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Cocytus  作者: みらい
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第三話




「は?」と、紫蘭が驚く。

 

「いやいや、今まで紫蘭様お一人だったしそこまで驚く事じゃないすよ」

 

 アスラの返答に紫蘭は固まる。紫蘭は隣の水の席に寛いでいるちょっと変わったいわゆる不定形スライム

 今は一頭身の一つ目の猫耳の状態の彼女をチラ見してなんとなく昔を振り返った。

 ━━そうなのか。

 俺一人だったのか……?

 まあ、他の騎士たちがいて我が妻が守られているならいいか。


 呆然としつつも「まあ、君がいるし。いいか」と呟きまた一つ目の猫を見遣る。

 無関心ではあったが、それもそれで寂しいらしく、

 そのまま固まっていると「四天王見習い、天人あまんちゅ騎士はたくさんいるんですけどね」と、アスラ。

 

「ホラ、魔石よりも火力とか魔法は出るから力欲しくて増えはするんですが、下々を統べる従えるくらいの実力者はいないみたいっすね。

 もちろん、俺の元パーティメンバーのやつらならワンチャンあるかもっすけどね!」


 と、アスラが昔ギルド員として務めていた際の仲間を懐かしみながら「一人は最近会ったけど、他は今どうしてんだろ。皆変わっちまってるよなぁ」などと呟く。紫蘭は紫蘭で、

 

「ふーーん。つまり、ここに座ってる必要もないな」

 

 興味無さそうに立ち上がる。そして、扉ではなく窓に向かい窓を開けた。部屋に雪をちらつかせた。

 

「いやいや!!  待ってくださいよ!」

 紫蘭の白い外套を引っ張る。

 置いてかれると思い焦った一つ目の猫も既に肩に飛び乗っていた。

 

「さっさと脱ぎたいんだが……?」

 

 やっぱり不機嫌な紫蘭。

 いつもは真っ黒な和装。

 今は白銀の騎士の鎧。ちゃんと式典だからときっちりしてきてくれるのは流石だとアスラが頭の隅で思う。

 足も腕も氷の様。

 紫蘭自身の中身はさておき見る者は美しいと思う造形。

 また右肩など所々肌が見えているのは主な攻撃手段が氷の剣を体から取り出す特注品。

 本人は慣れているのか寒さも無さそうにしていた。ファーやマントもつけてはいる。アスラはその視界だけでも凍えそうになった。


 ーーひぇ〜さむっそ。ってか寒い!

 そりゃ、この人寒さ慣れしてるかもだし俺も炎は使うけどーー……無理。


 我が身のように感じブルっと震えてしまう。


「窓から降りて! さ、早く窓も占めてくださいよー」


 そう言って紫蘭を諌めた。仕方ないという風に降りて閉める紫蘭。

 なんだ行かないのかと言う態度な猫の物体スライム

 紫蘭が窓を閉めるまで見守ってからアスラは師匠に向かって改めて挨拶した。


「じゃ、改めてよろしくっす! 火の席についたアスラですう。 師匠〜」

「━━……あ、ああ……」

 

 太陽みたいな奴に負けたように少し苦笑しながら紫蘭はまた自分の椅子に戻った。黒猫の様なものもぴょんぴょんしてから着席。

 

「早速任務なんすけど。式典終わって早々に持たされたんで……そんな顔しないでくださいよ。俺も戦い以外はいやっす」

「スライム討伐と魔石輸出入の件と……後これは師匠への十字軍からの報告書だそうっす」

 

 そう言って円卓に乗せてあった書類をバッサバサと紫蘭のほうに放り投げていく。


「どうせ全て魔石の不正行為売買とかだろ? おまえも大変だな。ただの客寄せパンダみたいな席に就いて。……十字軍はまあ良くやっているな。今度おまえにも会わせてやる」

「それは楽しみっすね」


 その十字軍のみ報告書はしっかり確認していく。

 ちゃんと部下へは褒めはする。しかし落として投げた書類の方。自らの任務の方は取らずいざ自分が仕事する時になると面倒くさいと言う。


「やはり十字軍と共に戦線に加われば良かった。我が妻を侮辱する発言をしたらしい国を弑する方がやりがいがあるというのに……第一功労者……確か妹は研究室所属、第三部隊だったか……飴でもくれてやるか。これは……?」


 ぶつぶつ言いつつちゃんと確認していく紫蘭を見て苦笑するアスラ。


「流石っすね」

「おまえは気楽でいいよな」


 紫蘭は癒しを求めよくわからない生物を撫で撫でする。

 撫でているというよりもその感触をこねて絡ませてもちもちする。

 それは師弟時代から毎度のことなので見慣れている。

 

「めんどうだな」

「そうっすね。まあ、そんな感じらしいっす」


 呟いた面倒くさいをスルーして答えるアスラ。彼もまたやる気の浮き沈みがあるから何となく気持ちがわかるから。

 ここでダラダラするのも仕方ないので普段連絡用のタブレットしか持たなかった。それに魔石かそれを付与した魔導機器で作ったと思われる紙媒体の資料の感触を楽しみながら、内容を見た。


「……これは教会で取り引きされているから止めろって事みたいすね」

 

 二人して見合わせる。利権かと口には言わないが目を合わせた。

 魔石は最早生活の必需品となっていた。明かりはもちろん水までも。災害であったらとても有用に飛んだものとなるが今日それが日常にまで及んでいる現状であった。

 そうなると、その魔石の利益を求め様々な商会が立ち上がる。

 教会も黙っておらず天人が力で従え世界の魔石の利を教会が管理していた。

 ずっと一人で他所への牽制のような仕事をしていたらしい紫蘭は最近の内情をよくわかっていないらしい。

 

「教会?  別に良いじゃないか……」

「それが教会はウチのっぽいんですが資料見たら今使っているのは別の宗教団体っぽいんすよねー。場所も特殊みたいっすね。宗教かもちょっとわからないらしくってテロ組織なら早急に対処しなきゃって感じっすね。でもこっちは先に他の偵察が行ってくれてるみたいっす」

「はあ……。先に終わらせられるほうからするか」


 どちらでもいいならと紫蘭はスライムの方を手に取った。

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[良い点] ネーミングセンスが良い 紫蘭もアスラも良いセンスしてる 文章も読み易い
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