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どうして僕が単細胞に?  作者: 稗田阿礼
第一章 単細胞編
6/106

6.進化ってすごい?


 僕の知らないところで、百二十年間過ぎていたとき、レイさんはひたすら僕のために仕事をしてくれていた。真核生物が持っているような細胞小器官はほとんど獲得していたし、有能なスキルも手に入れていたのは言うまでもない。


 獲得した細胞質の中には有能なものが多くなった。その一つが細胞骨格というものである。これは、細胞質を固定したり、細胞の形を整えたりすることができる。


 

 そして、何より、これによって動くことができるのだ。いや、異世界来てから、百二十年ほど運動してないんすよ。いやそれはもう、脂肪がたまりまくっててね、奥さん。というわけでもないが、見えるようになった今、動きたいのは自然な感情と言えるだろう。


『そうなんですか?』

 そうなんです。元人間として、動物として、動くのは必要なんです。


 と言うことで、動いてみます。まずは頑張って細胞を変形させる。うーん、いろいろ試行錯誤してやっと、形を変えた。そして、前に進むようにして・・・

 おお!動いた。前に進んだ。このまま、これを繰り返していけば、動ける。ついに

この同じ景色、この同じ場所から解放されるぞ。やったー。でも、結構疲れるな。




『マスター、分速十マイクロメートルです。』


 それって、遅いよね?

『はい、とても。一日進んだとしても、十四ミリメートルくらいしか進みません。』


 それって、ナメクジよりも遅いよね?

『その通りです。』

 動けるようになった意味ねーじゃねーか。単細胞生物って大変だな、普通の人は分速四十メートルだしな。はあ、やっぱり単細胞生物よくないな。


 



 さっき獲得したスキルを確認したいです、レイさん。

『かしこまりました。』

「伝説スキル:嫉妬・・・闇魔法が極められる。

嫉妬の王・・・激しく嫉妬した生物に与えられる称号。嫉妬対象を排除できるようになる。魔法攻撃のステータスが10%になる。その他のステータスは十倍になる。」


 またバグってるスキルきた。しかも闇魔法って、なんかすごい。これで物理防御、魔法攻撃、素早さ以外のステータスが千倍になった。これ、普通に単細胞生物じゃなかったら、やばいやつだ。確実に七つの大罪のスキルを集めてしまってるけど、本当に大丈夫なのかな?

『七つ集めると何か起こる可能性は高いです。』


 ドラゴンボ〇ルかよ。ろくなことにならない気がする。他の七つの大罪って何だっけ?

『今保有している大罪スキルは暴食、怠惰、嫉妬です。これ以外に、傲慢、強欲、憤怒、色欲です。マスターは単細胞の怒りを保有しているため、今後憤怒を獲得する可能性は大いになると考えられます。』


 なるほど、なるほど、憤怒ね。確かに単細胞生物に転生して正直理不尽だって思うことはあるけど、怒りはあんまり感じない気がするな。まあ、七つ集めなければいい話だし。単細胞生物だから、絶対に色欲は獲得するはずがないんだよね。だから、安心。



 強欲は知らん。正直、健康で文化的な最低限度の生活を営めたらそれでいいかな。今は健康で文化的な生活じゃないけどね。


 考えても仕方ない。でも、なんでこんなにほいほいと大罪スキルが入ってくるんだろう?伝説スキルってことは唯一の所有者になるってことだし。

『大罪スキルは取得条件が厳しいため、普通の生物は取得できないからだと考えられます。』

 確かに・・・怠惰とかひどかったもんな。よく取得できたもんだ。


『ちなみに、他の大罪スキルは嫉妬はレヴィアタンが保有、憤怒、色欲,傲慢は取得されていません。』


 え、じゃあ、強欲は誰かが持ってるってことか。誰だろな。考えても仕方ない。とりあえず、七つそろうことはない。それだけ、わかっただけで安心だ。






『マスター、進化が可能ですが、いかがいたしますか?』

 レイさんが思い出させてくれる。本当に優秀だな。

 そう言えば、レベル10になったから進化が可能なのか。進化って、どうなるんだろう?強くなったりするのかな?

