10.進化・・・
それにしても、異世界に来てからまだ全然時が経っていない気がする。一年くらいかな?
『本当は250年経ってますけどね。』
なんとなく察してはいたけど、僕って起きてる時間より、寝てるor意識失ってる時間のほうが長いよね・・・
『その通りです。』
別にそこまでも肯定しなくても・・・地味に無為な時間ばっか過ごしたって後悔してるんだから。
早く人間を目指さなければ、この二百五十年のように無駄はしたくない。そして、ライちゃんのいる地球に戻るんだ。
正直不安しかない。もう、こんなに月日が経っているのだ。彼女が生きてるわけがない。しかし、レイさん曰く、この世界と地球は別の時間軸にあるらしいので可能性はある。著しく低いが。
そのためにも進化は必須だ。レイさん、さっき進化できるって言ってよね?
『はい』
「スキル:レイ により、進化先の候補の表示が請願されました。
成功しました。
個体名:原始の生物(原生生物) レイ の進化先の候補は以下の通りです。
《原始の生物(原生生物 オピストコンタ)》
《原始の生物(原生生物 アメーボゾア)》
《原始の生物(原生生物 アーケプラスチダ)》
《原始の生物(原生生物 リザリア)》
《原始の生物(原生生物 アルベオラータ)》
《原始の生物(原生生物 ストラメノパイル)》
《原始の生物(原生生物 ハクロビア)》
《原始の生物(原生生物 エクスカバータ)》」
何この呪文みたいなやつ?しかも、原生生物であることには変わりはないんだね。
『恐らく、真核生物の分類であるスーパーグループでしょう。』
は?スーパーグループ?ポケモ〇みたいにスーパーボール、ハイパーボールみたいな感じ?
『全然違います。ついに頭がおかしくなりましたか?』
レイさんがいつになく辛辣だ・・・
『いいですか?スーパーグループとは近年の真核生物のグループ分けで、DNA解析によるものなので正確な分類と言われてるものです。』
へー、でもなんでこんな呪文みたいにしないといけないの?
『名付けた人に言ってください。私は知りません。』
結局この中で一番ヒトに近いのはどれなの?
『まあ、これらを詳細に説明するのも面倒ですし・・・・動物が属するのは、オピストコンタです。』
じゃあ、そのオピスなんちゃらでお願いします。
『オピストコンタですけどね・・・』
「個体名:原始の生物(原生生物) レイ を 原始の生物(原生生物 オピストコンタ) ヘと進化しますか?」
天の声が聞こえる。はい、と念じる。
「個体名:原始の生物(原生生物) レイ を 原始の生物(原生生物 オピストコンタ) ヘと進化を開始します。」
そこで、僕の意識は沈んでいった。
夢を見た。また、人間だったころの夢だ。しかし、その視点は僕ではなかった。
「つーちゃん、つーちゃん」
ライちゃんが屋上の手すりを乗り越えるような勢いで僕の名前を叫んでいる。当の僕はというと頭から出た血が地面に広がっていっていた。自分の死に様を見るのもなかなかいやなものである。
「おい、堤。大丈夫か?」
一緒に屋上にいた僕の親友のケンちゃんが同じく乗り出して僕の心配をしている。しかし、僕は返事をしない。
その時だった。僕の倒れた地面に白く光り輝く魔法陣が現れたのは。そして、それはライちゃんと、ケンちゃんの床にも現れた。そして、二人はどこかへと消えて行ったのだった。
短い夢だった。僕の意識が戻る。そこには、進化する前と変わらない世界が広がっていた。ふと、僕の見ていた夢のことを考える。確かに二人はどこかへと消えて行ったのだ。跡形もなく。僕の死体はどうなったのかはわからなかったが。
一体どこへ?そもそも、なぜ僕は異世界転生したんだ?普通はするものなのか、それとも一定確率でするものなのか?
『マスター、まだこの世界には異世界とつながることはできないようです。』
レイさんは「まだ」というのを強調した。
まだ?
『今後できるようになる可能性はあります。』
ふーん、じゃあ、僕は偶々来たってことかな?
『それはわかりません。』
流石にわからなくても仕方ないか。レイさんらしくはないけど。
もしかしたら、二人もどこかへと転生したのかもしれない。それ以外に考えられない気がした。あわよくば、この世界に転生してるかも。
そんな、淡い希望を僕は抱いた。
そう言えば、進化したんだったけ?
