11.単細胞脱却?
「全然レベルが上がらないんだけどー。」
「そんなことで落ち込んでいるのかしら?おーほっほほ。」
「いや、おーほっほほじゃないって。」
僕はため息をつく。相談する相手を間違えたのかな・・・うん、きっとそうだろう。ちなみに相談相手はレヴィとレイさんしかいないので、仕方がないっちゃ仕方がない。レイさんに相談してもなあ・・・
『相談してもなんですか?』
レイさんが少し怒ったような口調で話しかけてくる。
いや、何でもない。
「レベルが上がらないって当たり前のことよ。この私だって、あまりレベルが上がらないもの。」
「いや、それはレベルが違う話では?」
レヴィアタンはレベル260くらいだった気がするから、それは上がらんわ。大体のゲームとかでもレベル100超えると全然レベル上がんないし、下手したら50くらいから上がらないこともある。
でも、それとこれとは話が違うの!
『駄々をこねないでください。』
「レベルって言うのは一朝一夕で上がるものじゃないわ。幾千もの敵を倒して漸く上がるものなの。そんなすぐに上がるという考えが甘いかしら。」
なんかレヴィがまともなことを言ってる・・・
『まじ、それな。』
そして、レイさんがおかしくなった。
「今、何か失礼なことを考えていなかったかしら?」
「いや、そんなことはないです。」
レヴィがやたら鋭い。これはいわゆる女の勘、いや、龍の勘なのか?
『やはり、思考低下を有効化することを推奨します。』
「そうなると、私と話しできる機会が減るわね。」
「でも、仕方ないかな・・・」
よし、やってしまいなさい。レイさん!
『かしこまりました。』
「え、ちょ、私とのお話の時間はどうなるのよ・・・」
えっと、端的に言えば一瞬でした。ええ、一瞬でしたとも、一瞬で五十年が経過したそうです。なんか、ほんと人生、じゃなくて単細胞生、損してるって感じ。
今のステータスはどんな感じですか?
「個体名:原始の生物(原生生物 オピストコンタ) レイ LV.10
スキル:レイ、単細胞の憤り、熱耐性(上)、毒耐性(中)、高圧耐性(上)、怠惰、暴食、傲慢、嫉妬、蘇生、再生魔法(下)、闇魔法(極)、系統(古細菌、真正細菌、原生生物)
称号:怠惰の王、暴食の王、傲慢の王、嫉妬の王、単細胞の王、野心家、蘇りし者、再生の支配者、強運
眷属数:3,267,098,782」
いや、眷属数パなくないっすか?三十二億ってなんやねん。一十千万って桁数数えたわ。
『いろいろしているうちに増えちゃいました、てへ。』
てへ、じゃねーよ。まあ、別にいいけどさ。
特に新しいスキルはない感じ?なんか逆に安心するわ。
『そうですか・・・まだ、本気を出してませんので。』
なんか、不貞腐れている?しかも、レイさんの本気とか普通にやばそうだから、ほんとにやばい状況になるまで本気出さないでね。
『マスターがそう言うなら。』
よろしい。
それで、進化先はどうっすか?
「スキル:レイ により、進化先の候補の表示が請願されました。
成功しました。
個体名:原始の生物(原生生物 オピストコンタ) レイ の進化先の候補は以下の通りです。
《原始の生物(海綿動物)》
《原始の生物(担子菌類)》
《原始の生物(子のう菌類)》」
えっ、三択?なんか前は八択くらいなかった?
『恐らくは系統関係を進めてきたので、選択肢が少なくなったと考えられます。』
ていうか、名前的に海綿動物以外ありえんくね?だって他菌じゃん。よく小学校とかで○○菌とかいうけど、リアルにレイ菌になるから嫌なんだけど。
『全国の菌に謝ってください。菌類は生態系の中で重要な役割を担っているんですよ。』
ごめんなさい、菌さん。そっか、大腸菌とかは腸で頑張ってるもんね。
『ちなみに大腸菌は菌界に属する生物ではありませんよ。』
えっ、だって菌って言ってるじゃん。
『いいですか、名前がすべてじゃないんです。大腸菌や結核菌は細菌という原核生物です。五界説で言えば、マスターが一番最初になっていた、モネラ界に属します。それに対して酵母菌やマイタケなどのキノコは菌界に属します。』
へー、なんかいろいろややこしいっすね。まあ、菌に進化しなければそれでいいよね?実は人間は菌から進化したみたいなことはないよね?
『海綿動物に進化するで大丈夫です。人間は菌から進化したわけではありませんが、植物よりも菌の方が動物に近縁だと言われています。』
うーん、あまり想像はつかないな。どっちが近いって言われても、キノコと木を人間と比べてもなあ・・・なんか変な感じだな。
それはさておき、進化進化!
