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Cocytus  作者: みらい
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第二十話



 翌朝。

 太陽が出て入るが、曇天が時折その光を遮る。

 時たま雪のちらついていた。


 そんな天気の中。

 噴水広場にて。

 元々色白で不健康そうな顔をもっと蒼白にして紫蘭がソフィーを待っていた。特に睡眠を必要とはしないが、さすがに疲労と火炎の中は堪えた紫蘭。

 

(結局一晩共にしてしまった……。

 寝なくとも良いのだが、休憩くらいはさせて欲しいものだな。あいつも氷の弱点くらいわかっているだろうに……。疲れた。いっそミゼーアに添い寝か膝枕でもお願いしてしまおうか?)

 

 と、紫蘭が癒しを求めようと思案する。

 あのあとアスラが「なんかつかめそうっす!」と言った。

 だから、もう一戦。

 しっかり夜が明けてから更にもう一戦した。紫蘭はその一戦から氷で分身を作り傍らで見学した。ただの雪だるまとかカカシとかではなく己の分身を作るのはアスラがまだギルド時代の氷牢の不死鳥討伐依頼失敗を引きずっていると思っての事。あの頃は今と違い魔石だけで紫蘭を倒そうとしていた。まるで吹雪の中火を灯すくらいの中、よく生きているなと紫蘭が思うくらいの立ち回りだった。

 そういう辺りも野生の勘が働いていたのだろうと毎度毎度感慨深くなる紫蘭。兎にも角にも、そう言う理由がありアスラは紫蘭へは本気モードになりやすかった。

 そんなアスラに紫蘭はついうっかり、


 「魔石は補助だけじゃないからな。透明なもの……効力を失った物こそおまえたち天人が使うべきものだ」

 

 そう助言して、懐から透明な石を取り出して口を付ける。

 すると力が入ったのか青くなっていく。

 その藍玉(アクアマリン)━━自分と同じ氷の魔石を散りばめる。「藍よ、冰鬱(ひょううつ)せよ」と指を鳴らす。

 散りばめた魔石を種と見立て、そこを起点に氷棘とそれに不釣り合いな蒼蓮を咲かす。

 

「おまえは火が適性……。昔よりも魔石ももっと操れるはずだ。

 火の魔石なんてどこでも……街頭から家でも使われているから、練習すればその魔石を操ったり、目として見ることもできるはずだぞ。

 ただし、己の心身にも出力は左右されるからな」

 

 とさっき教える機会を失った事をアスラにちゃんと教えていく紫蘭。左右されるあたりで少し睨む。……だから先程みたいに暴走するなと暗に言われしょぼくれるアスラ。

 そして蓮をくしゃりと踏みつぶす。

 

「……へぇ」


 しょぼくれる頭を振り、切り替えて早速試そうとわざわざ車に戻って魔石を取ってきた。そして投げ散らかす紅玉髄(カーネリアン)

 

「さ、もう一戦お願いしますっ」

 

 と伝える。しまったと思うももう遅く、散る魔石が桔梗色の石楠花に代わり、爆破していく。

 そのあたりからアスラは鎧を脱いで「燃えてきた!」と上半身も脱いで勝手に戦闘開始していた。

 鎧も特別素材だが焼けたり溶けたりしている部分があり「これは怒られる」と投げ捨てた鎧を見て呟くのを紫蘭は耳にした。

 

「一応そういう頭は働くのだな」

 

 茶化すとアスラが聞いていたのか火炎が来た。

 そうはいわれても止まらないアスラ。

 その更なる再戦をギリギリで回避。再度分身を作ってあげた。


(ここまで熱中してしまうならば、アドバイスなんてしなければよかったか?

 まあ、もう昔のように自我を失う事もないし。 ……大丈夫だろう。代わりに白熱しすぎて、熱中するのが難点になってしまったな。不死鳥任務が唯一達成できなかったんだったか。だから俺と戦いたがるわけか、……これは俺が悪いのか?

 そもそも、こいつ任務の方はちゃんとやる気あるんだよな……?)

 

 と、色んな不安を思いとりあえず「ほどほどにな。スライムの時の様に、爆発の魔法はするな」と窘めてから、

 紫蘭のみ教会に戻った。









 神父には「後でチラッとで良いので、裏の小屋に見に行ってくれ」と頼んでから現在。まだ寒さの残る外ノースリーブタイプのインナーと神父に「流石に羽織ってください」と渡されたローブ。太腿まであるガラスの様な足の変わった出立(いでたち)でソフィーを今か今かと待っていた。

 深緑の髪を靡かせ「お待たせしました」と、声をかけた。


「……ああ」と、紫蘭。その手にはなぜか雪玉。待っている間、雪を出し手遊びをしていた。


「だ、大丈夫ですか?顔色悪いですが……?」


「気にするな。それはいつもだ」


「えっと、今日はただついてきて頂くだけでいいと思います

 この辺を回るだけですので……」とソフィーが気遣う。


 ? と紫蘭がついていく「行きながらお話しましょう」

 と、ソフィーが紫蘭の手を取る。その温もりが伝わり、雪解けの始まったかのようにふにゃりと笑い嬉しそうにする紫蘭。


「昔もこんなだった……」と紫蘭が呟くが、それは動き出した街の喧騒に溶けていった。

 中央の商店の多い通りを抜け、住宅街に来た時。

「━━……私」と、話し出す。


「孤児だったのです。

 明日生きてたら良いっていう、その日暮らしをしていたのです」

 紫蘭が「ああ……」と、相槌を打つ。


 中々壮絶な話かもしれん

 と、少し身構える。


「孤児院が教会の隣にあったのはお気づきでしょうがたまたま私は神父さんのご友人に拾われて、あそこにいるのです。

 今はその子たち、成長して孤児院から出てますが……、昔から私のようにその友人から預けられた境遇の子がいたと聞いてます」


 紫蘭を振り向く。

 紫蘭から見て、彼女が悲しそうにしていたので、釣られてしまう。それにソフィーはクスリと笑いまた前を向いてから話し続ける。


「なんでも、今後自分の会社で働いて欲しい子を助けだす、前投資だって言ってました。

 大体は親のいない子……。私もそうでした。

 中には親から買ってくれって言われた子もいたようです。今から行くのはその会社のお手伝い……医療のお仕事のお手伝いです。ただ指定されたお薬をお届けするものです」

 

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