第十五話
銀灰色の下。
堤防をてくてく呑気に散歩する紫蘭を認識して歩き寄るアスラ。
あからさまにうわ……、こいつ空気読めという表情の紫蘭。
アスラはアスラで肩出しインナーだけの紫蘭にうわ……、さむそと思い、互いに引いていた。しかしそれらは口に出さず、
「………どこ彷徨いてたんすか?」
と、アスラが聞いた。
隣の娘をチラ見して、「この子は……?」と、困惑。返答が面倒な紫蘭が何も言わずにいると、
「え……? 誘拐スか? とうとう?」「なんとなく察してはいたっす……弟子として受け止めます」「新しいししょーの一面。追加心にメモっとくす……」
と、アスラは師を変態扱いしようと畳み掛ける。
「何言っている。違うバカか」と、紫蘭。
「ミゼーアと会ってな……。
襲われていたから助けて、その礼と彼女も教会へ行くというからせっかくなので教会に行くまでの道案内してもらっていたのだ」
だから断じて攫ってはいない、と、釘を指す。
攫うこともあるじゃん、とは言わず心の中に留めたまま「はいはい」と、アスラが適当にあしらい娘に向かって「ありがとうございます、家までお送りしましょうか?」
と、お辞儀して紳士的な対応をした。
「えっと」と返事しかけたミゼーアを後ろに紫蘭が、
「俺が送る」と、積極的。
珍しい。と、アスラは驚きながらも「どぞ」と譲る。
「ただ、先に教会行っていいすか?」
おお、と紫蘭が返事してからちょっと言いにくそうに、
「あ、えっと……
私も教会の横の孤児院育ちで、その隣の建物に住んでいまして、ちょっとお使いを頼まれていてその帰りの途中なのです」
と、彼女が遠慮がちに言う。
「なるほど。家がまた別のところという訳ではないのだな。なら一緒に……!」
と紫蘭が嬉しそうにする。
━━一緒に……、寝るか話すか。いや、ししょーの場合全部だろうなぁ
そう言うだろうから黙ってたんだろうな。
かわいそ。
そもそも本当に転生した聖女ミゼーア様なのか? ってか、聖女様こんな感じの見た目なんだな……。
と、彼ら温かい目で見ながら考察していた。
そんなアスラは呆れつつ二人を見守るようにして、後ろからついて行く。
この感じが前に組んでいたパーティメンバーの馴れ合い感。もっと前に遡って小さな島国の臣下たちとの交流を思い返し、人知れず過去を振り返っていた。
(ああ、弟、どうしてっかな。
そもそももっと強くって思ったのは弟、越える為……なんだったな。懐かしいなぁ)
そうして後ろをついていくアスラは会ったことのない。しかし度々紫蘭が熱弁し追いかけている女。
大昔に生きたとされる淑女。
ミゼーア・アングレカム
救済の魔女。
黒き聖女。
優しい死神。
教会の礎。
礎という異名通り亡き後に残った浮遊の魔石を元に本部が建てられた。教会を天にやり、天人という人ではあるが一線を画す存在、畏怖させて屈服させるという存在を空に置くことでより一層世界を支配することができるようになった。
そして彼女は何より、魔石に存在せず、未だに発見される事も加工して生み出すこともできない━━回復魔法の使い手だった。
色んな世界の人々を救った。しかし、回復魔法の無い代わりに医療の発達していた為、そう言った機関からは敵視、あまり良い顔はされていなかった。
教会附属の学校や神父様が建立した学園等では聖女と習う。
(その聖女様の旦那様が師匠なんてなぁ……。
会った当初は全然そんな風には思えなかったなぁ。
……ししょー討伐依頼があったからなんだけど……? 今思えばおもしれーな。
でもその旦那様が言うんなら確かに生まれ変わりかもしれねーな。
そういやししょーは「教科書は盛り過ぎ。ダメだな。……だがしかし良いじゃないか。よくわかっている」とか言ってて矛盾で笑ったな)
うんうんと、昔騎士団に入る為の座学で習った虚偽の混じった教科書に書いてあった事を思い出す。
そして目の前で起こっているちょっと奇跡かもしれないしただの他人の空似かもしれない事象に傍観気味なアスラは片や嬉しそうに方やはおどおどしている二人。そのままにしていると、
「小さい君も可愛らしいな……。ぴょんぴょん跳ねるとその癖毛も跳ねるのは変わらんし、先の案内も昔と変わらずいっぱい教えてくれたし、」
「あ、と。これは……、気にしないでください」
「……とりあえず寒ぃですし、行きましょうか?」
と、提案した。
「は、はい!!」と、べた褒めの紫蘭からにげるようにアスラついていく。
「俺なら雪をのかせるから」と紫蘭がよくわからない無駄な対抗をしていたのをアスラは聞いた。