6.意外にやさしい?
コージは何が何だかわからなかった。突然美女に抱っこされ、そして空を飛んでいる。風が痛い。そして、かなり上空を飛んでいるらしく寒い。しかし、コージのことはお構いなしにテラロッサは飛んでいる。
この世界って空も飛べるんだと思った。そして、下を見て背筋がぞわったとした。彼らは上空五千メートルくらいのところ飛んでいた。少し行くと、海が見えてきた。そして、その海を越えた先がテラロッサの住処だった。
そこは、一面真っ白の世界だった。文字通りに。コージは今にも凍え死にそうだった。
「さ、さ、さびい・・・」
「大丈夫だ、すぐに熱耐性を取得できるぞ。」
何その脳筋みたいな考えと思ったが、コージは寒くてしゃべれない。
テラロッサは雪原の中、震えて冷たくなっているコージの手を握って、彼女の住処へと向かった。
雪原の中に大きなログハウスがぽつんと一つだけ建っていた。
その中は、本当に暖かった。薄着でいたコージは家に入って暖炉を見るなり、すぐさまそのもとへと駆け寄り、自分の身を温めた。
「おい、まずは風呂に入れ。汚れるだろ。」
コージは汚物扱いされるのは気に入らなかったが、風呂で暖まりたかったので素直にテラロッサに従った。脱衣所で服を脱ぎ、お風呂に入ろうとした。しかし、そこにはからの浴槽があるだけだった。浴場は広く、普通の部屋一つ分くらいあった。その分お風呂も広々としていた。
「どんだけ、早くはいりてーんだよ。」
テラロッサはコージが裸にも関わらず、気にせず脱衣所の扉をがらっと開けて入ってきた。
「ちょ、ちょっと、何してるんですか?」
コージは後ろを向く。
「お湯を入れてやろうと思ってきたのに、いらねーのか?」
「いや、いります。入れてください。」
テラロッサは水魔法と熱魔法を融合してお湯を沸かし、ドバーと浴槽にお湯を張った。
「ありがとうございます。」
この世界は便利だなと思いつつ、お礼を言った。
「おう。」
テラロッサはそう言って出て行った。
コージはお風呂に入ってふうと息をついた。本当によくわからない。異世界に召喚されて、人殺しをさせられて、拉致された。そして、こうして美人の家の風呂に浸かっている。本当に世の中何が起こるかわからないものである。
「着替え、置いておくぞ。」
脱衣所でテラロッサの声がした。
「ありがとうございます。」
コージは意外にテラロッサは優しいのではと思った。見ず知らずの自分を世話してくれるくらいには。コージの中でテラロッサの評価が少し上がった。
鑑定で自分のステータスを見てみる。
「個体名:人間 津田浩二 LV.4 スキル:精神攻撃耐性(中)、熱耐性(下)、怠惰、安眠、鑑定、鑑定妨害、精神魔法(中)、火魔法(下)、水魔法(下)
称号:怠惰の王、睡眠の王
ステータス:HP-140 MP-140 PA-170 MA-120 PD-70 MD-80 SP-7 LP-130」
いつ見てもすごいよな。まるでゲームの世界だ。コージはゲームが好きだった。それ以上に睡眠が好きだったが、その次くらいにゲームが好きだった。だから、何もわからない見知らぬ土地に来ても少し興奮していた。もっとも、ずっと眠そうにしているので誰にもわからない。
魔法って頑張れば使えるようになるのか?それに鑑定って、まさにゲームだな。
ためしに浴槽の水を鑑定してみた。
「水 温度40度 成分 ナトリウムイオン(微量)、塩化物イオン(微量)、その他。」
「おお!」
思わず声を出してしまう。結構詳しいんだな。このようにして、コージはのぼせるまで周りのものを鑑定しまくった。
そして、お風呂からでて、タオルで体を拭いた。そして、ふとテラロッサが用意した着替えを見る。
「へ?」
拍子抜けしてしまった。そこには、パンツ、下着、ワンピース、靴下が置いてあった。
「・・・全部女性用じゃねーか。」
コージは愚痴った。いや、もしかしてこれはテラロッサの趣味なのか?男性に女性の格好をさせるのが流行っているのか?
しかし、コージの服はすでに回収されており、どこにも見当たらない。仕方がなくコージは用意されたものに着替える。流石に裸で出て行くのは気が引けた。
「おお、思ったより似合ってるな。」
リビングに戻るとテラロッサがご飯の準備をしていた。おいしそうな料理がテーブルの上に並んでいる。
「何で女性物だけ・・・」
「あん?文句あんのか?俺しか住んでねーから女もんしかねーんだよ。明日買いに行ってやるから我慢しろ。」
「はい・・・」
コージはすっかり萎縮してしまっている。テラロッサも同じ格好でお揃いだなと思った。
「なに突っ立ってんだ?飯いらねーのか?」
「いります。」
本当になんか理不尽だな。コージは席について、ご飯を食べ始めた。
「うまい・・・」
「そりゃ、毎日作ってるからな。」
「ここはどこですか?」
「ああ?ここは俺の家だよ。」
「そういう意味じゃなくて、世界のどこですか?」
「ああ、それなら・・・」
テラロッサは光魔法で世界地図を映し出した。コージは一度王城で世界地図を見たことがあったが、それよりも正確なものであるようだった。
「ここだ。」
テラロッサは地図の一番下のほうの大陸の半島を指した。表示にはその大陸は氷大陸と呼ばれている。ほとんどが南極圏にあり、地球の南極大陸に似ていた。通りで寒いわけだった。
「何でこんなとこに?」
どう考えてもアネクメーネだった。
「人がいないからだ。」
「・・・」
それは誰もいないからさぼっていても何も言われない。だから、ずっと寝ていてもいいということなのでは?
コージはすぐに楽しようと考えてしまう。
「ずっと寝てるのはなしだぞ。」
心を読んだ?コージは急に怖くなった。
「はじめに言っておく、俺は人間がだいっきれーだ。だから、極力人とは関われねーようにしてる。だからここにいる。それだけだ。」
「はあ、」
「今回は気まぐれでてめーの世話をすることにしたがな。」
本当に気まぐれなのか、などとコージは思った。
「そう言えば、テラロッサさんはどうやって憤怒の王になったのですか?」
コージは恐る恐る聞いてみる。できれば逆鱗には触れたくない。テラロッサは、食事している手を止める。
「テラでいい、俺とお前は対等だ。敬語も使わなくていい。そんなことしてたら他の大罪王になめられるぞ。」
「はあ・・・」
テラは少し黙っていた。そして、話始めた。
<豆知識>
アネクメーネって何ぞや?
まず、用語自体は地理の用語で意味は人が住めない土地、つまりは栽培限界より北限や砂漠などのことである。これとは逆に人が住める場所はエクメーネという。ちなみに南極や砂漠に人は住んではいるが、一時的にしか住んでいないのでアネクメーネという。