「個体名:原始の生物(原生生物 オピストコンタ) レイ を 原始の生物(海綿動物) ヘと進化しますか?」
天の声が聞こえる。はい、と念じる。
「個体名:原始の生物(原生生物 オピストコンタ) レイ を 原始の生物(海綿動物) ヘと進化を開始します。」
そこで、僕の意識は沈んでいった。
目を覚ますと天の声(仮)が聞こえてきた。
「個体名:原始の生物(原生生物 オピストコンタ) レイ 原始の生物(海綿動物) ヘと進化が成功しました。
各種ステータスが大幅に上昇しました。
スキル:レイ の能力が上昇しました。
スキル:単細胞の憤り が スキル:下剋上 へ進化しました。
スキル:海綿動物 を獲得しました。
スキル:海綿動物 がスキル:下剋上 に統合されました。
スキル:系統(担子菌類) を獲得しました。
スキル:系統(子のう菌類) を獲得しました。
スキル:系統(海綿動物) を獲得しました。」
まあ、ざっと十年が経過して、そして散々レヴィに文句を言われたあと、いろいろ話をして、レヴィがあまり納得しない様子で帰った後、僕はステータスを確認した。
「個体名:原始の生物(海綿動物) レイ LV.1
スキル:レイ、下剋上(new)、熱耐性(上)、毒耐性(上)、高圧耐性(上)、怠惰、暴食、傲慢、嫉妬、蘇生、再生魔法(下)、闇魔法(極)、系統(古細菌、真正細菌、原生生物、担子菌類、子のう菌類、海綿動物)
称号:怠惰の王、暴食の王、傲慢の王、嫉妬の王、単細胞の王、野心家、蘇りし者、再生の支配者、強運
眷属数:7,902,786,113
ステータス:HP-4 MP-5 PA-3 MA-0 PD-0 MD-0 SP-0 LP-13」
おお! 待ってました、ステータス。流石異世界、強さが数値化されるって本当にすごい。その割にはステータスが低い気がする。
『普通の海綿動物のステータスはすべて0です。ちなみに、ステータスがすべて0だと鑑定されません。』
ちなみに小数点以下は切り捨てられるそうだ。ということは海綿動物にしてはなかなかよいステータスということだ。ちなみに人間の赤ちゃんはすべて10くらいだそうだ。
ステータスが表示されるのはもっぱら大罪系スキルのおかげだ。今までちょっと忌々しいなとか思ったりしてごめん。
しかし、ステータスはすべてではない。ステータスは個人の能力を示すものであり、使いこなせなくては意味がないし、環境によっても左右される。ステータスは個人の能力の最大値を表示しているのでいつでもその値であるとは限らないそうな。
ちなみに、刻刻と変化するのはHPとMPとLPだけらしい。その他はレベルアップや鍛えることなどによって上昇して、最大値で固定されるらしい。退化したら減るらしいけど。
このHPとかって何なの?
『HPは体力、MPは魔力、PAは物理攻撃、PDは物理防御、MAは魔法攻撃、MDは魔法防御、SPは素早さ、LPは生命力です。HPもしくはMPがゼロになるとその時点からLPが減り始め、LPがなくなると死にます。』
ほう、じゃあHPが残っていてもMPとLPがなくなれば死ぬということか。これって回復しないの?
『HPとMPは自然回復しますが、LPはほとんど自然回復しません。LP自動回復というスキルがありますが、取得条件は不明です。』
LPはさっき言ってた以外に減ることはあるの?
『精神攻撃や一部の魔法攻撃によって減ることがあります。一部のスキルはLPを代償として呪いを付与させたり、身体能力を上昇させるものがあります。そして、スキルの獲得にLPを消費することもできますが、下手すると死ぬのであまり知られていませんし、誰もやろうともしません。』
スキルってLPで獲得できるんだ。それに、直接LPを削ることもできるのか、それに呪いって物騒だな。
『この世界はだいぶ物騒ですけどね。しかし、これは高等技術なのでほとんど今警戒するものではないでしょう。』
ならいいんだけどね。でもやっぱり並みの海綿動物のステータスと比べていいと言っても、ステータスが低い。最大値LPの13って誰が見ても低いよな。
『マスターは大罪系スキルを四つ取得していますので、ほとんどのステータスの値が千か一万倍となっております。なので、海綿動物が戦力外過ぎるだけだと思います。』
さりげなく、海綿動物のことディスったな。でも、レイさんが言うことはもっともだ。普通の海綿動物は小数点以下のステータスってことだよな。
このあとさらにレイさんから話を聞いたが、このステータスは捕食者目線で基準づけられているらしい。だから、弱すぎる生物は表示されないのだ。弱い生物に優しくない世界である。
それにしても、海綿動物って暇すぎるー。うん、これが今話題のスローライフというやつだな。海底に固着して、パクパクして細菌や有機物を食べる。原生生物のときとやること変わってなくね?というか固着生活だから動けないし・・・むしろ状況が悪くなっている?
いや、これはスローライフだ。でも、漫画とかラノベのスローライフ大体何か起きるよな。これぞリアルのスローライフ。うん、つまらなすぎる・・・せっかく動物になったというのに。
ああ、人間への道のりはまだ遠いかもしれないな。
<豆知識>
動物の起源って?
動物の祖先を襟べん毛虫類だとする説をべん毛虫類起源説という。動物のうちもっとも簡単な体のつくりをもつのが海綿動物であり、その襟細胞が襟べん毛虫類に似ていることから提唱された。分子系統学からも、動物の祖先が、襟べん毛虫類に近縁な生物であったと指示されており、菌類との共通祖先から約15億年前に分かれたとされる。
本書では襟べん毛虫類から菌類が派生するような書き方をしているが、スーパーグループのオピストコンタには動物と菌類の共通の祖先が含まれているので、誤解をしないでほしい。
いつも読んでいただきありがとうございます。