10.あれ人間じゃね?
思ったんだけどさ、龍に進化して人化するって人になってなくない?
僕は重大な問題に気が付いてしまった。
『そのことに気付くの遅すぎません?』
はい、すみません。僕が短慮なだけです。
『よろしい。』
なんかレイさんの尻に敷かれてる?うん、きっと気のせいだそうに違いない。
『スキル:人化は体のあらゆる部分を可逆的に作り替えるスキルですので、実際問題として元に戻らなければ、人間と同じです。それにステータスが普通の人間よりも強くなるので、おすすめです。』
なんかレイさんの魂胆が見えてきたような気がする。僕を最強にでもしたいのかな?
『氷龍王ヴィザードを倒すために強くなるのではなかったのですか?』
あっ、そう言えば・・・もちろん、忘れていませんよ。ええ。
『忘れてましたね。』
いいいいや、そんなことは・・・あります。
『では、龍に進化するの方針でよいですね。』
はい・・・
僕はうんともすんとも言えず、ただレイさんに従うだけだった。レイさんの方が自分のことをよくわかってくれている気がする。そりゃ四六時中監視されてるようなものだし・・・機械学習かな。僕の性格や行動までも把握するようになったのか?そんなものプログラムはしてないけど。
『・・・』
それから一日くらいレイさんは口をきいてくれなかった。
活動範囲も広がったことだし、いろいろ見て回るか、と思い立って僕は旅に出た。海岸の近くには森が広がっていたので僕はその森に入っていった。林床はくらく、ほとんど日の光が当たらない。僕は落ち葉をカシャカシャと踏み分けながら奥へ奥へと進んでいく。僕はトカゲと言えども体長は三十センチくらいの結構大きいトカゲではあったが、森の中には障害物がたくさんあった。ごつごつとした岩や大きな倒木などを登ったりして僕は川辺についた。
ふう。僕は一息つく。こんなにも陸地を歩くのは久しぶりだ。予想外すぎたけど。川辺には僕と同じように多くの生き物が集まっていた。
まるで木のような角を持つシカや少し大きめのイノシシ、僕よりも小さいウサギ、そして服を着たサルのような生物・・・・
ん、あれ人じゃね?
でもそれにしては毛の量が多いような気がするし、服もなんか縄文人みたいな感じだし・・・僕の知ってる人ではない。なんか、汚そうだし・・・・
『文明レベル的には縄文時代と一緒でしょう。』
レイさんが解説を入れてくる。
え?異世界って中世の文明レベルって言うのがセオリーじゃないの?なんか魔法があるから技術が発達してなくて、知識無双できるやつじゃないの?
『まあ、知識無双はできるでしょうね。まだ農耕すら発達していないですし・・・』
いや、そこまで発達していない文明レベルは求めていない!それってウッホウッホいって時代とさほど変わりないよね?
『狩猟採集の時代ですね。』
僕はずっとその人間を観察していた。そしたらもう一人の人間が来てなんか言っていた。
「ウホウホホホウホ。」
「ウホ、ウホホホ?ウホ。」
いや、まじで何言ってんのか全然わからん。ほとんどサルやん。
『そう見えるからそう聞こえているのでは?言語理解のスキルがあればいいんですけどね。』
え、そんなスキルあるの?異世界サイコーじゃん。要するに日本語とか英語の勉強をしなくても言葉がわかるんでしょ。やばない?翻訳家いらないよ。まあ、今は翻訳アプリとかあるけど。
『別にそこまで万能なスキルじゃないですよ。このスキルは通常熟練度によって取得できますが、別にこのスキルがなくても会話はできます。それに言葉が違うと言語理解を適用させるために勉強しないといけませんし。既存の概念であれば、言葉の習得は容易ですが自分にはない概念の場合はそれを理解しないといけないため、勉強が必要です。』
僕の夢がガラガラと崩れ落ちる音が聞こえた。僕の得意な言語は日本語とプログラミング言語だけ。英語は正直全然わからない。だからこそ、外国語の勉強をしたくなかったのだ。それなのに・・・
『いろいろ語ってるのはいいですが、なんかあの人たちこっち見てますよ。』
僕が言われるがままに人間のほうを向いた時、二人とバッチし目が合った。
ハロー、僕は無害なトカゲだよ。
その思いが届いたのか、二人はひそひそと相談したあと僕のほうに向かってきている。
おーい。
僕は前足を振ってみる。しかし、冷静に考えて人がトカゲに親交を求めるだろうか・・・小さな子供でもあるまいし・・・
そう考えているうちに一人が僕の前、もう一人が僕の後ろに立っていた。
あれ、これって・・・
その瞬間一人がその大きな手で僕をつまみ取ろうとした。僕は慌ててその場から飛びのく。そして、二人目が待っていましたと言わんばかりに空中で僕を掴もうとする。それを僕は辛うじて避ける。
察してはいたけど、こいつら完全に僕のこと餌としか思ってないな。でも、人殺すのはなあ、なんか罪悪感あるしとりあえず戦略的撤退だ!
ということでひとまず僕は人間たちから逃れたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。