫉妬美しさに、とか?それともアスラに…?!」とアルフェルド。
茶化すアルフェルドを小突いてから、
「おまえの気持ちはわかるが、私もアスラと戦って奴は火に。
私は隊長となったが、なんら悔いもない。おまえも決闘でも申し込んでみるといいじゃないか」
きっとスッキリすると、提案してみた。しかしくるくると髪を指で絡ませる仕草をして困ったような或いは呆れるような顔をするレイラ。
「絶対殺す気で来るじゃないか……。まあそれも燃えるかもしれないが。
そもそも教会が何回か落ちぶれたのあの人のせいだろ? あの人が暴れたせいだったろ? 習ったよな?……どうにかしてくれ。新しい風吹かせるのもいいと思わないのか?」
(少し弱気になるのは昔と変わらんな。
変わった部分も多いが……。
ま、どうにかしても勝つのがこいつだから、いつかは戦うのだろうな。もしかしたら、僕が知らないだけでアスラのように騎士団に入る前とかに戦っているかもしれないな……)
その返答に苦笑だけ返し、ルシフェルが思った。
アルフェルドもそう思ったのかやれやれと言った風。久しくあった元パーティメンバーがそこまで変わっていないところを見てホッとした二人。
「んもーーじゃ、今日は飲みましょ? 力にはなれないけど、愚痴、聞いてあげるわ! ……それに猪鹿蝶だっけ? あのサークルの話とか、第二部隊の事とか話してちょーーだい!」
「アル、猪鹿蝶じゃないぞ。アクア様が創設されたのだ。中々話も会ってな」
と、言ってからレイラは部下に警備等を任せて、残雪を踏みしめながら彼らについていった。




