第三十一話
「ミゼーアは関係ないっ」
と、紫蘭が後ろから出てきた。ミゼーア━━ソフィーのことを言われて不機嫌になりむくれる。
対抗するようにアルフェルドが、
「んもーー。
聖女さまじゃないって何度申し上げたら良いんですかー?
見た目は見目麗しくはあるんだけど……アスラちゃんから聞いてたけど、今もおつむは弱いのね」
と、金髪で太眉と凛々しい男。アルフェルド、と皆から呼ばれている者。瞳は美しく媚眼秋波。
肌の手入れ、メイクも怠っておらずその辺の女子よりも詳しいらしく、何度かルシフェルは手解きを受けていた。
「ああ、もう潜入していたの知っていらっしゃっていたのか」
「ん? 違うわ。潜入中の警邏の人に殴ったり、氷ぶつけたりしっかりと邪魔してくださっていたわ」
「あれはミゼーアを守る為……」
「ほら! 内容書いた紙、渡したでしょ?!」
「は? かみ……? ないよう?」
はてなの表情を浮かべる紫蘭。それに「お頭とか言われていた奴から!」と更に圧をかけるアルフェルド。
「あ、」と、懐から取り出す。目を泳がせてとりあえず内容を読んで調査中な事と『その女の子、怪しいから!」という内容。
「んもーーーすかぽんたんさんね」
「昔程ではなかろう。あれはおまえか。どうりで……」
「あら、昔は覚えてらっしゃるのね。最近の事は忘れてきたということはボケでも始まったのー?!」
と、続く漫才を横目にルシフェルはやっと到着し「おつー」と言いながらその暴れた後を見たアスラに
「おまえ…… 重役出勤か?」
とわざと苛立ちをみせてルシフェル。
「おお〜皆勢揃いじゃん!」
あえて無視するアスラ。「終わったの?」と、ルシフェルを見る。
「ああ、ぼくが来た時にはほぼ終わっている感じだったな」
と、ルシフェルが悔しそうに。しかし、「流石我がパーティリーダーと言ったところか」と、讃美を送る。そして、
「ここまで問題が出たんだ、さっさと港町のブツ。見に行かんとな」
「あーーーそうだな」
「炎天だろうシャキッとしろ」
「だ、だって〜」
「ああ、また燃焼したのか?」
「うぐっ……!」
「君もレイラも、限度を知らないのかわざとなのか……控えてくれ」
ルシフェルがアスラを諫めな言いながら、後ろで漫才を繰り広げる二人を呼ぶ。いつの間にか、紫蘭に手枷がついていた。
ルシフェルとアスラは?? と浮かべながらも、
「あ、性癖すよね、見なかったことにしますっ」と、ボソっとアスラ。
「おい。俺はミゼーアならば構わんがこれは違う」
「やーーね、この方が聖女様以外にこんなプレイ懇願するわけないじゃない! またお間抜けな行動しないためよ」
「俺はミゼーアのためなら善にも悪にもなってやる……!」
「はいはい」
「あ、ああ……なるほど」と、ジト目になりかけたルシフェル。
「で、その聖女様の転生者も関わりが?」
「ああ、数週間俺と行動していた。ここから徒歩や車で行ける範囲の町、村に病の者を治していたな、昔と何ら変わらん健気な様を見せてくれた。
その帰り、噴水広場で別れ際の話していた時にこの騒動だ……しかし、いつの間にいなくなったのか」
と、手枷というハンデが付いているのにも関わらず、器用に雪玉を弄び始めた。
「別れ際、なんて言いたのですか?」と、ルシフェルが聞いた。
「ふ、聞いてくれるか? いや、とりあえず逢瀬から話そうか……?」と、紫蘭が目を閉じて「そう、あれは……」と回想しかけたので、アルフェルドが、「はいはい、お熱いことで。行きましょう」と、皆を促した。
***
「もごもご」
とうとう手枷にマスクまで付いてしまった紫蘭と他三人が向かった港町。
魔道車で数分程度のそこ。
元は輸出入の入り口。
それに加えて各国の要人たちもここから来訪。
そのため、主要他国の特徴的な文化を取り入れた街並みをしており、区画でどこがどの国をイメージしたかよく分かるようになっている。
この帝国民にしてみれば、ここに行けばその国を少し楽しめる街全体がちょっとしたテーマパークとなっていた。
この港街からまっすぐ行った奥の山は手を加えられ、浮遊の魔石により、浮いている。
そこに別荘を構える富裕層も多くいる。
既に日も暮れたが、街灯のおかげで昼間の様に明るい街とその船着場に到着した。
「普段は第四部隊がここを守護しているんだが、ぼくら第一と第二がこの近くにいた事。この件があったこともあって…………、近々各国の会議があるらしく守備警備もお願いされてな」
「あー、大変だな。だからこんなに騎士団いるんだな」
「まあ、この件は元は第二だし。僕らは僕らで別件もあるから隊を分けているんだ。ところで、アルフェルド。君は一度戻るか?」
「そうねぇ、あのオーガちゃんの結果も知りたいし」
「もご……」と、紫蘭が反応する。アスラが少し憐れむ目で師を見た。
「隊長、大丈夫でしたか?」
と、待ち構えていた部下たちが車から出た四人を「こちらです」と案内する。
第一部隊ではない他の部隊の者の中の一人が彼らに気付いて少し嬉しそうにする。
胸元や肩の部分で第二部隊だとわかる様になっている。
第一部隊は獅子、ルシフェルの部隊。
そして第二は天秤座。他の十の部隊もそれぞれ紋章でわかる仕組みとなっている。その一人にルシフェルが喋りかけた。
「久しいな、レイラ」
「おお、ヴォルフガングか」と、レイラと呼ばれた男が反応した。そのあとに、「アスラとアルフェルドもいるのか」とその後ろを見る。
第二部隊隊長。
紫蘭以外の三人とパーティメンバーを組んでいた一人。
当時は後方のサポート兼遠距離攻撃。
現在水の魔法を得意とする。
レイラ・シェルル。
黒に時折、反射で蒼に見える髪。
「水は血、生命。」の少し痛い言葉を口にするアクア枢機卿を師に、様々な魔法を教わっているという。魔法や力に関しては例に漏れず貪欲である彼。
ルシフェルたちと同じ手足の鎧。
他は動きやすさを重視。
しかし、綺麗な刺繍の施された修道服。
若干のポージングで痛々しさが増してはいるが、元パーティメンバーたちは普通のことの様に接す。
その鋭い金の目で紫蘭を見て、「何故あの方は……?」と眉を顰める。
枷をつけられているのを疑問にしている彼に、
「気にするな」とルシフェル。
「で? どうなの?」
と、案内を急かすアスラ。さっさと仕事終わらせたい感が溢れ出ていてルシフェルとレイラはため息。「こっちだ、随分あるぞ」と、数あるコンテナから離れた場所にあるその一つを指差す。外から見たら他のコンテナ群と何ら変わりない。
「先に一部教会の研究部署に回したんだ」
と言いながら、そこを開ける。
中は麻袋が真ん中のみを空けて、左右に置いてあった。
「これ、全部?」
「ああ、魔石の粉末なのは、そのものを俺たちが摂取して魔力得たから間違いない。
……すぐオーガになったのはわからないな」
と、レイラが髪を遊ぶ。そして「後は調査隊や研究部頼りだな」と書類を部下に渡した。