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Cocytus  作者: みらい
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第十話



 あの後三日帰って来なかったアスラ。

 一度帰った竜が駆け付けてくれ、マントとタブレットを「すみません……」ととりあえず返し「私の宰相コレクション……」と泣かれた。

 

 全裸で転送機まで行くのは人の目がある。

 かと言って関所の予備はないという。

 アスラがどうしようか迷って枢機卿たちを頼る。

 三日ぶりに会った枢機卿たちが一層老け込みボロ雑巾と化しているのにアスラが首を傾げる。

 紫蘭は色々と『聖女様』に関して赤裸々に語ったようで満足気。そんな御機嫌にっこにこなところ、枢機卿たちが仕返しの如く、

 

「こいつを乗せて帰れ」と紫蘭を処す。

 

「まあ、コスパも良いっすね……」とアスラは師をチラ見する。紫蘭はおまえはどっちの味方だという顔をしていた。

 

「ミゼーアも乗せたことないのに……」と何故か幸せそうな紫蘭を地獄に落とす。そうして二人目を泣かせてから本部に帰ってきた。











 はぁ……と、再び真っ白な円卓の豪華な椅子ではなく隣の椅子に座って紫蘭がため息をつく。

 まるでイライラを受け止めるよ! と言わんばかりに察しの良い黒い一つ目の猫がぴょこぴょこ飛んで来て、豪華な椅子に置かれた手の下に潜り込む。

 紫蘭はそれに癒されながら、


「まあ、スライムの方はどうせまた沸く。全く……」と、紫蘭。


「はへ……。す、すみません、ししょー。送っていただきありがとうございました……」


 先の三日間の事もあり萎れるアスラ。

 火を付けて、燃えると消費するまで止まらない。

 が、デスクワークや乗り気のない時は今回のスライム退治の任務を最初紫蘭に行かせたように自分から動かない、相手にさせようとする気分屋。

 制御の効かない、オンオフも強弱もない火炎放射器だと言われた時もあった。


「まあ良い。

 その取引とやらやるか?」


「ああ、これすね」と、やる気な紫蘭に少し驚く。

 資料を出して、アスラはそこに飾り置いていた自分の鎧を着る。

 

「……うーん」


 黒猫の様なそれを指に絡ませながら適当に見る。

 その間紫蘭はその一つ目の猫とたまに目を合わせにっこりする。

 多分内容入ってないな、とアスラは思った。

 前述のようにアスラは教会のデスクワークは大嫌い。しかし戦闘と紐付けられる事柄、情報などの収集は好きらしく、例えばギルド時代依頼の内容全て暗記する習慣があった。だから今回もある程度の情報は入っていたので概要を伝えた。


「どうやらその変な取り引きとかのせいで、帝国の評判ガタ落ちらしいんすよねー。もしかしたら、教会のことも悪く言ってるんじゃないかって感じで。

 ただこれが他国による工作かテロかってのはまだ不明みたいっす」

 

 と、着替えながら資料をチラ見して、「あ、紫蘭様がちょっとやる気なのこれすか」と加える。

 

 資料も魔石を入れ込んだ魔道具による、写真や動画。

 そして書類。

 その中の写真の一枚を見て、固まる。

  

 少し背の低く幼い自分の妻━━に、似た人物が映っていた。

 一つ目の猫も驚いている様子。

 その目で凝視しては、紫蘭を見、また写真を見つめた。

 

「すまないな……またここで待ってくれ」


 と、その黒い一つ目の猫を優しく諭す。

 ガタッと椅子を立ち、「ほら、出発するぞ」と促す。

 そうなることはわかっていたアスラは、呆れながらも、

 

(よかったのか、悪かったのか。

 分かんねーけど、この子はご愁傷様って感じだな。


 ししょーがめちゃ乗り気なら俺はテキトーすればいっか! こうしてっとどうせ、またヤル気出る事あるだろうしな。

 ってか、……ししょ、内容聞かなくてよかったかなあ? 

 先に第ニ部隊とかまた別に偵察がいたりとか説明……



 ま、いっか!!)


 と、その写真の娘に同情しつつ、己は再びサボる気のアスラ。

 

 紫蘭は「ふ、ふ。シスター服か……」とか「また会えるとは」等と、歓喜していた。

 少し不服そうに猫がまた紫蘭の代わりに水の席にいた。

 

「道中である程度の作戦でも立てておけ 後で聞く」

 と、歓喜の中でも冷静に紫蘭が指示を出した。

 

 それに「さりげに押し付けてるっすよね」と、アスラは呆れつつも、

「まあ、考えるだけなら、了解すけど。

 で、この娘サンには紫蘭様好かれたいでしょ?

 上手いこと作戦立てます⁉︎」

 

 と、己の師匠を擦る。紫蘭も、機嫌を直したらしくアスラが茶化しているが、特に叱る様子は無く、

 

「はは、」と嬉しそうに笑う。

 

(普段から仏頂面や無愛想な人間が笑うと、ギャップがあって良いケド、この人が笑うとこえーんだよ……。

 やっぱししょーに任せんのやめよ……)


 と、アスラは寒気を感じ、ブルッとした。

 紫蘭のこのやる気を失わせないため。

 己の怠惰をこのままかき消すため。

「さっさと行きますか」と背中を押す。

 

 教会は巨大な浮遊石クリスタルの上に建っており、そのせいか外は寒く、

 

「ううーー」と、アスラ。


 紫蘭はそのまま白きおおとりへ。

 外は雪が降り、同じ白。

 にも関わらず、存在感が神々しい。

 そんな鳥が、

 

「俺は飛んで行くがおまえは飛ばんのか?」と、(さえず)る。


「随分生き生きされててうれしいっすよ…」

 と返して外に出た。

 

 

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