第十三話
白い砂浜。
二人の男女。
自然にできた白い崖のおかげでプライベートビーチのようになっている。
その浜辺にて、パラソルの下。
女は一人で遊ぶのはもう淋しいから、と体調の優れない青年が遊べるような砂の城を作ったり、砂のトンネルを掘って中で手を繋いだり。
二人して「砂遊びが楽しいとは思わなかった」と口々にしながら楽しんだ。
そうして陽の傾いてきた辺り。
「ネェ、アリス……。
もし私が死んだらどうするの? 後追い?」
肌に張り付く新緑の髪を整えながら聞いてきた。
体調も落ち着いていた、アリスと呼ばれた青年は、
「生まれ変わるまで生きてる、かな。
……できたら記憶は持っといてくれたらうれしいな」
「ふふ、善処するけどアリスもね? まあ、私がおまじないをかけたから、もう大丈夫とは思うけどね」
と、微笑んだ。
陽を背負い、逆光になっていて、彼女が悲しそうにしているのは分からなかった。
その情景を焼き付けて瞳を閉じた。
「キツかったら、私その辺の魔物かなんかに頼んで運んで貰うから。ア、私に運んで欲しいなら言って?ふふ……」
「い、いや、どうにかして帰る」
「えー? 私じゃいや?」
返す事もなく、青年の意識は闇に落ちた。
***
過去の事が走馬灯の様に滑る。多分ぶつかって来た子のせいだ……と、思いながら頭を振り紫蘭は目の前の男たちに集中する。
後ろにいる彼女は気になる紫蘭。
例え保護する者がいたとしても、引けを取らない自負があった。
むしろ彼女が居る事で空気さえ凍りつく。
肩あたりから氷の剣を身体から取り出す。
「━━……っはああ!」
「覚悟しろ!!」
左右から男が剣を振りかぶる。
━━こういう集団的な、仲間との戦いは同士討ちしないよう立ち振る舞うの、大変みたいだな。
だから俺は共闘は好きじゃないんだ。
と、紫蘭は先に来た剣をかわし、左から来た男の剣を氷剣で薙ぎ払う。
ついでに男の腹を蹴り、
「がは!!」
と、その男は後ろに倒れた。そうして戦闘から退場させ数を減らしていく作戦。
彼らが魔石も持ち合わせていない事。この路地裏が狭く多勢が無勢な事。
その辺りから紫蘭は勝機があると見ていた。
勝ち目がなくなったら上手く娘と逃げたらいいとも思っていた。
狭い事は現に横に一人二人並ぶだけで立ち回りが難しい様子が見てとれたから。それにしては彼らは随分うまく立ち回っていると紫蘭は思いつつ敵を落としていく。
人外気味の蹴りで撃沈しているのを横目に、
右の男を腕を振り、雪を出す。
その勢いで壁に張り付かせた。
降っていた雪も重なって身動きが取れなくなってしまった。その男は、
「か、かしらぁ……」
と、情けなく助けを乞う。
「さ、どうする? 頭殿」
(この頭よく見ると……なんだか見覚えあるな。
他人の空似か……?)
と思いながらも無視して紫蘭が氷刃を巧みに扱ってくるくる回して煽る。
「っ……戻るぞ」と、部下たちに告げて地面に伸びている男を担ぐ。
頭の横にいた男たちが雪に埋もれた男を「大丈夫か!?」と駆け寄るのを見ながら紫蘭は「あ、あの……」というミゼーアの言葉を無視して彼らから逃げる事を優先に。彼女の肩を持って表の通りに出た。
しばらく人混みに揉まれてから、今は流れていない噴水広場まで来て、
「えっと、ありがとうございました」
と、彼女が感謝を伝えた。
紫蘭は見合わせじっと見つめる。
男たちに追われている時はしっかり見なかったが、改めて見ると髪も身長も造形も。
唯一違う目の色以外はやはり似ていた。
「……あ、あのぅ」と、恥ずかしくなったようで少し顔を赤く染め、困惑を伝える。
「あ、ああ」と、空返事。
未だに全く離そうとはしなかった。
「……えっと。あの……?」
何度目かの彼女の問いかけと、周りの人達の反応で我に返りはっとして、ようやく紫蘭は手を繋いでいたことを思い出して離す。
紫蘭は紫蘭で急に現れた妻と瓜二つの彼女になんと言ったらいいかわからないようで上の空状態。ポカンとしたようにずっと見つめていた。
ずっと見つめられる事に慣れていない彼女は、何か話題を捻り出す。
「あの教会の方ですよね……? 随分上の位ですよね?」と、彼女。
それを聞いて紫蘭は、
(何故知っているのか、もしかして……
やはり……? 生まれ変わりというやつか……? 魂は恐らく違う可能性も大だが。他人の空似だとしても、転生とやらも可能性はある。
魔石がどこまで作用するか俺もわからないが、その線はありそうだな。
現に目の色は違う。
しかしこれもこれでいい……!
空の模様が写って綺麗だ、ミゼーア。
しかし本部で待っている『彼女』と合わせたらどうなるか……気になるな)
それにそれにと色んな想いがある紫蘭。
答えることも出来ず、ここへ来た目的を「あ、」と思い出す。
「ここの教会はどこだ?」と聞いてみた。
「えっと、一緒に行きますか? 私もそこに住んでいるので……」と、彼女の方から手を差し伸べる。
「!」となりながらも、「た、頼むっ」と嬉しそうに黒曜の瞳を見つめながら紫蘭がその手を取った。