『進化とは、生物が長い時間をかけて姿かたちを変えることです。』

 いや、別に辞書的な意味聞いてないからね。この世界における進化の話が聞きたいの。

『・・・ぷんぷん。』

 なんか、怒ってる。

『この世界の進化もほとんど同じですが、それが短期間で選択可能に行われます。』



「スキル:レイ により、進化先の候補の表示が請願されました。

 成功しました。

 個体名:原始の生物 レイ の進化先の候補は以下の通りです。

 《原始の生物(原生生物)》

 《原始の生物(古細菌)》

 《原始の生物(真正細菌)》」


 レイさん、ありがとうございます。どれどれ、うーん、ていうか全部個体名は変わらないの?これもしかして進化していっても、個体名は変わらないのかな。


 ていうか、進化ってことはもしかして人間にも進化可能なのかな?

『恐らくは可能です。』




 !!!声も出なかった。え、まじ?

 気持ちが急に高ぶっていった。このままいけば、あわよくば、単細胞生物を脱出できるかもって淡い期待をしていたけど。まさか、人間に進化することも可能なのか。

 

この異世界に来てから、僕は目標というものがなかった。ただ、何もしないだけで過ぎていく日々。それに違和感、そしてつまらないと感じたのは言うまでもないだろう。思うに暇と言うのは意外にもつらいものである。

 

そして、百年以上何もしないで過ごしたという罪悪感。その時の流れを感じることができないから、実感はない。これは、レイさんの僕への配慮なのかもな。進化するまで時を速めてくれていたのかもしれない。


 レイさんが言うことは間違いない。僕はデカルトでもあるまいし、信じる。たとえ僕の見える世界が海底の熱水噴出孔しか見えない単調な景色であったとしても。


 人間に戻れるなら・・・僕は夢を広げた。この世界を見て回って、異世界だから冒険者とかになるのもいいかもしれないな。魔法とかも使えたりして・・・普通の人としての生活が送れる。五感で世界を感じ、彩りある世界を自由に生きていける。

 僕は改めて人間の素晴らしさを身に染みて感じた。そう言えば、人間っていいな、みたいな歌あった気がする。


 そのためにも、進化をする必要がある。

『そうですね。目標は人間でよろしいですか。』

 もちろん。龍とかになるのもかっこいいけど、とりあえず人間で。と言うか、もしかして原始の生物だから何にでも進化できるの?


『そうです。』

 ある意味、自由だな。まあ、元人間としては人間になりたいかな。

『人間に進化するにはまず、原生生物にならないといけません。』


「個体名:原始の生物 レイ 原始の生物(原生生物) ヘと進化しますか?」

 天の声が聞こえる。はい、と念じる。

「個体名:原始の生物 レイ 原始の生物(原生生物) ヘと進化を開始します。」

そこで、僕の意識は沈んでいった。







 久しぶりに人間時代の夢を見た。その光景は何の変哲もない教室だった。何か特別なことがあるとしたら、それは三面黒板があるということだけだった。右隣には幼馴染のライちゃんが僕に話しかけている。

「ねーね、つーちゃん、今度の日曜映画行こうよ。」

「えー。」

 僕は面倒くさそうに返事をする。

「ね、たまには幼馴染でさ、どっか行こうよ。」

 

そう、ライちゃんとは小学校から大体同じクラスで、高校受験は僕の志望校に行きたいと、彼女が言い出し一緒に勉強会とかもしたりした。正直、僕が受ける高校は結構な進学校でライちゃんは普通の学力だったので、無理があったとは思うが、こうして、一緒に通えていた。

