9.空白の百年間
死にきれない。彼女に好きと伝えるまでは。僕の意識は確かに存在する。でも、なにもできない、レイさんの声すら聞こえない。ただ徒に時間が過ぎていく。そんな時間が長く続いた。
『マスター、生きてますか?』
ふとレイさんの声が聞こえる。
いや、こっちのセリフだけど。どうなったの?魔力感知も使えないし、唯一あった触角もない。これじゃまるで本当に死んでいるみたいだ。
『いや、文字通り死にました。ブレスによって木っ端微塵にされて。』
本当に死後の世界ってあったんだな。今度こそ死んじゃったのか。
ふと思う。何でレイさんがいるの?
『私の愛の力です。』
嘘だよね?
『半分くらい嘘です。』
じゃあ、もう半分は?
『私が頑張って魂を維持してるんです。』
魂を維持?
『まず、すべての生物には魂が宿ります。たとえそれが意思を持っていようといまいと。そして、その生物の細胞すべてが機能停止すると、魂は魔力となって空気中に霧散し、分解されていきます。その霧散を私が何とかして食い止めてるのです。』
ん?よくわからんが、生物的には死んだけど、レイさんのおかげで魂だけは無事だったってこと?
『もっと、褒めてください。霧散した魂を探し出すのは本当に大変だったんですからね。本当に、百年くらいかかったんですから。もう。』
なんだか、レイさんが涙目になっている気がする。本当に頑張ってくれた、そのことだけは伝わってくる。
ありがとう、レイさん。本当にありがとう。こんな僕のために。
『たまに素直なんですよね。』
僕はいつでも素直です。でも、魂だけがあっても体がなければ、幽霊?状態じゃない?
『それは大丈夫です。レヴィが細胞一つくれるらしいので。』
そう言えば、あの後どうなったんだ?明らかにレヴィが狙われて僕が巻き沿い食らったみたいな感じだったけど。
『あれから大変だったんですよ。・・・』
レイさんは水龍内での勢力争いのこと、そして事の顛末を教えてくれた。
え、要するに僕はただ勢力争い巻き沿いを食らってブレスで瞬殺されたってこと?
『まあ、そうです。』
自分の死因が恐ろしく大したことがなくて、僕は少し憤った。まあ、起こったことは仕方ない。
結局、レヴィがそのヴィレンドとやらをぼこぼこにして見せしめのために殺したらしい。レヴィって意外に怖いんだな。
『じゃあ、そろそろ乗り移りますよ。』
よろぴく。
レイさんがいろいろと難しいことをして、僕の魂はレヴィの細胞の一つに入った。そして、ヴィレンドの体から分離した。魔力感知が発動し、視覚が戻った。
次の瞬間、天の声(仮)が聞こえてきた。
「経験値が一定に達しました。
個体名:原始の生物(原生生物) レイ LV.5 がLV.10になりました。
各種ステータスが上昇しました。
スキル:レイ の機能が上昇しました。
スキル:蘇生 を獲得しました。
スキル:傲慢 を獲得しました。
称号:蘇りし者 を獲得しました。
称号:蘇りし者 によりスキル:再生魔法(下) を獲得しました。
称号:再生の支配者 を獲得しました。
称号:傲慢の王 を獲得しました。
スキル:単細胞の憤り により進化が可能です。」
そして、復活したのを喜ぶ暇もなく、スキルを確認する間もなく、レヴィが大声で念話してきた。
「レイ、無事か?私のせいでこんなことになってしまって本当に申し訳ないわ。」
珍しく、レヴィが下手に出ている気がする。
「うーん、今度からはこんなことやめてくれよ。」
「レイが生き返ったわ。先生ありがとう。」
『どういたしまして。』
「まあ、レヴィはレヴィでいろいろ大変なんだろうけどさ。」
「大丈夫よ。今のところは勢力争いはなくなったわ。私のレベルが上がって歯向かえるものがいなくなったのよ。」
「それは・・・よかったね。」
これがいわゆる暴君というやつだな。本人には自覚ないと思うけど。
いろいろ話しをしてレヴィは帰って行った。
ふう、とりあえずスキルの確認だ。レイさんお願いします。
『はいはい。』
「個体名:原始の生物(原生生物) レイ LV.10
スキル:レイ、単細胞の憤り、熱耐性(上)、毒耐性(中)、高圧耐性(上)、怠惰、暴食、傲慢(new)、嫉妬、蘇生(new)、再生魔法(下)(new)、闇魔法(極)
称号:怠惰の王、暴食の王、傲慢の王(new)、嫉妬の王、単細胞の王、野心家、蘇りし者(new)、再生の支配者(new)
眷属数:1」
レベルが一気に五も上がった。それになんかいろいろ獲得したような・・・とりあえず確認だ。
「特殊スキル:蘇生・・・一度死んでも、一定条件下で復活することができる。他者に使用することも可能。取得条件:一度死んで生き返ること。
伝説スキル:傲慢・・・精神攻撃が完全に無効化される。取得条件:スキル:蘇生の獲得かつ大罪スキルを一つ以上保有していること。
傲慢の王・・・あらゆる生物を見下したものに与えられる称号。魔法防御力のステータスが10%になる。その他のステータスは十倍になる。
称号:蘇りし者・・・死んで蘇った者に与えられる称号。取得条件:特殊スキル:蘇生 の獲得。
称号:再生の支配者・・・再生魔法の行使が簡略化される。取得条件:称号:蘇りし者 の獲得。
特殊スキル:再生魔法(下)・・・再生魔法が行使できるようになる。」
大罪系が四つになりましたー、イエーイ・・・
じゃねーよ。やばいやん。本当にこれ全部集めちゃうような気がする。そういうフラグだよな。
しかし、こうもぽんぽんと伝説スキルが手に入るとは思えないんだけど。
『一つ心当たりがあります。スキル:単細胞の憤り はスキルの獲得の補助を行うため、その効果が現れてると考えられます。』
ふーんじゃあ意外に、単細胞の憤りってチートなのかもしれないな。
そして、ふと疑問に思う。
ここどこ?見上げるときらきらと輝いている海面が見える。
『ここは、海底四十メートル、赤道付近の大陸棚です。』
!!深海脱出だーーー。よく見ると、周りには海藻らしき草が見える。そして、普通の魚が泳いでいる。まるで、普通の海だ。
『普通の海です。』
そうなんだけど、感動してるのですよ。深海なんて本当になにもいなかったし、ブラックスモーカがぶくぶくしてるだけで。
それより、海藻?何で凍っているはずの海面が見えるの?
『ここ百年でこの海に変化があったのです。実は、ヴィレンドとレヴィの争いによってこの海の氷が融解して、一時的にオリス洋が数千年ぶりに海となりました。』
一体どんな激しい戦闘が行われたか気になる・・・それを無視して、レイさんは話を続けた。
『緯度が高い部分はすぐに氷の海に戻ったのですが、緯度が二十度から零度くらいの部分はこの星が少し温暖化していることもあり、氷漬けになることもなく多くの生物が暮らしています。』
へー、じゃあ、ちょっと状況がましになったってことか。熱水噴出孔のところじゃ食べ物には困らなかったけど、ここも大丈夫そうだ。
『ちなみに、私がレヴィにお願いしてここで復活させてあげたのですよ。』
本当にありがとうございます、レイさん。
『いえいえ。』
なんだか、素直だ。
今回は豆知識はお休みです。
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