第二十九話
「━━━━!!!!?」
二人して立ち上がり、外に出て状況を確認しようとした。恐らく街の方から聞こえたそれ。次いで悲鳴も聞こえてきた。魔物も高位のものはいないはずのこの街で異常事態。
ルシフェルが窓から飛び降りた。着地時に小さく爆破。衝撃を和らげたのか若干地面が抉れ、青白い火の粉が舞う。
同期の突然の飛び降りに驚いたアスラはその即座の応対に「さ、流石……」とぼそっといいながら、しかしまだ魔力の回復中なこともあり階段を駆け降りた。
「お二人方!!!」
と、神父と共に他シスターたちが駆け寄る。
神父が「あちらで……!」と指差す先を見ると、煙が数本立っているのが見えた。
「ど、どうやら、住宅地の方で襲撃があったと報告が……! 聞こえましたでしょうか? あの声は魔物かと思われます」
「そのようだな。
「……とりあえず貴殿らは怪我人を受け付けてくれ。医師は……確か隣街に大きな病院があったな。連絡してくれ」
アスラが階段を降りてから的確にルシフェルが指示していくのが聞こえた。その指示に「かしこまりました!」と答え、各々受け入れの準備をしていった。
アスラは同期の指示に感心しながら聞いていた。また、もしかしたら医療に詳しいシスターとかも居るんだろうなと思いながら彼女たちが救急箱や包帯などなど医療道具を運んでいるのが見えた。
「普通の魔物だったらいいよなぁ」
といいながら一応腕と手の防具とマント。溶けかかっている胴体の鎧など一部を除いて着た状態。騎士団の軽装用の服装を申し訳程度に着込んだ。
こうして準備しても生憎戦力にはならねーよなとアスラは思いながら、ルシフェルの返答を待つ。
「……先に行く。疾熾纏え」
と、アスラのそれに答えない様にするルシフェル。一抹の不安を掻き消すように彼女は己を燃やす。
青に全身を包んで、火の玉として飛び「無理するなよ」と魔力がカラカラなことを察したルシフェルがアスラの周りを回る。
「へへ……、悪りぃな。でも、考えてる事は一緒かぁ……」
と、その態度に納得するアスラ。
それまで聞いて一っ飛びするルシフェル。
「俺もまだまだなんかなぁ〜。俺あんなんできないケド……? 何でアイツに勝ったんだ俺すご」
竜はオートで自分を熱から守っているとは言ってだけど……と口に出さずに思い出す。
そして、お言葉に甘えて、と歩いて現場に向かうことにした。
***
ルシフェルが煙の一つに到着する。そこは住宅街。瓦礫
既に騎士団たち━━ルシフェルの部下、第一部隊の騎士も騒ぎを聞きつけ対応していた。
「隊長、オーガの様です!!
なぜオーガの方が出たのかは不明ですが……向こうでこの街の警邏の方と水天様が抗戦してます!」
と、第一部隊の一人がルシフェルとわかるや報告。
「戦いは我らにまかせて君らは怪我人と調査を頼む」
と、命令を下す。部下たちがそれぞれ対応しに行ったのを見ながら、
「警邏の方? ちょっと変わった……? アル……アルフェルドか?」
と、ルシフェルは調査、偵察。内部調査中の中々に器用な友人を思い出す。
ルシフェルが戦いの音のする方向に走る。
咆哮が再び聞こえた。
雄叫びというよりも、悲痛な叫び。
それが幾つかの方角で聞こえたが、一番近場。
民家であった瓦礫の先。先に着いていた部下たちが下敷きになった住民を救出しているのが見えた。
赤い身体。
鋭利な爪に、頭に生えるツノ。
家を軽く越える巨体。
現れた拍子か暴れた後か頑丈な家が崩れていた。
所々纏って居たであろう服の残骸がその体にくっついていた。その風貌に、矢張りと言った風に、「……オーガか」と呟く。そしてなぜここに、と思うルシフェル。
そのオーガが、暴れているのか。それとも攻撃してきているのか。
瓦礫や物。拳が降りかかる。
それを火の玉のまま旋回して躱す。
瓦礫、物は被害の及ばぬ様に火炎を飛ばし、相殺して砕いていく。オーガが助け出そうとしている騎士たちを襲おうとしていたので火の壁をつくる。
オーガはそれには攻撃することはなかった。
代わりに瓦礫を投げつけてきた。それをまたルシフェルが「碧焔潰せ」と願い瓦礫を破壊する。
そうして部下も付近の住民も守りつつ、「隊長!」と手の空いた彼らも炎を足して援護する。その炎が赤から青へ。
その火もルシフェルはうまく操り、そのオーガの周りを回る。蒼炎は消える事なくオーガに巻き付いた。
その縄は中心のオーガを傷付けず多少の火傷で済む。
周りの火のため酸素不足に陥ったらしく動きが鈍くなった。それを確認して、火の玉から人型に戻る。
「あちらにも!!」
「わかった。このオーガを教会の研究部に輸送する手筈を整えてくれ」
「了解しました!」
ルシフェルは指差すほうを向き、部下に指示してからいくことにした。
その二軒程先のオーガへ行こうと走る。
━━が、急に目の前の土が隆起。
「━━……っっ!!!?! これは……」
と、ぶつかる所をかわして、反射的に火玉から人に戻り、その土壁の上に着地した。
(これ以上オーガの他所への被害を抑える為の壁か。
やはり奴か。誰がやったかよくわかる。きっと我が隊にも的確に指示を与えていってくれたのだろう……流石、周りを見て気を配る奴だ)
と思いながらそれをジャンプし、飛び越えルシフェルはオーガの元へ急いだ。