「個体名:原始の生物(原生生物) レイ 原始の生物(原生生物 オピストコンタ) ヘと進化が成功しました。
各種ステータスが大幅に上昇しました。
スキル:レイ の能力が上昇しました。
スキル:襟べん毛虫類 を獲得しました。
スキル:襟べん毛虫類 がスキル:単細胞の憤り に統合されました。
スキル:系統(古細菌) を獲得しました。
スキル:系統(真正細菌) を獲得しました。
スキル:系統(原生生物) を獲得しました。
称号:強運 を獲得しました。」
『特殊スキル:系統(古細菌)・・・すべての古細菌の遺伝情報を取得することができる。これはDNAとしてではなく、単なる情報として獲得される。※系統スキルはすべて同じ効果。
称号:強運・・・さらに運がよくなる。取得条件:運が非常によいこと。』
「個体名:原始の生物(原生生物 オピストコンタ) レイ LV.1
スキル:レイ、単細胞の憤り、熱耐性(上)、毒耐性(中)、高圧耐性(上)、怠惰、暴食、傲慢、嫉妬、蘇生、再生魔法(下)、闇魔法(極)、系統(古細菌、真正細菌、原生生物)(new)
称号:怠惰の王、暴食の王、傲慢の王、嫉妬の王、単細胞の王、野心家、蘇りし者、再生の支配者、強運(new)
眷属数:0」
今回はあんまりバグスキルはないと思われる。系統っていうのは、全くわからん。説明読んでもわからん。
『このスキルは遺伝情報を引き出せるってことです。主に眷属がどのような生物になるのかというのを指定できるということです。』
ふーん、眷属を指定することができることか。もしかして、眷属を食料としたりすることもできるのかな?完全に共食いだけど。
『可能です。実行しますか?』
うーん、共食いって気が進まないけど、したほうがいい?
『人間へと早く進化したいならすべきであると考えます。』
うん、レイさんが言うならそうしよう。
『かしこまりました。』
あのさ、結局僕は何に進化したの?
『天の声(仮)によると、襟べん毛虫類に進化したと考えるのが妥当でしょう。』
襟べん毛虫類って何ぞや?
『単細胞生物である、原生生物の一種です。海中で遊離して、細菌や有機物を捕食するという生活ですね。一応、鞭毛があるので泳ぐことができます。』
なんやと!泳げるやと!
『嬉しそうですね。』
そりゃそうでしょ。アメーバ運動から解放されるんだから。
『まあ、よかったですね。』
ところで、僕が今置かれた環境はとても安定しているものだった。昼間は太陽の光が降り注ぎ、海藻がゆらゆらと波に乗って揺れ、時たま小さな魚や大きな魚、イカのような動物が訪れたりして、見ていて飽きなかった。まさに、アンダーザシーであった。食べられそうになることも度々あったが、レイさんがその都度警告してくれたので問題はなかった。流石レイさん!
ある日は、海上が大荒れで波が激しく打っていることもあったが、海底はさほど変わりはなかった。
海底は砂で住んでいる生物は僕のような微生物や砂に潜るような魚、貝、そして驚くべきことにチンアナゴも住んでいた。僕の眷属がこいつらに食べられたが、増える量が多いので問題ない。
こうして、長い時を海底で過ごした。今回は思考低下なども行っていないので、ちゃんと一日一日が感じられる。朝になると、段々海が明るくなってくるのもわかる。本当に浅い海万歳である。少なくとも、暗い、何もない海底よりは見るものが多いし、賑やかである。
しかし、進化してやることはほとんど変わらない。ひたすら食べて分裂するのみなのである。泳げるが、流されてしまうので結局浅い海の底を漂うことしかしなかった。
本当に食べて分裂するだけだ。しかし、分裂した後、その細胞がどんなものになるか指定することができた。そこで僕は主に餌となる細菌とマッピング用の植物プランクトンをいろいろな方向へと向かわせて、この周辺のマッピングを済ませた。
ところで、進化してよかったことがあると聞かれれば特にない。確かに分裂はしやすくなったが、それ以外は何もないのだ。まじで。単細胞生物なのでまあ、察しの通りあまり変わらないのだ・・・レイさん曰く次の進化では多細胞生物に進化できるらしい。それに期待することにしよう。
<豆知識>
進化とは?
生物における進化とは進歩、進展ではない。進化が進歩であるという誤解は一般的なものであり、ゲームやアニメなどに出て来る進化と生物学においての進化は別物であると理解しておくほうがいいだろう。この誤解を生物学者たちは長年解こうと尽力してきた。
ちなみにポケモンでは、ポケモンの「しんか」をこのようにひらがなで表示することによって生物学上の進化と区別している。
では、進化とは何か?簡単に言うと生物の個体群内での遺伝子頻度の変化である。遺伝子頻度の変化とはある遺伝子を持つ個体の割合が変化することであり、これだけで進化と言える。しかし、これは目には見えにくい(形質には表れにくい)変化である。この遺伝子頻度の変化が何度も起こることによって、一つの種から別の種が分かれたり、個体群の形質が変化したりするのだ。これを進化という。
種分化や遺伝子頻度の説明は今後の豆知識で説明していきたいと思います。
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