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Cocytus  作者: みらい
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第十六話


「ほぅ……」

 

 中々に趣のあると、思いながら足を運ぶ紫蘭。

 隣に止めてあるアスラの車を横に、教会を眺めた。

  

 空に浮かぶ教会本部は荘厳で純白。

 クリスタルの修道院が円形に建てられている。

 それが陽の光の反射で虹に煌めきより神聖なものと化す。

 

 対してこの町の教会は厳粛な造りでありながら、民衆の親しみやすい木造建築となっていた。実際、丘の上とはいえ、町に住む人々は何かあると良くここへ来ていた。

 また、孤児院が隣接されており、街の人々はもちろん、旅人も訪れその度に様々な話を子供たちに聞かせてくれていた。

 だから子供たちの良い刺激となっていた。

 中腹には小さな診療所。

 そちらは隣街に大きな病院が建ってからはほとんど使われておらず、風邪など軽度なもののため、薬が備蓄されていた。

 

 この様にまるで民衆を見守る様に。

 或いは監視する様に鎮座していた。

 その裏に修道士や神父の住まう建物。そして孤児院が庭園を囲うように建てられている。


 そんな場にフードを被りシスター服と普段着を着こなしているミゼーア。

 足は太腿まで透明なクリスタルで曇天の下でも煌めいていた。それだけで普通の人はちょっと近寄りがたい雰囲気。しかしインナーで軽装。そんな服装の紫蘭は、

 

「フードの下はシスター服か……良い……。写真機でも持ってくれば良かった……」

 

 と悔やむ紫蘭。

 そして、今回はジャージではなくちゃんと少し黒に近い自分用にあしらえた鎧のアスラ。

 

「ご趣味なのはご存知ですが、写真の件は聞いといてくださいよ?」

 

「ああ。わかった。任せておけ!」

 

 と、あの資料の中の彼女の写真。その教会の背景。それがこの教会では無いから訝しみ紫蘭にコソコソ伝えるアスラ。大丈夫かなぁ……、と思いながらもどうせ勝手にすると機嫌悪くするだろうからと結局師匠に託した。

 二人のコソコソ話は聞こえないようで、「ふぅ……、ただいま戻りました。神父様」

 と、既に陽は落ちていて少しトーンの低めな少女。

 

「ああ、ソフィーも一緒でしたか」

 と、神父。そして話終えた二人にも神父が「お待ちしておりました」と、招待する。

 

「いや……こちらこそ。ア、この子ここのシスターしてるんですね」とアスラ。

 

「いえ、その……元は孤児院の子でして。

 ご縁があって、養ってくれる屋敷があって今はそこの養子となってます。ただ、自分の育ったここが親しみやすいみたいで、手伝い等を任せている内に、入り浸ってしまって……まあシスター見習いと言った感じでしょうか?」

 

 と、神父が改めて紹介した。ミゼーア━━現在はソフィーと呼ばれているという娘が「えへへ」と、後ろ頭を撫でながら答えた。

 

「その手伝いの道中襲われたということか」

 と、紫蘭。

 

「お、襲われた?! だ、大丈夫だったので」

 

「ああ、襲われたというよりも追われていたのが正しいか。ちょうどばったり会ってな。ここまで案内してくれたのも彼女だ」と、紫蘭。

 

「すみません……お手数をお掛けしまして、ありがとうございます……しかし、ソフィー。また裏路地を?」と、神父が感謝を紫蘭に伝え、ソフィーと呼んだ少女に呆れて聞く。

 

「えへへ……だ、だって。近道、だし」

 と、ソフィー。

 

「……はぁ」とその答えに神父がため息をつき、「まあまあ俺も近道あって知ってるなら使いますし?」とアスラが宥めた。

 

 こほんと改まって二人に向き合い、

「失礼しました。

 お二人共休まれますか? それとも……お食事に?」と、神父が提案。

 

「うーーーん」と、アスラ。「あ」と、何かを思い出して、紫蘭の方に振り向く。

 

「紫蘭様、バトったんでしょ?

 羨ま。ちょっと鍛錬って事で一汗かかないすか?」

 

「血の気の多い……。スライム討伐で飽きるほどやっていただろ」と紫蘭が呆れる。

 しかし、またソフィーと呼ばれた彼女に良い格好を見せたいのか少し乗り気で「まあ、色々試すのなら構わん」と答えた。

 

「よし! じゃ、メシ食って集合すよ?!」と、アスラ。

 教会内を駆けるアスラと「こちらです!」

 と、その後を素早く案内する神父。

 

 取り残された紫蘭とソフィー。

 居た堪れなくなって「あの……ご飯頂かれないのですか?」とソフィー。

 

「俺は一日一食でも抜いても大丈夫だからな。

 ミゼーアは?」と、柔らかく微笑む。

 

「わ、私は……普通に食べてますよ?」とソフィーが未だにミゼーアと呼ばれている事に特に咎める様子もなく答えた。

 続けて、

 

「あ、あの……有名な水天さまなのですね」

 

「っ……有名かはわからないが、そうだな」


 彼女の言葉、一言一句聞き漏らす気のない紫蘭。録音できる魔道具があると聞き、今度購入しようと思いながら答えた。

 また四天王の一人一人の名称。四元素にちなんだその呼びはここ数百年の間最近できたもの。紫蘭はその呼び方にまだ慣れていないがソフィーのその声に感嘆しそうになる。

 

「えっと、まず助けて頂きありがとうございました。

 ……で、申し訳ないのですが一つお願い事が」


 

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