第一歩 どうしよう
小鳥が鳴き、葉が舞い落ちる森の中、ある男がそこにいた。
「どうしよう、この状況」
そう呟く男は片足を縄で縛られ木に逆さに吊るされていた。
誰であろう、【アフィス】である。
数時間前……
俺は目を覚ました。
目の前に青空が広がっているのは俺が仰向けになっているからだろう。
「イテテ、ったくあのクソババア」
と悪態をつきながら起き上がると少し違和感を感じた。
痛みを感じだからだ。
「説明書には痛みが無いってあったはずなんだけど」
そう呟きながら頬をつねってみた。
確かに痛い、気のせいとかでなくやっぱり痛い。
「まさかゲームの中に吸い込まれた、のか? 」
「……そんなワケないか」
そう自己解決して後ろを振り返るとそこに何が居た。
緑色の肌、1メートルもなさそうな身長、額に小さな角が一本、
おそらくゴブリンであろう生物が俺を見ながら固まっている。
俺はただなんとなく気まずくなり特に意味はないが、作り笑顔とともに会釈した。
するとゴブリンは懐から笛をゆっくり取り出し、それを勢いよく吹いた。
その瞬間色んなところから足音が聞こえ、嫌な予感がした俺はすぐさま走り出した。
「やばいやばいやばい」
そう叫びながら逃げていると左の腰あたりに違和感を覚えた。
ふと見てみると刀がそこにあった。
「コレで戦えってことか?」
と刀を抜くと目の前に説明が出てきた。
―――――――――――――――――――――――――
【ナマクラの刀】
状態の悪い刀 最低の品質だが無いよりはマシである
[武器効果]
なし
―――――――――――――――――――――――
うん、ひどい説明だな
まぁコレさえあれば戦える。
そう思い敵に向き直り刀を構える。
「でりゃあああああ」
ゴシャ パリン
ん? パリン?
なんか嫌な音がしたため、恐る恐る手元を見ると頭が潰れたゴブリンと綺麗に折れた刀があった。
「えー……どんだけ状態悪いんだよ」
などとちょっと呆けていると大量の足音が聞こえた。
「ヤベ、まだいるんだった」
と一歩足を踏み出した瞬間、右足が上に引っ張られた。
「……あれっ?」
視界が反転しぶらぶらと揺れている。
今の状況を理解するのに時間はかからなかった。
「あー、罠にかかったのか」
我ながら情けないと独り言を言ってるとゴブリンが集まってきた。
罠にかかった俺を見て「こんなのに引っかかったの?」という哀れみの目を向けている。
助けてくれるかなーと期待してたが、いそいそと武器を用意し出したので大分焦りだした。
「どうしよう、早く逃げないとやられる。なにか、なにか良い方法は」
と慌てながら必死に打開策を探す。
まず折れた刀で縄を切ろうとしたが全然切れなかった。
今度は手で解こうとしたが、縄がしっかりと固く縛られている為解けない。
藁にもすがる思いで暴れていると、左手に弓が現れた。
「…………うぉあああ、なんかでたぁああ」
「いや、何でもいい。とりあえずコレで、」
と弦に右手をかけるとさっきまで無かったはずの矢が現れた。
弓を大きく引き、狙いを定めて右手を離した
バシュッ
狙い通りに3本の槍を運んでいたゴブリンの頭に当たった。
「よしっ」
ギャイギャイと慌てているゴブリン達に再度狙いを定めて何度も射抜いた。
流石に状況を理解したゴブリン達が俺から距離を取ったのを見て少し安心した。そして調子に乗った。
「おいどうした、怖気付いたか? おいおい情けないなぁお前ら。そんなんじゃ俺を狩れなイテッ」
別に痛くは無かったが驚いてしまった。
遠くにいたゴブリンが石を投げてきて当たったのだ。
つまり何が言いたいのかって?
弓を落とした
「あー、あのー、拾ってもらえたりしないっすか?」
と少しずつ青ざめる俺に対してゴブリン達はニタァと笑みを浮かべた。
そう、振り出しに戻った。
さっきと違うところといえばゴブリン達の殺意が高まったってところかな。
「いぎゃあああ助けてえええ」
とゴブリンの攻撃を体をよじって回避しながら何も無いはずの空間を掴む。
何も無いことは百も承知だがそれだけ必死だった。
その時右手に何かを掴んだ様な感覚があった。
普通なら右手を確認する筈だが状況が状況な為がむしゃらに投げた。
すると一体のゴブリンに当たり、そのゴブリンが持っていた槍が別のゴブリンに刺さった。
今度は左の手に何かを掴んだのですぐに投げた。
今度はそもそもが大きかったので3体くらい同時に潰れた。
そうやって何度も投げているといつの間にか全てのゴブリンを倒していた。
「はぁ、はぁ、やった、のか?」
ぱっと見人影もなく足音も聞こえない。
やっと落ち着いた俺は体の力を抜いた、そして呟いた。
「どうしよう、この状況」
と今に至る、
「さてまずはこの縄をどうするかだな」
さっき折れた刀で縄は切れなかったし、手で解けそうも無い。この縄を使って上によじのぼり縄を解くにしてもさっきまでの騒動でそんな力が残って無い。
あれ? 詰んだ?
