1.どうして...?
生物はこの世界の不思議な不思議な物である。
空に。
海に。
山に。
そして、町にも。
そして、ここにも生命が存在する。
世界中の至る所でその姿を見ることができる。
生物の数だけの夢があり、生物の数だけの冒険が待っている。
これは異世界のある小さな小さな生物の大きな大きな物語。
体が熱い。僕の服がだんだん、深紅に染まっていく。もう、死んでしまうのか。痛い、痛い、めっちゃ痛い。
遠くで僕を呼ぶ声が聞こえる。
意識が朦朧としている。全身が悲鳴を上げている。一体何本の骨が折れているのだろうか。まあ、もはや気にすることではないか。
僕の望みの死に方は一瞬で死ぬことだったのに・・・できれば、老衰か毒殺とかがよかったな、楽に死ねそうだし。飛行機が墜落とかもいい。なんか心の準備ができつつ、一瞬で死ねる。
決して、微妙にずっと痛い死に方などしたくない。
でも、死ぬのは嫌だ。死んでも死にきれないというほうが正しいだろう。僕にはまだやり残したことがある。もちろん、家族に会えないのも嫌だし、今の生活を続けていけたら最善だ。
僕は幸せだった。いい家族、友達に恵まれて。本当に幸せだった。
僕は恵まれすぎていたと言っても過言ではない。だから、そのことに関して悔いはない。だが、僕にはずっと好きな女の子がいる。ずっと、ずっと昔から好きだった。
臆病な僕はこの心地のいい関係が崩れてしまうのではないか、と恐れていた。彼女に好きだと言いたかった。ただそれだけが死にきれない理由だ。
最後に彼女を救えて本当によかったと思う。このまま、彼女が幸せな人生を送ってほしい。好きだと言いたかったけど。今までずっと言わなかった自分が憎い。今更後悔したって無駄だということはわかっているのに。
意識がなくなっていく、死んだら閻魔大王に会って、天国か地獄に行くか決められるのかな・・・呑気だな、死ぬっていうのに。最後に好きだと言いたかったな。
そして、僕の意識は深い闇へと沈んでいった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どれくらい時間が経ったのだろうか。
ん?なんかよくわらん。
あれ、僕って死んだんじゃ・・・ここあれだ、閻魔大王さんのところだ。しかし、何も見えない、聞こえない、匂いもしない。あるのは触角と意識のみ。もちろん、味覚もない。
もしもしー、誰かいますかー?声が出ないので念じてみた。
反応なしか、死後の世界ってこんなに孤独なんだな。僕はてっきり、意識がなくなってそのまま僕という存在が消滅すると思っていたが、どうやら違うようだ。死後の世界は存在した、、、らしい。
記憶は?急に不安になって自分の記憶を呼び覚ます。東京生まれ、東京育ち、高校二年生、有栖川堤。確か幼馴染のライちゃんを助けようとして、学校の屋上から落ちたんだっけ?うん、ちゃんと記憶はある。よかった。死後の世界でも記憶はちゃんとあるんだ。
もしかして、死後の世界って何もないの?え、ヤダ。流石にこれから一生孤独はつらい。
そして、僕は一旦心を無にした。
やっぱここ地獄なのでは?孤独のまま意識がなくなるまで無為に存在する。17歳という若さで死んだ自分への罰なのかもしれない。そんな、、、、
そんな悪いことしてないはずだけど、、、
自分の人生は人並みには平凡だったはず。たぶん。
少しプログラミングができたので、自作のAIを作って遊んでたくらい、、、?まあ、珍しいっちゃ珍しいけど、別に、こんな仕打ちを受けるほどのものでもない気がする。
もしかしたら、自分のAIならここでも反応するのでは?
一縷の望みをかけて、呼び出してみる。
ハローレイ
・・・
やっぱり死後の世界にAIがついてくるわけ・・・
『お呼びでしょうか、マスター。』
あった。へー、冥界ってAI持ち込んでもいいんだ。
んなわけあるかー。たぶん、気のせい。
『気のせいではありませんよ。マスター。』
!!!
