18.帝都5
私たちは脱衣所で服を着ていた。
「泊まる場所はないの?」
ベルは魔法で髪を乾かしながら私に聞いてきた。
「お金がなくて・・・」
「あははは!」
「・・・」
私はむっとした顔をした。
「ごめん、こんなに強いのにお金ないんだねー」
「悪かったわね。」
「もう・・拗ねないでよね!」
「そんなことより・・・」
私は神妙な顔つきをした。
「わかってるよー」
「待ち伏せされてる・・・」
「帝国情報部みたいだねー、一体何をやらかしたのかなー」
ベルはこんな状況にも関わらず私のことを面白がっていた。
「いい加減にしてよ・・・」
「まあまあ、ここはこの私に任せてよね!」
なぜかベルは自信満々だった。
ベルは髪を完全に乾かし終えると同時に入り口に向かって叫んだ。
「ねえ、隠れてないで出て来たらどうかな?」
「やはりベル様には気づかれますか・・・」
少し声の低い女性が入り口から姿を現した。その女性はまるで忍者のような恰好をしていた。
「セイちゃんはいつにも増してつれないね。私そんなに嫌われることしたかなー?」
「おとなしくその指名手配犯を引き渡してはいただけないでしょうか?」
「そういうわけにもいかないんだよなー。」
「いくらベル様が陛下と仲が良いと言っても許されることではありません。」
「いつもより饒舌だね。」
「必要とあらば饒舌になります。」
「かと言って私の心の中は変わらないよ。」
「なぜですか?その娘は危険です。」
「私の直感が言っているんだよねー。この子は面白いって。」
「そんな理由で・・・」
「それに聞きたいこともいろいろあるしね。それよりこの子はなんの罪を犯したの?」
「帝国への不正入国ならびに皇帝陛下暗殺未遂です。」
「あー、はっはっは。そりゃ血眼になって捕まえようとするわけだね。やるじゃない、ライ。」
「そういうことですので。」
「無理なものは無理だよ。」
「ではこちらも実力行使するしかないですね。」
「仕方ないなあ。あいつに迷惑かけるわけにもいかないし・・・ゼロはいろいろ怖いからね。」
「そう言われるのはあまりうれしくないですね。」
その声を聞いて私の背筋は凍った。その声の主はあのマーレの町であったメイドだったのだ。
「ゼロ様・・・」
セイもこの状況を想定していなかったらしく、困惑しているようだった。
「やあ、ゼロ久しぶりだね。」
「ベル様、その魔女を大人しく渡していただけないでしょうか?」
「無理だね。それにしてもゼロが出て来るなんてこちらの旗色が悪くなってきたねー。」
「なら・・・」
「それは無理。」
「では本気でやるしかありませんね。」
「仕方ないなあ、ここはおとなしく逃げるしかなさそうだね。ライ、手を。」
よくわからないが、私はベルの手を掴んだ。あのゼロというメイドと戦うのはもうごめんだ。
「させません。」
ゼロは一瞬にして周囲に複雑な結界を幾重にも張った。
「ごめんねー、それくらいの結界なら破れるんだよねー。」
「まさか・・・」
ベルは私たちの周りにはりめぐらされた結界を素手で破った。
「じゃあねー。」
そう言って私たちはその場から瞬く間に消えたのだった。
「申しわけ御座いません、ゼロ様。」
「仕方ないでしょう。ベル様がいたのですから。私だって戦えば互角くらいです。本部へ帰りますよ。」
「は!」
そう言って二人はその場をあとにしたのだった。




