第二十六話
その頃。
結局アスラは丸々三日戦闘スイッチが入ってしまった。
充電切れのようにそれからの日は食っちゃ寝。
そして、資料に目を通す日々。
紫蘭はソフィーのお手伝いをしていて、食事や散歩などを共にしていると言う。
アスラはその事を神父から端々聞いていた。
「ええ師匠、何やってんの」
「水天様もああいう表情をされるのですね。
今まで式典など遠目で無表情な方だと思って見ていたので
驚きました。
それに、『ミゼーアと久しぶりに会う。どうすればいいか』とおっしゃられて……どういう立ち振る舞いをすれば良いかと聞かれましたが、私は聖女様のことは存じ上げませんし……かと言って嬉しそうにされる水天様を放ってもおけず、転生であれば昔の事を話ながら今を楽しんでは? と伝えたのですが大丈夫だったでしょうか?」
と、少し神父もその回答に少し心配しながらもしかし、嬉しそうに報告してきた。
目を細め何してんだあの人感を出しながら、その報告に
「そ、そう……」と答えた。
ウブだなあと師匠の新たな一面をまた見てしまった気がした弟子アスラは「それでいいんじゃない」と若干面倒くさくなりかけ投げた。
師匠がそんな中、アスラはアスラでベッドから一切出ずに、今日も扉を叩く音が聞こえたので「ドーゾ」と返事をすると、神父がわざわざ朝食を持ってきてくれた。
その部屋にある丸テーブルに置き、ベッドへ寄せてくれた。そして今日もまずはいつもの水天報告かと思ったアスラはごろごろしながら、「今日の紫蘭様は、どう?」と聞く。
「いつも通り。孤児院で目を閉じてうっとりしてお待ちしておりました。最初小さな雪だるまを生成してらっしゃいましたが、今日は大きな雪だるまでしたねぇ……。どちらにしろ子供たちには大人気で助かっております」と少し嬉しそうに神父が報告した。
「そろそろ氷の像を作り上げるやもしれません」
それにあきれ顔になるアスラ。
「それと」と、歯切れが悪そうに「隣の港街にて、あなたの探している大量のモノが見つかったそうで…」
と神父。
この港街はどちらかと言うと漁村。
中ほど、少しランクの下がるくらいの繁栄。
対して、その隣街は、海水浴場で有名な街。その逆の年はアスラたち教会本部の下のこの帝国。
その政治的な窓口や貿易の要となっていた。それくらいの規模の街……というより都市となっている。
地区地区で他国の人間が過ごしやすいよう、宿泊施設も国々に寄ったものが建てられ、ちょっとした観光名所。
住宅も歴史情緒あるものばかり。
箇所箇所に魚人とも関わっていたであろう節が見受けられ専門家垂涎の地。
その気質を利用し、各国の要人が集まりやすく、会談もしやすい街。
「そんな所で魔石が見つかるか…」と、アスラ。
報告し終えた神父はそのままお勤めに行った。
それを見届けてから、「まあ教会だけ魔力持つ人を抱えるのは卑怯とかかな」と呟く。
それは世界の魔石管理制御して人との諍い起こさないためじゃないっけーー?
まあ、それ回収して後は処理班とかの仕事か
さっさと見てくるか
「っと、通信機…」
と、通信、電気の魔石が付与された魔道具を探す。
ガラス状のタブレットに申し訳程度の枠のついた通信機の魔道具。写真や動画などの機能もある優れ物で、物によっては、ゲームなるものもある。
ガラス状な為、おしゃれでスマートな見た目に反して壊れにくいのもアスラは気に入っていた。
《《━━貿易船にて、例の物の情報あり。
組織の可能性もあるので第一部隊の応援求む。》》
(……ま、これでいいだろ!!
で、あわよくばその部下とかに任せたら良いかなぁ……。
あ! でもちゃんとやってるよ感は出しとかなきゃだよな)
「ま、練習がてら」
と、寝転がりながらベッド脇の机の上の束沸石を取る。一般的に街頭やライトとして使われるものと同じ魔石。安価で手に入れられるので、歩いていてもよく見かけるし、家庭でも使われていた。
もっと高価なものだと、加工されてリラックス効果や浄化作用、丁度良い暖かさを出してくれる魔石がある。湯船に入れたり、野営などでも川にいれてお湯として入浴することも可能であった。
しかし、今回はただの偵察、お試し。
……確かししょー、同じ魔石なら上手く魔力を繋げてどうのこうの言ってたな。せっかくだし、ししょーでも見とくかな。
……
…………
………………?? うーーーん。
力を流すのか? わかんね。
と、魔力を流したり、石を透かしてみたりする。
しかし、特に反応がない。燃やすかとも思ったが、流石にストッパーである紫蘭もいないのでやめた。
ふと、紫蘭が提唱して魔法を出したり、竜が感情で魔法は変化すると言っていたことを思い出す。
感情かぁ……、と目を瞑り、今の悶々とした感じを魔石に伝える。
「うーーーん……。綺悶連なれ」
と唱える。
するとキラキラと輝く小さな星状のものが線となり壁を抜けていった。
途端、瞑った視界に雪で遊ぶ子供たちの姿が映る。
「お?!」とうっかり目を開け、その繋がりが閉じた。輝く線も消えていた。まだ魔力も回復してないのに、使い集中までしてしまって実はへとへとなアスラ。ただ成功して少し嬉しくなった。
だから、再度試してみた。
「も、もう一回……!輝喜結べ……」
今度は紫蘭とソフィーが残り雪で雪遊びしている姿だった。
見えた途端、即目を開け「…………はぁ……、ししょ……遊んでんじゃん。楽しそ……」とめちゃくちゃに呆れたアスラ。魔力も尽きて、仰向けで寝転がる。
先ほどの光景を見て、自分は一応やることやっとこうと思ったらしい。腹に魔石を置いて、更に下の街中を見てから特に何も怪しいところはないように見たか否か、アスラはいつの間にか気を失う様に寝ていた。