第三十話
部下の言っていた方向へ行くと、同じようなオーガが瓦礫で積み木遊びのようなことをしていた。
ルシフェルを認識すると、咆哮を轟かせる。
恐らく、威嚇。または戦闘態勢を取るという合図。
まるで仲間に知らせるかの様。
または助けを求める様な━━そんな声。
ルシフェルは掌を握りしめて、青い炎を出現させる。
オーガは駆け出し、鋭い爪を斜めに振る。
「━━天巌、蠢け」
途端、再度地が隆起。
オーガを迎え撃とうと構えていたルシフェルではなく、オーガの方に向けた土。ルシフェルのところに行く前に隆起した為オーガは怯んだ。
それはまるで粘土の様に地が蠢いていた。
地が躱し逃げるオーガを追い立てる。
ルシフェルは彼の作戦を邪魔しないように再び火の玉となりオーガと絡み合う土を追う形をとる。
そのあとを這って薔薇の茎を模した氷が這う様に凍りつく。更に棘が出てくる。
(オーガを閉じ込める為か。
この量の氷を操るという者はあの方くらい……。
僕の炎で溶けないとは思うが、もし攻撃するとなれば耐炎の魔石使いながら立ち回ればいいか。
それよりも。
あの気難しい方に命ずるあたりも流石というか、怖いもの知らずだな……。
いや、アルは確か僕らと会った時既に教会の者だったかな……であれば、この連携も頷けるものだ)
と、その友であり意外と策士な元パーティメンバー。
好きな子をコーディネートしているうちに、自らもどハマりして女性に関する研究までして今に至ったと言っていた、アルフェルド。
騎士団に入った経歴は結局彼らには伝えることはなかった。
ともあれ、現在連携をとっているのはアルフェルドと紫蘭だということがわかった。どの様にして会ったのかはわからないが、ルシフェルは彼らのそのやり取りを想像し、苦笑する。
昔のようにまた再びその駒となるため、ルシフェルは耳をすます。
そして懐かしさと共にワクワクが押し寄せる。
(いつもそうだ。
アスラとレイラの前衛組が傷つかないようにうまいこと動かしてくれる。
真ん中の僕を前か後ろに移動して……)
強い魔物なら尚、奴の観察眼と、指示が頼みだったな
と、思い出し「ふ」と笑う。
ルシフェルへの合図は特になかったが、
オーガがギリギリでかわした時、鋭利な氷柱が隆起した土から突然出て、そのリーチを補っていた。
それはただの擦り傷にしかならなかった。
そのかすり傷から出る血は美しい睡蓮に。
じわじわと。
しかし、確実に数箇所数十と追い詰める。
「ぐがぁぁ」と、唸る。ただのかすり傷だが塵も積もれば山となる様に効果があったようで傷つき鈍くなり、オーガが後ろに後退した時。
「――今よ!」
と、オーガの四方に土壁。
オーガを箱詰めにした。
それを、良い連携だとルシフェルは思い、パーティ組む前から知古であるのとアスラやルシフェル自身とはまた違う連携の仕方。それができる二人に少し嫉妬する。
そうしてその手際を見ながら、うねる土の上でもう自分は参戦せずとも大丈夫だと思いルシフェルは火の玉から人の形に戻る。そして、仮面を触る。
箱詰めする様に土壁が隆起。氷がそれを補強していく。
ダンダンと壊そうとする音。そして雄叫びが聞こえてきた。
「はい、終わりね!」
と、爽やかに振り向く屈強な男。
金髪で、今は警邏隊の紋章を片腕に。
粗末な服さえ上手く着こなしている者。アルフェルド。
彼がルシフェルに気付き、声をかける。
「あら、ルシちゃん! 助かったわ、支援ありがと!
このオーガちゃんもルシちゃんのこと警戒してたみたいだから、すんなりよ〜」
「……あ、ああ、恩に着るよ。アルフェルド」
やはりと思う。幾つかのパターンを作って臨機応変に組み込む。ルシフェルが応戦してくることも踏まえたものだったのかその応戦という自分の選択とそれを使うアルフェルドに舌を巻いた。
「内偵も大変じゃないわ。水天さまに女の子奪われるし……。一々男のかっこしないといけないもの。ちょっとダサくない? 大丈夫かしら? ちょっといけてないじゃない?!」