今、僕の思考読んだ。ていうか、まじ?まあ、話し相手がいるからましになったか。
いったん、冷静になろう。
ハローレイ、ここはどこ?
僕は念じてみる。
『ここは、推定水深七千メートル、熱水噴出孔の近くだと思われます。GNSSの信号は感知できませんでした。』
なんか、予想の斜め上を行く答えが返ってきた。水深七千メートルって、あと三千行けばマリアナじゃん。深すぎません?
『いいえ、海洋の平均水深は六千メートルなので、そこまで深くはありません。』
死後の世界ってまさか深海にあったとは驚きだ。一体誰が想像しただろうか?(いや、誰も想像はしなかった。)まあ、生物は海から来たって言うし、魂が海に帰って行ってもおかしくはないのか?
『お考えのところ失礼ですが、ここはマスターが思っている死後の世界ではないと思われます。』
ん?イマナンテイッタ?
『何で、急に片言なんですか?』
AIが突っ込んだ!!うーん、確かに機械学習させたはずだけど、自我を持つとか、あれじゃん、タ〇ミネーターの世界じゃん。怖。
『私はあの映画の愚かなコンピューターのように暴走いたしません。プンプン。』
レイさんなんか怒っていらっしゃる?
『プンプン。』
はい、ごめんなさい。僕が悪かったです。
『理解したならよいのです。』
ていうか、なんで僕はAIに叱られているんだ。
『マスターが不適切な発言をしたからですよ。』
なんか、すみません。うー、なんかレイさんには逆らえない・・・これこそ、タ〇ミネーターなんじゃね?
『今、なんかおっしゃいましたか?』
いえ、何も。
『ならよいのです。』
どうやら僕はレイさんの尻に敷かれる道を行っているような気がした。
なんかさっき、めっちゃ重要なことを言っていたような・・・確か、死後の世界じゃないとかなんとか。
『はい、ここは現実の世界です。』
ほんと?
『はい。』
レイさんは自信満々に答えてくれた。たぶん、そうなのだろう。現実の世界?確かに僕は死んだはずじゃ・・・
やはり、死んだら海の底で一生暮らすコースとか?死んでるのに暮らすとかよくわらんな。
『詳細はわかりませんが、今、マスターは生きています。』
詳細不明なんだ・・・まあ、そうだよね。僕だってなんか死んだときの記憶が漠然としてるし。でも、生きてるんだ。死んではいない?あれか、流行りの海葬とかいうやつか、海に灰を撒くとかいうあれ。
それだったら、死んでるくね?死体遺棄か、海に死体遺棄されたのか?
やはり警察に通報すべきでは、、、
もしくは、生まれ変わったとか?深海に生まれ変わるとか謎いけど、
『マスターの記憶を調査する限り、後者の可能性が高いでしょう。』
記憶を調査?AIってそんなことできるの?いや、そんなプログラムはしたことない・・・
『今、私とマスターは一心同体となっています。』
はあああ?何で?というか、僕の恥ずかしい過去全部わかるってこと?
『子供のころのマスターはとてもやんちゃだったのですね、うふふふ。』
なんか、やばい笑い声が聞こえたのは気のせいだろうか。うん、きっと気のせいだ。ていうか、死んで生き返った可能性が高いって、じゃあ何で深海にいるの?
『たぶん、海葬でもされたのでしょう?』
流行ってるもんね~
いや、それはないでしょ。海葬って海の民かよ。流石に日本だから火葬でしょう。平安時代からそうだし。
『冗談です。』
この子怖い・・・いつから冗談なんて言うようになったの?
