第三歩 出会い
「そろそろ暗くなりそうだし火でも起こすか」
そう思い所持品から薪と火打ち石を取り出した。
魔法杖で火をつけた方が早そうだが火力が高すぎて燃え尽きそうなので素直に火打ち石を使った。
しっかり乾燥していないのかなかなか火がつかなくて苦戦した。
なんとかついたものの煙が酷かった。
「まぁ無いよかマシだよな」
と苦笑し、妥協も大事大事と独り言を言ってると、
ブブブブッ
という音が聞こえた。
なんとも聴き覚えのある音。黄色と黒の模様を持つ、強靭な顎と毒針を持つあの生き物の羽音。
「まさか蜂が……ここ、に」
音のする上の方を見て驚愕した。
さっきまで青かった筈の空が黄色と黒の物体で埋め尽くされていた。
もしかしなくても大群、そして一匹一匹が俺の知っているサイズじゃない。
カラスほどの大きさの蜂?が俺の頭上を覆っている。
「どうしてこうなったんだ?」
蜂を怒らせるようなことしたっけ?と思いながら、目の前の焚き火を見た。
「もしかしなくても……煙、かな?」
と引き攣った顔をすると一頭の蜂が俺めがけて突っ込んできた。
「ぎゃあああ」
と言いながらも新しい武器、【妖刀 龍滅】を抜き、蜂を斬った。
完全には斬れながおそらく倒したであろう。動く気配が無い。
ブブッ ブブブッ
と羽音が強く聴こえたかと思ったら一気に蜂達が襲い掛かってきた。
「だあああ助けてえええ」
と叫びながら龍滅を振り回した。
斬れなくていい、はたき落とすだけでいい、とにかく蜂から身を守るだけでいい。
そう思いながらひたすら振り回した。がむしゃらに、不恰好に、必死に、永遠とも思える位長く。
「はぁ、はぁ、クソがあああ」
ずっと振り回している為疲労が溜まっていった。が今止まれば死ぬと分かっているから止まらない。
しかし疲労が溜まっていることもあり動きが鈍くなっていた。
ドスッ
「ぐはぁっ」
左肩を刺された。油断はしてない、疲労のせいだろう。
そしてすぐに左肩から左手までの部分が痺れるような感じがした。
「やっぱ毒持ってたか……」
すぐさま手持ちから解毒薬を取り出して使い、また刀を手に取り戦い始めた。
もう、どの位戦っているのだろう。
まだそんなに時間がたったような、何時間もたったような、そんな感じだ。
視界が暗く、狭くなってきた。もう朝なのか夜なのかわからない。
はずなのに、敵の気配や位置が鮮明に分かる。
刀の動かし方、刃の入れ方、重心の動き、敵の弱点などが細かく分かる、というよりそう体が動く。
脳が体に命令するのではなく、体が勝手に動いているのを脳が眺めている様な、そんな感じだ。
レベルが上がったのか、武器熟練度が上がったのか、他の要因があるのか。
まぁいいや、なんでも。
俺としては好都合、損は無い。むしろ、ちょっと面白い。
研ぎ澄まされる感覚が、敵を切り裂く感触が、手に持ってる刀の使い方を理解していく身体が。
もしこれが、あのデカイ蜂からの経験値によるレベルアップのおかげなら、倒せば倒すほどレベルが上がるのなら、
「……よこせ……」
「……俺の……」
「経験値ぃぃぃ」
ずっと戦った、あれからもずっと、
最後の一匹、あれはヤバかった。
女王蜂なのか俺位あった、腹が二つあり、当然毒針も二つあった。
ここまでくるとキモイよりも怖いが勝つ。マジ恐ろしい。
毒針が二つあっただけで、他の奴と身体の構造が同じだった。
ので胸と腹の間の細いところを切り、頭を真っ二つにしたら普通に倒せた。そして俺も倒れた。
少しずつ遠のく意識に抗おうにも、そんな気力は無く、ゆっくりと意識が落ちていった。
「大丈夫かしら、この子」
「呼吸モシテイルシ、大キナ怪我モナイ。イズレ目ヲ覚マスダロウ」
なんか声が聞こえる。一つは女性の声でもう一つは少しカタコトな男性の声。
誰かが倒れてる俺を見つけて手当てでもしてくれてるのだろう。
体の痛みも少ないし、温かい。側で火を起こしているのか、パチパチと音がする。
そして、この頭の感触から考えるに、膝枕をしてくれている。
膝枕!いい響きだ。かわいい女の子にしてもらいたいことトップ5に入るであろうものだ。
イイねぇ、このなんとも言えない高さ、しっかりとしたガチガチの筋肉、……ん?ガチガチの筋肉?……
ゆっくりと目を開けると9割の驚愕と1割の悲しみと共に飛び起きた。
「のわぁぁぁぁ!!!」
「アッ、オキタ」
「なんだお前ぇ!」
「ナンダトハナンダ、失礼ナ」
そうカタコトに話すそいつはまるで鬼の様だった。
お母さんのオニー!とかそういう比喩表現じゃなくて、赤い肌、発達した犬歯、額から角が2本の文字通りの鬼。
純粋な恐怖と、あぁ今コイツに膝枕されてたのかという悲しみが心を埋めている。
「目覚めてすぐに今の貴方を見たらそうなりますよ」
そう言いながら鬼の背後から顔を出したのは、綺麗なエルフのお姉さんだった。
「ソレモソウダナ」
と2人でケラケラと笑っている。
なんというか、美女と野獣……もとい美女と鬼という不思議な組み合わせであった。
そう思いながら苦笑を浮かべながらエルフのお姉さんの方を見た。
なんか目が離せない。確かに綺麗な人ではあるが、目が離せなくなるようなほど俺は女性に飢えてない……ハズ。
いやまあ、確かにこの人に膝枕して欲しかったとは、わりと思ってはいるが……
「そういえば自己紹介がまだでしたね」
と、こちらを見てきたのでおもむろに体をビクッと震わせながらも冷静に受け応えできるよう向き直った。
エルフのお姉さん、ちょっとニヤッとした……バレたカナ?