そう考えていると一つの案が思いついた。
体を大きく揺らして縄をくくりつけているあの枝を折ればいい。
体力的にギリギリだがコレしか無い。
そう思いついたら後はやるだけ。
「ふんっ、ふんっ、ふんっ、」
と体を揺らしてなんとか枝を折ろうとする。
ギシッ、ギシッ、と枝の軋む音がなっている。
「もうっ、すこしっ、」
ブチッ
嫌な音がした、何が千切れる音。枝では無い。この音は縄の方だ。
おそらく気づかなかっただけで刀の切り込みがあったのだろう。
縄が切れると思わなかったこともそうだが、それよりも恐ろしかったのが切れたタイミングだ。
片足が縄で縛られて吊るされている為、俺は振り子の様な状態で体を大きく揺らしていた。
そして位置エネルギーが運動エネルギーに完全に変化した瞬間に切れたのだ。
あっ、死んだ
そう思った瞬間
バァン
と柔道の前周り受け身をとった。
別に柔道を習っていたわけでは無いが中高と学校の授業でやっていたのでなんとなくできていた。
「助かったのか?」
ヤッター ありがとうセンセーと叫びドサッと尻もちをついた。
「あー疲れた」
そう呟きながら辺りを見回した。
あちこちにゴブリンの亡き骸が散らばっていた。
そして剣やら槍やらが刺さっていた。
「コレ、俺が投げたやつか」
とおそらく俺が投げたであろう武器を拾い集めた。
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【ナマクラの剣】
状態の悪い剣 最低の品質だが無いよりはマシ
[武器効果]
なし
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【ナマクラの大剣】
状態の悪い大剣 最低の品質だが無いよりはマシ
[武器効果]
なし
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【ナマクラの槍】
状態の悪い槍 最低の品質だが無いよりはマシ
[武器効果]
なし
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――――――――――――――――――――――――
【ナマクラの大鎚】
状態の悪い大鎚 最低の品質だが無いよりはマシ
[武器効果]
なし
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【ナマクラの弓】
状態の悪い弓 最低の品質だが無いよりはマシ
[武器効果]
なし
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【ナマクラの魔法杖】
状態の悪い魔法杖 最低の品質だが無いよりはマシ
[武器効果]
なし
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説明が全部酷い。つか刀の時と説明全部同じじゃん、
そういや俺どこから出したんだろう。
確か手をこう上から下に
ブォン
おー、なんか出た。てか疲れて反応薄くなってきたな。
どれどれ?
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【アフィス】
レベル7
武器熟練度
[剣]レベル3
[大剣]レベル3
[刀]レベル3
[長柄武器]レベル3
[大鎚]レベル3
[弓]レベル3
[魔法杖]レベル1
スキル
[器用貧乏]
武器熟練度がレベル50まですぐに到達するがそれ以降はまったく伸びない
所持品
[ナマクラの剣][ナマクラの大剣]
[ナマクラの刀][ナマクラの槍]
[ナマクラの大鎚][ナマクラの弓]
[ナマクラの魔法杖][水][携帯食]
[傷薬][包帯]
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なるほど、ここから武器を取り出したのか。
多分ゴブリンを倒してレベルと武器熟練度が上がったのだろう。
魔法杖の武器熟練度がレベル1なのは魔法を撃たずに投げて攻撃したからだろう。
だってマシンガンを敵に投げつけても射撃能力が上がらないのと同じだろうし。
そして気になるのがやはりスキルだろう。
改めて思う、ふざけたスキル与えやがって、
一瞬凄いスキルに思うが一言余計なのが混じっているんだよなぁ
「はぁ、これからどうしようかな、」
ガサッ
物音がした方向を見ると一匹のゴブリンが瀕死ではあるが動き出した。
咄嗟に折れた刀を出して首元を掻っ切った。
声も出せずに倒れたゴブリンを見て他にも生きてないか不安になり倒したゴブリン16体全ての首を切った。
そして罠に使われていた縄でゴブリンの足にくくりつけて運べる様にした。
ちなみに縄が足りなかったので木の皮を剥いで細かく裂き手作りの縄を作った。
運べる様にしたのはどの素材が売れるのかわからないからだ。
これだけのことがあった為、ここはもうゲームではないことが何となく理解していた。
もしここが異世界的な世界なら冒険者協会的な所で売れるだろうと思ったからだ。
俺の読んでいた異世界物と同じであればなんだけど、
「少し休んだし、とりあえずこの森ぬけるか」
と勢いよく立ち上がりゴブリンをくくりつけた縄を握りしめて歩き出した。
そしてすぐに止まり、半分くらい魔法杖を使い燃やして土に埋めた。
16体は流石に重すぎた
魔法杖の武器熟練度がレベル3に上がった