7.思いを馳せて
なんと、レベルが5も上がりました、パチパチ。
『わー、すごーい。』
なんで棒読みなん?
『だって、ほとんどというかすべて私のおかげじゃないですか。』
確かにそうだけどさ。ちょっとくらい喜んでもバチは当たらないと思ってるんだけどな。
「個体名:原始の生物(原生生物) レイ LV.5
スキル:レイ、単細胞の憤り、熱耐性(上)、毒耐性(中)、高圧耐性(上)、怠惰、暴食、嫉妬、闇魔法(極)
称号:怠惰の王、単細胞の王、暴食の王、嫉妬の王、野心家
眷属数:154377600個」
うん、眷属数が相変わらずすごいな。一億五千万って日本の人口余裕で超えたよな。
『そう言えば、レヴィがこちらに向かっていますよ。』
おお、なんか一週間ぶりだな。最近は話すネタがなくなってきたから僕の前世の話をしている。
「おーほっほほ、私がまたやってきてあげましたわよ。」
「はい、そうですか、ありがとうございます。」
「もう、レイはつれないわね。」
「一週間しか経ってないからね。」
このくだり何回目だよ。もはや、挨拶と化してる気がしなくもないけど。
「それより、レイ。先週の続きを聞かせるのかしら。」
「はいはい、えっとどこまで話したっけ?」
「あなたが小四のとき、幼馴染のライの母親が死んだところよ。」
「ああ、思い出した。」
「それで、どうなったのかしら?」
「今から話すからさ、落ち着けよ。」
「私は落ち着いているわよ。」
レヴィはそわそわしながら近くを漂っていた。
「あれは小四の秋のこと、幼馴染のライちゃんの母親ががんで亡くなりました。知っての通り、僕とライちゃんはずっと仲良くて家族ぐるみのお付き合いをしていたので、僕も悲しかった。
それよりも、ライちゃんはその現実を受け止めることができなかった。小四つまり、十歳だったから、何が起こったのかわからなかったのかも。それとも、わかってるけど認めたくないだけか。
それからしばらくライちゃんは学校に来なくなりました。僕は放課後になると学校のプリントを届けるためにライちゃんの家に毎日行きました。しかし、ライちゃんはずっとベッドで死んだような顔をして寝ていました。まるで、その彼女の中で時間が止まったように。」
「レイ。プリントとはなにかしら?」
「せっかくいいとこなのに。プリントっていうのは学校のお知らせを紙に書いたものだよ。」
「私は紙すら見たことないわ。」
「いつか、見せてあげるよ。」
「それは、楽しみにしてわね。」
「それで、彼女のお母さんが死んでからちょうど一週間経ったある日、ライちゃんがいなくなったのです。」
「なんでかしら?」
「それは自分で考えましょう。国語力を鍛えるためにも。」
「はい・・・後で先生に聞いておくわ。」
「おい、ずるするな。」
「私だって、今考えているのよ。」
「それならいいけど。」
「僕が放課後に彼女の家を訪れたころにはもう彼女は家にはいなかったのです。僕は慌てて彼女を探しに行こうと思いました。その時、リビングのテーブルの上に日光のガイドブックが置いてありました。もしかして、と僕は思い家に戻って集めたお小遣いを全て持って家を飛び出して日光へ向かいました。
本当にライちゃんが日光へ向かったのかどうかということはわからなかったし、自分が無事に日光へとたどり着けるのかはわからなかった。しかし、僕は必死だった。もしかしたらもうライちゃんに会えない、そんな気がした。僕は渋谷で電車を乗り換えて、そして、延々と電車を乗り継いだ。そして、南栗橋というところに着いた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。乗り継ぎの電車を待っているとき、かすかな泣き声が聞こえた。恐る恐るその泣いている声のほうに歩いて行くと、駅のベンチにライちゃんが泣いて座っていた。
『ライちゃん。』
僕は彼女のもとに駆け寄って、彼女の目の前に立った。彼女は涙目になりながら顔を上げた。
『つーちゃん?』
そして、僕は彼女を抱きしめた。そしたら、彼女はまた泣き出した。
『うえーん、つーちゃん。私、私・・・』
僕は何も言わずに彼女の横に座ってずっと慰めた。彼女の体は震えていたし、冷たかった。
落ち着くと、ライちゃんは、
『つーちゃんは何でここにいるの?』
『何言ってんだ、ライちゃんが心配で追いかけてきただけだ。』
