第十二話
その渦中の人、紫蘭がアスラの来るずっと前に人々に見られ無い様に雪に混じって地に降り立っていた。
人気のない木に留まり鳥から人へ。
持ってきた鎧のインナーだけ着てから目的地までは歩いて行く事にした紫蘭。正直場所の把握はしていなかったのと、地図も何処かに落としたようで探してもなかった。
(しまったな。いや……昔、ミゼーアと来たし……様子は随分変わっているが。
だ、大丈夫だろ……)
港町。
漁業の盛んな街。
家屋は一階建ての多く、中心部に行けばもう少し高い建物。
酒場やギルドな栄えていた。
人口は少ないが、航海で外から人が来たりはしている事。隣の都市が有名な観光地なこともありホテルよりも民宿が繁盛していた。
元々雪の降らない地域。道路はもうほぼ溶けており、隅っこや影になっている所にはまだ雪が溜まっていた。それを雪が珍しい街の人はわざと踏んで足の感触を楽しんでいるらしかった。
紫蘭が通る時も霙となった雪の踏むさくさくと小気味良い音が聞こえてきた。
そこを着替え終えた紫蘭が「ここは……?」とか「そこか?」と、?? となりながらも、うろうろ市内を歩く。
掲示板をチラ見するもよく分からず、
(ここはもっと寂れた漁村だった気がするんだが……ミゼーアと泊まった家……、は流石に保存されていない様だな……。昔は木材か藁造りだったし、それが石畳にどの家も煉瓦か石造りか。
……発展したと言うことだろうが、淋しいな。せめて保存しておいてほしいものだが仕方ない。
しかし……もっと見晴らしの良い場に降りたらよかったな。そうなると人化する時全裸だが、大丈夫だろうか? 怒られるか。
ま、まあ、向こうに海も見えるし良い観光だと思うことにするか。)
と、紫蘭は少しだけ後悔していた。
とりあえず街の中央に行けばと歩みを進めた紫蘭。
明らかに違う様な狭い裏通りに入っていったようでで「これは迷ったな」とやっと迷子を認めた。と同時に、ちょうど角を曲がるところで娘が急に現れた。
あちらは走って来ていたようで避けられず紫蘭の鳩尾にガッツリぶつかり「━━う?!」と驚きと衝撃で何が突っ込んで来たか一瞬分からなくなるがその後、
「助けて」と小声で紫蘭に囁く。
フードを被っていて分からなかったが声からして少女のようで、その声音に少し懐かしさと、嬉しさと色々な感情で「君は……?」としか発することができなかった。
少女の顔を見る為紫蘭に身を寄せた形になっていたので引き剥がそうとしたが、
「アンタちょいと退いてくれるか?」
と、男が声をかけた。
数人引き連れていて、紫蘭は
「ん? どう言う事だ」と聞いた。
「その子に用があってな」とその男が答えた。
━━ああ、追われているのか。
しかし声が似ている……まさか……? い、いや。でも……
と、なるべく冷静になって考えた。
それでも紫蘭は動揺していたので、彼女の顔も見たいのと逃がす為引き剥がしにかかる。
フードから溢れる黒髪。
しかし光によっては森の様な深緑の髪。
猫耳の様にはねた癖毛。
前髪は少し左めで分けている
だから右目に少しかかり
右目がたまに木漏れ日のように光り輝く。
肌は健康的な小麦色。
目の色は猫目の黄色ではなく黒と違うがずっと紫蘭が探し求めていた女性。
このぶつかった少女は少し幼いが、とても似ていた。
紫蘭は彼女がぶつかったことを「助けてください……お願い……します」と謝り懇願する小さな小さな掠れた声はしっかりと逃さず聞いた。
━━……ああ
ああ、ずっと……会いたかった。
声も久々聞いたな……懐かしい。
転生……か? わからないが……。
と、再会に歓喜しながら「━━っ……ミゼーア……」と少し涙ぐみながら彼女を呼ぶ。
当の本人は「?」と固まっていた。
彼女は目の前の男が自分と別の人とを見間違えているのだろう。と、思っていてもう一度助けを乞うた。
「た、助けてください……っ」
再び聞こえた小さなそれもまた紫蘭はしっかり聞き取っていた。それを聞いたのと同時に肩を持ち、やさしく紫蘭は後ろにミゼーアをやる。
そのすぐ後に、彼女を狙ったであろう剣が降りかかった。
「━━っ」紫蘭は寸で肌の出ている右肩から氷の剣を取り出す。
攻撃した男は「なっ?!」と剣を離す。
その剣は氷の剣とくっつき、それを氷の剣と共に「彼女と喋っていると言うのに……」
と、文句を呟き横に捨てた。
「かかってこい」
という風に紫蘭は次の剣を取り出す。
取り巻きもそれに怯みながらも戦闘体制を取る。
先頭にいた男が眉間を押さえながらはぁ……とため息をつき、紫蘭に声をかけた。
「……その女に用がある。
何もせず渡してくれねぇか?」