「私はラニア、こちらの赤鬼がオリギーです。」
「ヨロシク」
「貴方のお名前は?」
「……アフィスです」
「アフィスって言うのね、よろしく」
と握手を求めているのか手を差し出してきた。ガン見してたのはバレてないのかも知れない。
とか考えながら俺も手を出して握手をした。
「貴方、凄く情熱的な目で私を見ていましたね」
あ、バレてた
「あのー、えーっと、ゴメンナサイ」
「そんなに魅力的かしら?」
うっふんという言葉が似合うポーズをとりながら俺に聞いてきた。
そう聞かれて少し焦ったが、
「はい、とても」
と俺は答えた。
嘘は言っていない。顔は整っているし髪もサラサラで綺麗な金髪、胸も大きくスタイルもいい、脚も長くすらっと伸びている。
魅力的かって? そりゃもちろん。だが目が離せなくなるほど俺は女性に飢えていない。さっきも言ったけど、
と一人で悶々としていると「ふふふっ」とラニアさんが笑い出した。
「素直に答えてくれて嬉しいわ。でもごめんなさい、ちょっといじわるしちゃった」
「へ?」
「それねー私のスキルのせいなのよー」
スキル? ドユコト?
「私のスキル[注目の的]のせい。貴方が私から目が離せなかったのはこのスキルのしわざ」
未だに理解が追いつかずきょとんとした俺を見てまたラニアさんは笑い出した。
「そうそう、そしてオリギーの……ってあら?オリギーどこにいったのかしら」
とラニアさんが辺りを見回していたら後ろから
「戻ったぞー」
と声がしたので振り返るとそこに男の人がデカイ袋を二つ抱えてこちらに歩いてきた。
誰だろう? まだ仲間がいたのかな? と考えていると
「もう、オリギーったらどこに行っていたのですか?」
……ん?
「後始末と戦利品回収に。数が数なだけ時間がかかるからな」
え? あの、え?
「それもそうですね、それで終わりましたが?」
「魔石に毒袋に針、巣もここに」
と右の袋からバカでかい蜂の巣を出した。
「右の袋は巣だけでいっぱいでしたのね」
「かなり大変だったぜ」
はっはっはーと笑うこの人がオリギーさん?
あの2メートル半もあった赤鬼のあの?
まぁ確かによく見たら角はあるし犬歯も大きい。
でもさっきの赤鬼みたいに太い筋肉は無いし、背も190位で大きいけど2メートル半も無い。
「あのー、オリギー……さん?」
と恐る恐る聞いてみた。
「おう、そうだぜ。俺がオリギーだ」
「え? じゃあさっきのアレは?」
「俺のスキル[怒りの鬼]の力だぜ」
またスキルか、
「このスキルを使うと一時的に赤鬼の姿になれるんだ」
「へー、赤鬼になると力が上がったりするのですか?」
「赤鬼になるとほぼ不死身になる。即死のダメージをうけると魔力と体力と傷が一瞬で回復する」
「凄いですね、じゃあ赤鬼になったら敵に向かって突っ込めるじゃないですか」
「なにいってんだ?即死のダメージじゃないと意味ないし、それに俺は魔法杖を使うから特攻とか意味ないぞ」
「……はい? 」
「だから俺は魔法主体で戦うんだよ、それに赤鬼になってもパワーもスピードもまったく上がらんし」
「え? じゃあそこの金棒は何なんですか」
それで敵を叩きつけるんじゃ無いんですかと尋ねると
「これは魔法杖だぞ」
となに言っているんだという目で見てきた。
俺がそう言いたいよと思いながらラニアさんを見ると同じような目でこちらを見ているので俺が変なのかと認識した。
「そういえばラニアさんのスキルはどんな効果が?」
と少し居た堪れなくなったので話題を逸らすために聞いてみた
「私のはひとやモンスターに注目されるだけですよ」
「え? それだけ?」
「ハイ、それだけ」
なんかまた気まずい雰囲気になった。
「そんなことより腹減ったろ、これを食え」
とパンと焼いた肉に甘い香りのするソースがかけられたものがのっているお皿を渡してきた。
いつのまに作っていたのだろう、でもちょうどいいので受け取って、いただきますと言って食べてみた。
「旨い、この肉どうやって作ったんですか?」
「へへっ、旨いだろ。あの巣から採れた蜜を使ったんだ。そういやお前一人でこいつら全部倒したのか?」
「はい、そうですが」
「仲間はいないのか、途中ではぐれたとか」
「いえ、そうではなくて……その、なんというか、信じられないかも知れないですけど………………」
と2人に今までの経緯を話した。
信じてくれないだろうと思ってはいたが最後まで真面目に聞いてくれて、そして信じてくれた。
さらにもし行くあてがないなら私達のパーティー来ませんか?と言ってくれたのでついて行くことにした。
その後この世界のことやこれから行くところについて色々と教えてもらったあと、その場で寝た。
明日は朝早くから動くためもう休もうということだった。
見張りは2人が順番にするそうだ。
俺もやろうかと尋ねるとお前は休んどけと断られたのでその言葉に甘えることにした。
簡易テントの中に入り俺はスキルを確認しようとしたが眠たくてやめた。
どれくらいレベルが上がったのか気になるけど明日ゆっくりみてみよっと。