「先週カラオケ行ったじゃん。」

「あれはノーカンだよ。」

「じゃあ、先々週、渋谷行ったやん。」

「あれはケンちゃんも一緒だったじゃん。もう、察してよ。」

「なんか、遊びすぎな気がする。来週からテスト二週間前だよ。」

「だから、今のうちに遊ぶの。どうせ、わからないとこは教えてもらうし。」

「それは確定事項なんだ。」

「そうだよ。」

「おい、朝からいちゃつくなよ。バカップル。」

 いつの間にか、前の席のケンちゃんが学校に来ていた。

「おはよう、あと、付き合ってねーから。」

「そうだよ。まあ、私はね、つーちゃんがどうしてもっているなら付き合ってあげてもいいけど。」

「誰も頼んでねーよ。」

「それで、なんの話してたんだ?」

「ああ、こいつがテスト前なのに映画行こうっていうから。」

「ふーん、じゃあ、俺が行ってやろうか?堤が行かないんだったら。」

「うーん、ねー、つーちゃん本当に来ないの?」

 なんか、ちょっとかわいそうになってきた。まあ、テストまでまだ時間あるし、いいか。

「わかった、行くよ。」

「じゃあ、俺も行っていいか?」

「うん。」

 なんか、ライちゃんが睨んでいた気がした。







 ふと、意識が戻る。寝る必要がない僕は意識が飛ぶなんて久しぶりの出来事であった。いや、懐かしいな。みんなちゃんと生きてるかな?もう一生会えないよな。時間軸が同じだったら、もう二人ともあの世に行ってるよな・・・・まあ、もう過去のことだ。


「個体名:原始の生物 レイ 原始の生物(原生生物) ヘと進化が成功しました。

 各種ステータスが大幅に上昇しました。

 スキル:単細胞の怒り の真核生物の機能が解放されました。

 スキル:レイ の能力が上昇しました。

 スキル:真核生物 を獲得しました。

 スキル:真核生物 がスキル:単細胞の怒り に統合されました。

 スキル:単細胞 がスキル:単細胞の怒り に統合されました。

 スキル:単細胞の怒り が スキル:単細胞の憤り へと進化しました。

 称号:野心家 を獲得しました。」



『おはようございます、マスター。』

 おお、おはようさん。僕ってどれくらい寝てたの?

『約三十年間です。レヴィが寂しそうにしてましたよ。』


 この世界の時間感覚はおかしいのかな?

『申し上げますと、マスターは原核生物から原生生物へと晴れて進化をしました。地球で生命誕生から原生生物が生まれるまでどのくらいかかったか知っていますか?』

 え、知らん。結構長い気がするけど。

『二十億年です。』

 二十億年?それって地球の寿命の五分の一じゃん。(地球の寿命はおよそ百億年くらいであると推定されている。)

『マスターはその二十億年分をたった三十年でやり遂げたんですよ。短いものでしょう?』

 確かに、逆にすごくね。この世界のシステムがおかしいだけかも知れないけど。


『とにかく、マスターはすごいということです。』

 突っ込みどころはあるが、今は鑑定をお願いします。レイさん。

「個体名:原始の生物(原生生物) レイ LV.1 

スキル:レイ、単細胞の憤り(new)、熱耐性(中)、毒耐性(下)、高圧耐性(上)、怠惰、暴食、嫉妬、闇魔法(極) 

称号:怠惰の王、単細胞の王、暴食の王、嫉妬の王、野心家(new)

眷属数:124399697個」


 そう言えば、単細胞の怒りが進化したのか?スキルって進化するものなんだ。スキル鑑定お願いします。

「特殊スキル:単細胞の憤り・・・単細胞の怒りが進化したスキル。取得者を単細胞生物から脱却させるためのスキル。スキル:真核生物、単細胞の機能を拡張し、多細胞化の支援、進化先の提示、他のスキルの獲得支援を行う。」


 ほう、なんか使えそうなスキルだな。人間になる支援もしてくれるらしい。一つ気になる点があるとすれば、なんか七つの大罪の憤怒に似てない?怒りが憤りになったんだから、もう一回進化したら憤怒になりそうだな・・・


 あとは、野心家って。まあ、単細胞の分際で人間目指すとかほざいてるから、野心家には変わりないんだけど。称号単体の獲得ははじめてだな。鑑定よろぴく。


「野心家・・・分不相応な野望を抱いたものに与えられる称号。取得経験値が2倍になる。ステータスの成長補正が1.5倍かかる」


 これは、またバグスキルじゃなくて、バグ称号を手に入れたかもしれないな。経験値二倍って、学習装置としあわせたまごよりもすごいな。ありがたや、ありがたや。

 それにしても、レベルってまた1に戻るのか。そう言えば、レヴィは200超えていたような・・・うん、あれはたぶん化け物というやつだ。



 




