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Cocytus  作者: みらい
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第一話






 海岸沿い。

 波に打たれ珊瑚礁のように形取られた白い岩。

 そのためこの街は断崖絶壁の岩が多く、空から見るここはまるで肋骨が隆起した変わった景色。

 

 そのせいかプライベートリゾートの様になっており、お互い顔を合わせにくい秘匿性も備えていた。だからそう言った位の高い人間達の別荘や避暑地として活躍していた。

 その外観を損なわない様にどの家も白くシンプル。最早街全体が観光地となっていた。

 

 その街外れの崖の上。

 白い家がポツンと建っていた。

 ここは薔薇の棘の森を通って行くか、飛べる者はその崖から行く事はできた。

 このように人によっては行く事も難しい家。

 その家の崖の下。

 そこに住む二人が遊んでいた。

 一方は波打ち際。もう一方は白い砂浜にパラソルを立ててその下にいた。

 

 波打ち際にいる方は女。

 深緑の髪が風になびきうねる。

 海水のせいで所々肌に張り付き艶めかしい。

 波の満ち引きで「きゃっきゃ」と楽しそうに水遊びをしていた。

 その薬指に付けている指輪は幸せを知らせているかの様に輝く。

 

 そしてもう一人青年。彼は後ろの方にパラソルや椅子を用意し、その椅子に横になっている。

 体の線が細く、肌も陶器の様。

 髪も絹糸の如く繊細。

 全て白。

 瞳孔は赤。瞳は白。

 彼もまた薬指に指輪。

 その外見から見て、身体が弱いのか日差しが辛そうにする。

 

 動くのもキツいのかそこから波を操り、女と遊ぶ。海から離れ動けずとも、時折楽しそうな笑顔を見せる。

 チリと胸が痛み水を操るのを止め、胸を掻き抱く。

 

 女がそれに気付いたのか。それとも休憩か。

 海から上がり「アリス」と、その青年を呼ぶ。


「……大丈夫?」と聞いてきた。

 ここへ来て遊ぶずっと前。二人は婚約をして、二人ウキウキでここに遊びに来ていた。

 そこから元々身体が弱いのもあるが、先程溺れかけていて再び蘇生してからのこの状態。申し訳なさもあり少年は、せめてとここから水を操り楽しませていたが、心身共にきつかった。

 今はもう伝える力も残っていないが、それを見て心配そうに女はもう一度声を掛けた。

 

「アリス?」

 

「……――アリス?」と、何度か確認。彼が寝ていると判断した女は誰にも知られず、こっそりと囁き覆い被さる。

 

「アリス……、愛してるわ――。……永遠に」

 





***






「――紫蘭様?」

 

 白い部屋を硝子張りで外の雪燈(ゆきあかり)で照らされ万華鏡のように円卓を彩り真ん中に佇んでいた。

 たった四人しか座れない円卓の一つに座る青年――ではないが同じ容貌の騎士姿の男が己を呼ぶ声がしたため目を開ける。

 奇妙な黒く丸い猫耳の一つ目の生物がその膝元に乗っておりそれも目を開けた。


 そこには、黒寄りのグレーの甲冑を着。

 癖毛の赤紫のメッシュが幾本か入った黒髪を今日は後ろで一つに纏めた騎士がいた。

 普段は前髪も適当だが、今日の為オールバックの男。

 紫蘭、と呼ばれた白銀の鎧を身に着けた男が目覚めたのを確認し、「もうすぐ、戴冠式です」と、騎士が伝えた。

 

 不機嫌そうに「……そうか」とだけ興味無さげに紫蘭が呟く。その様子に、「ふぅ」とため息とはわからないくらいの息を吐く。それは紫蘭の態度のせい。式典だからと畏って固くなっているせい。

 仕方ない。

 そう思い騎士は「私は出席しますので失礼します。というか俺一応主役なので……」

 紫蘭に伝えるが返事はない。騎士も聞いているか否か気にする様子もない。彼は更に続けて伝えることにした。


「また戻ります。今暫くお待ちください」


 慣れない敬語で伝えて窓の外。

 雪の降るのをチラ見して、目の隅で紫蘭が頷くのを見てから部屋から出て行った。

 残された紫蘭はその一つ目の猫を指でなぞる。

 ソレが心地よく目を瞑る。

 不機嫌なのは彼女……妻との夢を見ていたから。彼が『不死鳥』と呼ばれる程、長寿な為幾世紀も昔の事。

 

 懐かしかったな、良く海には行っていた。……彼女を迎えてからが一番平穏だったな。もちろん、共に居られたあの頃が今となっては最高の時間だったのだが……

 あれはどう言う流れでああなったのだったか。

 

 もう一眠りするか。

 もしかしたら続きの良い夢を見られるかもしれんしな。

 それとも式典に参加するか……いややめだ。


 まさかあまり言わないあれが、愛を囁くなんて……。俺はまだしも彼女が言うのは……。いや、あまりない事だったのに何故だ。あの頃の俺。録音すれば良かった。


 表情には出さないが転寝した時に見た夢だけで嬉しくなっていた。。

 想いに耽る紫蘭がいるこの部屋は魔法の基礎としている四元素にちなんで協会が設立した四天王。

 その円卓。

 紫蘭はその水を司る席。

 だから『水天様』とも呼ばれていた。

 しかし彼はその専用の椅子には座っていなかった。

 というのも、彼の妻がちゃんと居た時彼女が水の席。

 そのため恥ずかしいのか憚られるのかその隣に適当な椅子を持って来て、彼が操る氷を象徴するかの様に透ける透明な足の防具。

 その宝石の様に煌めく美しい足を組みその横に座っていた。


 代わりにその専用の椅子にはその一頭身猫を据え置いていた。それを撫でもちもちしていた。

 式典があるのに参加もせずここでゆったりしていると再び扉が開いた。先程紫蘭を叩き起こした騎士が先刻とは違い砕けた口調であった。


「水天様ぁー」

 


 


 

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