7.軍隊ザメ
さあ、やっとご対面というわけだ。僕は先頭のサメの攻撃をすれすれでかわす。深呼吸ををして、覚悟を決める。そして、360度回転してサメの群れに突っ込んでいく。サメたちは大きく口を開け次から次へと襲ってくる。それを思考加速を活用しながら、ギリギリで避けて行く。始めは順調だったが、やはりどこかでミスは起こる。前から物凄い勢いでサメの軍団が突撃してくるのだ。ご丁寧に口を開けて、その鋭い歯をむき出しにして。
痛い。鋭い歯の先端が体の側面をえぐる。出血をしながらも、僕は進み続ける。生きるために。
MP回復すんのまだ――――?
『約300秒ほどで完全に回復します。』
五分、それは今の僕にとっては永遠にも等しい時間だ。そしてやっとサメの軍団を抜ける。しかしながら、これでは彼らから逃れられるわけがない。そうだったら、今、この瞬間にもこんなに苦労しているはずはないのだ。傷は自己再生やHP回復でどうにか塞がっているようだが、血の匂いで奴らはさらに興奮してしまったようだ。
本当に合理性の欠片もない生き物だな。こんな鰯のために軍団を派遣しているのだ。過剰戦力もいいところだ。少し大げさだが、人一人殺すために核を用いるみたいなものだろうか。つまるところ、軍隊サメはアタオカというわけである。本当に経済学を勉強してほしいなと切実に思った。
僕の努力も空しく、サメたちはすぐに僕を感知して追いかけてきていた。稼げて精々一分だ。そう思いながらただひたすら逃げる。たぶん、さっきのような手はもう通用しないだろう。軍隊サメも学習したのか、軍団を二つに分けている。本当にいい加減にしろ。
そして、またもや追い付かれてしまう。自転車に乗って車に追いかけられているような気分だ。僕は次の作戦を実行してみることにする。後ろのサメが口を開けて迫ってくる。僕はそれを感じながら、海面へと飛び出していく。
まぶしい。そして、何よりピントが合わない。まあ、探知持ってるからどうにかなるんだけどさ。それよりもこの世界に来てから初めての地上。太陽がまぶしいぜ。なんて感傷に浸ってる余裕などありゃしない。飛び出した角度的には一番遠くまで飛べるようになっているはず・・・そして、サメたちも流石に跳ねることなんてないよな・・・
そう思っていた時期もありました。なんとびっくり桃の木山椒の木、サメたちが追いかけて跳ねてきた。みなさん、覚えておきましょう。イルカやクジラだけでなく、サメも跳ねるということを。海上にいても絶対安心じゃないんですよ。
後ろでサメたちが豪快に水しぶき上げてばっしゃーんと海面にその巨体を打ち付けて行く。そして、僕はセーフランディング・・・
なーんてうまい話はこの世には存在しなかったのだった・・・
!!!
目の前にサメの口・・・口!えっ、何でなん?フカヒレは好きやけど口はなあ・・・
その答えは至ってシンプルだ。第二部隊が海中を泳いでいたから。もちろん、空より泳いだ方が早いのは当たり前なのだ。なぜのそのことを考えない、と数秒前の自分に言ってやりたいがそんなこともできるはずはない。
いや、このままやと死まっしぐらやで。ほんまどないしようか、と一回使ってみたかった大阪弁で思考してみる。
やばーい。僕は自由の利かないはずの空中で辛うじてサメを避けてダイブ。しかし、目前に迫るのはサメサメサメ。どこを見渡してもサメだらけ。もう、いやになってしまう。その厳重な包囲網を突破しようと試みる。
一番警戒が薄そうなところを目掛けて懸命に泳ぐ。鼓動が速い。そして、何より疲れているはずなのに緊張感で全然疲れていないように感じる。サメを躱しながら、海の深いところへ深いところへと潜っていく。しかし、サメたちは懲りずに追いかけてくる。
この僕に対する情熱を他のところに向けてほしい。モテモテなのは悪い気がしないが、これは明らかにモテすぎだな。少しばかりモテ男の気持ちがわかった気がする。勘違いがないように言っておくが、前世ではあまりモテるほうではなかった。などしょうもないことを考えていたら、横からサメが迫ってくる。
後ろだけではなく横も。このままだと挟撃されるのは時間の問題だ。ため息をつきながらはてさてどうしようかと考える。うん、どうしようもない。それが結論であったが、精々あがいてみるとしよう。僕は敢えて横のサメの軍団向かって飛び込んでいく。両軍団が口をぱっかりと開けて向かい合う。
全くもって滑稽な一瞬であった。そして、目の前のサメを奇跡的に避けると、その軍団を抜けて行こうとしたその時。あっ、やばいこれは避けきれない。今この瞬間方向転換しても回避に間に合わない攻撃。このときはどうすればよいのか。それは歴史上様々な人々が証明してきている。一番ダメージが少ない受け方をすればよいだけだ。そして、そこで僕が思う最適な行動をする。
がぶり、全身に激痛が走る。そう、下半身がなくなっている。僕の後ろでは多くのサメたちがお互い口を開けて濃厚なキスという名の傷つけあいをしているが、ざまあみろだ。戦場でも挟撃作戦において反対側の味方の弾に当たって死ぬ輩が稀にいるそうだが、これはそれどころではない。しかし、僕はもう限界だ。何もされなくてもものの数分で息絶えるだろう。意識が朦朧としている中で、ある声が聞こえた。
『MPが規定の量まで回復しました。直ちに反撃を開始します。』
そこで僕の意識が途絶えてしまった。
<豆知識>
発生とは?その2
個体は発生の過程で大きく三つに分かれてから、さらに細胞の分化が進んでいく。内胚葉、中胚葉、外胚葉だ。名前の通り、原腸、原口の周囲が内胚葉となり、将来の消化管や肺、気管となる。そして外胚葉は一番外を覆う部分で、将来の表皮(皮膚)や神経管(脊髄、脳、末梢神経など)になる。そして中胚葉がその間にあり、将来の血管、心臓、骨格、骨格筋などとなる。そして、先にできた器官がその他の器官を誘導し、分化させてその繰り返しによって個体は成体となっていくのだ。
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