第十一話
黒き不定形の猫が見送り、冬が翔ぶ。
灰の世界へ。
その空の下。
アスラが運転する赤いスポーツカーの見た目の魔道車━━魔石を利用した車が走る。
走行するのは舗装されていない道。しかし馬車よりもガタガタすることはないし時間短縮にもなる。
揺れがほとんど無いので車酔いに遭う人は精々紫蘭くらい。
魔石が原動力となっていて、浮遊の魔石も入っているため少し浮いている。アスラの車のようにスマートなものばかりで、金持ち御用達。種類があり浮遊の魔石なしの車や、貨物用などなど。例えば四駆の魔道車は冒険者たちに人気であった。
ちなみにアスラは「尻がダメージを負わない」と、馬よりこちらを愛用していた。それに炎の緋。気に入っていた。その車にゆったり寛ぎ運転しながら外を眺める。
まだ雪の降る季節には程遠いが、粉雪の舞う外。
(……雪がちらついてきてんな。
師匠が近くにいるか、もう到着してるかもな……何もしてなきゃいいケド。
━━「昔はまだ春夏秋冬味わえたのだが……」とかなんとか言ってたな
あの人も、自分の力制御出来てない、とかか?
意外だな。そんな風には思わなかったけどな……
俺もまだまだだけど……、あの竜の教え、良い機会だったなぁ。感情によって変化する、かぁ。
魔石の知らない使い方とか色々教えてもらったし、やってみるかぁ。
紫蘭様戦い方とかサボり方くらいしか教えてくれてねーからな。ついでに手合わせもお願いすっかな!
ってか、これに酔うのは異常だな。耐性無さすぎじゃね? ああ、でもあの竜も「あの車は嫌いだから、いつもリゼ乗せて帰ってる」って言ってたな。竜とか獣人とかも苦手なのか?)
と、紫蘭が愚痴っていたこと、先の任務のことを思い返す。
この雪は確かに紫蘭が行く場所必ず降った。それも季節関係なく。
しかしアスラは炎使いで、体温も高め。
当の紫蘭本人も寒さは慣れっこ。
彼らは不便する事はないが、
(そこに住む人間は溜まったもんじゃないだろうなぁ〜 他人事だけど。
ま、そんな事より任務かぁ
休めるなら休むんだけどなぁ……ししょーうまく使お。
なんでこうなったっけ……?こんな怠惰じゃなかったんだよなぁ。副作用、代償はあるとは聞いてたけど、それか。
この髪の色だけじゃなかったんだな。
確かにギルドで一番になりたかったし、それならこの騎士団にって思ったんだよな。故郷でも火竜様に力ちょーだいっつって言っても罪人を処断する目的で人外にして手元で使っているからおまえはだめって言われたし……。別にいーじゃん……
俺向上心あるし強くなる方法あるならそれ選びたいし。そう言う理由で聖騎士に入隊した気がする……魔石より強さを誇示できるし
よく覚えてないなぁ。
よくあいつらも付いてきてくれたよな。いや、提案はレイラからだっけ?
アレ?
ちょっと前に百年記念してくれたっけ? ……挨拶に来てくれたっけ??)
と、黒髪に混ざる赤紫のメッシュをくるくる指に巻きながら同僚、元パーティメンバーを想った。
「えっと……
まあ、ルシは最近火の席で戦ったからわかるけど……あーーー、意外と早いんだな百年って」
と、噛み締める。「アイツら第何部隊だっけ?」「今何してんだろ」などと物思いに耽りながらも、タブレットで地図を確認し、
「お、着いたかな?」
と、車から降りた。
同時に「さっむ」と声に出す。
教会本部の浮いている帝都より数時間。
港町に着いた。
街は海に近い為か、元々温暖な気候なせいか椰子の木が道路に等間隔で植えられていた。
その椰子の木も今は雪化粧を施されていた。
馬車より魔道車の方が見受けられ割と裕福な者が多いらしいことが窺えた。もしかしたら、隣の市の魔石とかの運輸で一緒に栄えているのかも……と外を見ながらアスラは思う。
市街から離れまた椰子の木と海岸沿いを走り、丘を上がって行ったところに教会があった。
アスラは今走ってきたその情景を振り向き見ていた。そして鍵を弄びながら、「誰か来ないかなぁ」と思いながらフラフラしていると、木造の教会から神父と思わしき人物が出てきた。
「お待ちしておりました」
と、神父がアスラを出迎えてくれた。
それに、「よろしく」と挨拶をする。
チラッと横を見ると教会に隣接された建物━━孤児院などの福祉施設。やはり普段はあまり雪なんて降らない様で、孤児院の子供や大人まで「雪だ」「雪だ」ととても珍しそうに触る。
「アレ……? えっと、紫蘭様……水天様は?」と嫌な予感しかしないアスラがとりあえず聞いてみると、
「いえ、まだこちらには来ておりませんが……? な、何か連絡手段とかはないのでしょうか?」
と、神父が困惑と心配するように答え、連絡手段もないことに首を振った。
(あんなに煽っておいて、可愛い弟子を置いてけぼりして、自分は迷子かぁ……。それはそれで面白いしほっといても。イイけどどうすっかなぁ)
と、アスラは灰の空を仰いだ。