『そう、ありがとう。』
『さあ、帰ろう。お父さんも心配しているだろうし。』
僕が立とうとすると彼女は僕の腕をつかんで離さない。
『いや、お母さんがいない家には帰りたくない。』
『じゃあ、このまま旅を続けようか。日光への。』
『どうしてわかったの?』
『僕たち親友で幼馴染だろ、それくらいわかるよ。』」
「おい、何恰好をつけているのかしら。ガイドブックで見たと言ったでしょう?」
「いいじゃん、ちょっとくらい。それで、
『つーちゃん。』
僕たちは電車をまたいっぱい乗り継いで日光駅に着いた。
『どこか泊まるあてはあるのか?』
『おばあちゃんち。』
『じゃあ、電話して向かいに来てもらうか。』
十分後にライちゃんのおばあちゃんが迎えに来てくれた。ちなみに数日ぶりだ。
『来葉、それに堤君もどうしたの?』
『いろいろあって今日は泊めてください。』
僕はおばあちゃんに事情を説明すると快く泊めてくれた。
次の日は平日だったが、折角なので日光を観光することになった。ちょうど秋だったので、木々が赤や黄に色づいて綺麗だった。そんな森の中にある日光東照宮を僕とライちゃんは歩いた。そして、長く続く階段を上って奥宮へ行った。
平日だったので、人も少なく閑散としていた。紅葉した木々から葉がゆらりゆらりと落ちてくる。
誰もいない階段の上で僕たちは腰かけた。
『つーちゃん、疲れたよ。』
『そう・・・』
『ねえ、お母さんは何で帰ってこないの?今度一緒に服を買いに行く約束したのに。』
『ライちゃん、それはどうしようもないこと・・なんだ。』
『何で、何で、お母さんは逝っちゃったの?何で、お母さんだけが・・・』
ライちゃんは泣き出した。
『何で、何で。』
彼女は手で顔を覆う。僕に答えはわからない。それは彼女自身が自分で現実を受け止めないといけないことだから。
『来葉、』
僕はいきなり叫ぶ。彼女は顔を上げる。涙の痕が残っている。
『いい加減に現実を受け止めてよ。お母さんは死んだの。もう戻ってこない。』
彼女は普段怒らない僕が怒っているのを見てはっとしたようだった。
『私だって、私だってそんなことわかってるよ。わかってるけど・・・・』
『思いっ切り泣いてもいい、立ち止まってもいい、けど、今の来葉は何もしていない。逃げてるだけだ。』
『もう、うるさい。私もわかってるって・・・』
彼女の顔が崩壊する。今にも泣きだしそうだ。
『いいや、わかっていない。』
『うわーん、お母さん。』
彼女はそのあと、十分以上泣き続けた。僕はずっとその間彼女のそばにいた。そして、泣き止んだ。
『気が済んだ?』
『ううん、でも、すっきりしたかな。ちゃんと、受け止められた気がする。ありがと。』
彼女はそういって僕に抱き着いた。彼女の温かみが感じられた。やっと、いつもの彼女が戻ってきたような、そんな気がした。」
「羨ましいわね。嫉妬しちゃうわ。絶対これはあなたに来葉が恋をしている感じじゃない?」
「いや、そんなことはないと思う。少なくとも、死ぬ前までにそんな関係になったことがない。」
「そうかしら、レイが鈍感だっただけではないの?」
「えらく上から目線ですね。そう言えば、レヴィは夫とかいないの?」
僕がそう言ったときのことだった。
『マスター、高エネルギーの塊が近づいてきています。到達予想三秒後。』
デジャブか?
『今回は龍種のブレス攻撃だと考えられます。』
そして、一瞬にして辺りが光に包まれ爆発した。その爆発は熱水噴出孔の付近すべてを吹き飛ばし、その波動は海面に厚く張られていた氷をも突き破り、そこの部分だけ海面がむき出しとなったのだった。
死ぬのか、僕は?
そう思った。短い単細胞生だったな。でも、僕はどうしたい?こんなところでくたばってたまるものか。もう一回死ぬのはごめんだ。元の世界に帰ってライちゃんに好きだっていうんだ。それまでは死ぬわけにはいかない。しかし、その想いとは裏腹に僕は木っ端微塵になった。
<豆知識>
原生生物ってなあに?
マーグリスの五界説によると、真核生物かつ単細胞生物である生物の分類群と言われている。よーするにゾウリムシとかミドリムシとかアメーバと同じ種類。
マーグリスの五界説
生物をモネラ界(原核生物)、原生生物界、菌界、植物界、動物界にわけるという説。一般的な生物の分類の仕方として使われている。