 その時だった。

「おーほっほほ、進化成功祝いに私が来てあげたわ。」

 高い聞き覚えのある声が聞こえてきた。噂をすれば・・・

「おはよう、レヴィ。」

「よかった、私のことは忘れていなかったわね。」


 いや、そこまで記憶力悪くないから。

「進化した感じはどうかしら?」

「うーん、あんま変わらないな。」

「どれどれ。」

 レヴィアタンは僕を鑑定しているようだ。

「ステータスが少し上がってるわね。まあ、私に比べれば鼻くそ以下かしら、おーほっほほ。」

 なんかちょっとむかつくな。

「ステータスってどうやって見るの?」

「先生に頼んだら勝手に鑑定してくれるわよ。」

 レイさんー。

『単細胞生物はステータスの鑑定は基本できません。そもそも、戦力外ですので。』

 え、じゃあ何でレヴィはできてんの?

『それは究極スキル:傍若無人 の影響です。』

 傍若無人ってなんぞや?

「究極スキル:傍若無人・・・すべてのものに干渉されなくなるスキル。レベル制限、その他すべての制限が受けにくくなる。取得条件:不明」



 なんか、バグってないっすか。なんだ、すべてのものに干渉されなくなるスキルって、チートだチート。

『ちなみに自分より上位の存在には干渉されます。取得条件不明なのは、私が作ったからです。』

 レイさん、何してくれてるの・・・この人に渡したら信用できるの?できそうだけどさ。

『大丈夫です、私が管理していますから。』


 まあ、それもそうか。

「あら、レイ。何さっきから先生と話しているのかしら?私も混ぜてくれない?」

「ああ、すまんすまん。ちょっと調べものをしてただけだ。それより、僕が進化してる間何かあった?」

「いや、ただ私は折角できた友達が勝手に進化してね、別にね、別にね、寂しくなんか全然なかったわよ。」


 この龍、ツンデレか?

「そうか、すまんかったな。」

「わかればいいのよ、おーほっほほ。」

 あからさまに元気になるな。

「そう言えば、レヴィって進化したことあるの?」

「私は最初から最強だったけど、進化は十回くらいしたことあるわよ。」

「レヴィって、最初から水龍王だったの?」

「いや、初めはただの水龍だったわよ。何度か進化していくうちにそうなったかしら。」

「やっぱ、進化は誰しもが通る道なのか。」

「そうね、進化を重ねるほど強くなるのよ。レイも精進するといいわ、おーほっほほ。」

「うん、ありがとう。僕は頑張って人間を目指すことにしたんだ。」


「人間かしら?そもそも、人間へと進化できるの?」

「たぶん。原始の生物だから何にでもなれるらしい。」

「何で人間なのかしら?もっと、私みたいなかっこいい龍種に進化すればいいのに。」

 自分でかっこいいっていうんだ。

「僕、転生する前は人間だったから。」

「うーん、レイがそうしたいなら止めはしないけど、人間は愚かで、寿命も短いし、いいことなどないかしら。」


「確かに・・・ね。」

 よく考えてみれば、人間なぞに進化する必要はないのだ。でも、ここはな、元人間として人間になりたいしな。

「そうでしょう?」

「確かにそうだけど、今のところは人間を目指してみるよ。どうせ長い道のりだし。」

「それもそうね。自分の人生だから、好きにするが一番だわ。」


 それから、僕とレヴィはいろいろなことを話して、それが終わるとレヴィは帰っていった。その後、一週間に一回くらいレヴィは僕に会いに来てくれた。本当は毎日でも来たいらしいが、今、水龍たちが氷龍に憤りを感じているらしく、レヴィは王としては宥めないといけないそうだ。まあ、僕には関係ない話だ。

 そんなこんなで僕とレヴィはとても仲良くなった。やはり、話し相手がいるのはいいな。しかし、そんな日常も長くは続かないのだった。




<豆知識>

 地球の寿命って何年なの?


 地球の滅亡は今から約50億年後に、太陽が膨張して肥大化する際に地球が飲み込まれてしまうことによって起こると言われています。つまり、地球の寿命=太陽の寿命というわけです。


 太陽の寿命って?


 太陽は主に水素が核融合するエネルギーによって活動しています。つまり、燃料である水素がなくなれば、太陽は死んでしまうということです。その水素があと50億年分しかないと言われているのです。


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