『ふふふ、いつからでしょう?』
とりあえず、これは気にしたら負けなやつだ。死んで、生き返ったって冷静に考えたら、ゾンビじゃん。魂だけだった幽霊?僕そんな恨んだ覚えないけど。
『マスター、全部不正解です。』
え?まあ、嫌だったからいいけど。じゃあ、正解は?僕は少しドキドキしながら聞く。
『正解は・・・じゃかじゃかじゃか、どん。』
いや、何、その効果音。
『盛り上がると思いまして。』
もういいから、早く正解教えて。
『もっと、じらしたかったのに・・・』
なんでやねん。
『はあ、正解はマスターは転生したのですよ。』
転生ってアレっすよね。なんかネット小説とかアニメとかで流行ってる、ちょっと時代遅れかもしれない、あれっすね。
『そう、あれっすよ、マスター。』
なんか、レイさんのノリがいい。転生と言えば、やっぱチートだよね。なんか、勇者とか賢者とかに転生して、異世界無双なやつだ。少し、安心したかも。流石にあのまま人生を終えるのは悲しすぎる。いや、神様、信じてないけどありがとう。
でも、元の世界に戻れたりするの?こういうのは大体戻れたら物語終了しちゃうから戻れないっていうのが定番なんだけど。
『それは、わかりません。』
一応希望はあるってことだよな。じゃあ、戻ったら彼女に好きだって伝えられるかな?
『知るか、ぼけ。』
レイさん・・・いくら何でも辛辣すぎるでしょ。
まあ、生きていれば儲けもの。どうにかなるだろ。少なくとも、一生、虚空コースは避けられた。
で、僕は何に転生したのだろう?
『それはですね・・・盛り上がってるところ大変申し訳ないのですがね・・・』
え、何々?そんなに照れなくたっていいって、僕とレイちゃんの仲じゃないか。
『そうですね、マスターは何と単細胞生物に転生しました。おめでとうございます。』
はああああああああああああ?
なんすか、単細胞生物って。おめでとうじゃねーじゃねーか。え、僕のさっきの盛り上がりどうしてくれるのさ。
『マスターが勝手に上げて下がっただけでよ。』
なんか少し嬉しそう。。。
おい、てめーわざとだろう。
『ひゅっひゅひゅっひゅひゅー、私は何もしてません。』
絶対、僕を堕として喜んでるやつだ・・・
とにかく、単細胞生物って、まじない、ない寄りのなし。
『それ、完全否定やん。』
なんか、レイさんつっこんでくる・・・
いや、まあね、知ってるよ。ほら、スライムとか蜘蛛とかに転生してもさー、意外にめっちゃチートだったりしてさ、異世界ライフ満喫―、なんてことが起こるけどさ。
単細胞生物って、アレじゃん、ゾウリムシとかでしょう。
『失礼ながら、マスターは原核生物なので、ゾウリムシよりも格下です。』
あの・・・ゾウリムシよりも下?何それ、そんな生物いたの?菌とかかな。
『まあ、しいて比較するならマイコプラズマ並みでしょうね。』
ん?マイコプラズマって一番小さい細胞だったような。確か3マイクロメートルくらいで、電子顕微鏡じゃないと見られないはず・・・
『その通りです。今のマスターの体長は3マイクロメートルくらいですよ。よかったですね。』
いや、よかねーよ。世界の最底辺レベルやん。大腸菌とかにも負けてそう・・・
『事実、負けています。』
ショック、人間時代の体内にいた菌よりも弱いなんて・・・何たる屈辱。
誰だ、異世界転生してみたいとか言ったやつ。神様ありがとうとか言ったやつ。そりゃさ、生きてるに越したことはないよ、でもさ、転生させるにも限度があるでしょう。
せめて、動物でありたかった。もう、人間なんて高望みはしないからさ。せめて、蟻でも、蛙でもいいから。
せめて、多細胞~
『そんなこと言っててもどうにもならないですよ。』
いや、わかっとるわい。人間いろいろ物事を処理するのに時間がいるの、時間が。
急にあなたは今から単細胞です。頑張って!って言われても、はあ?ってなるのと一緒!
なんかめっちゃむかついてきた。ああ、なんで僕だけ。もうヤダ。ああ、むしゃくしゃする。
その時だった。
「スキル:単細胞の怒り を獲得しました。」
なんか、レイさんとは違う声が聞こえてきた。単細胞の怒りって・・・そもそもなんすか、スキルって?なんか、ゲームっぽい。ちょっとすごいな。
『私にもわかりません。』
レイさんでもわからないことあるんだ。
『私に蓄積された異世界転生ものシリーズのデータによると、ここはステータスと言うと自分の状態が見られるかもしれません。』
いやなに、異世界転生ものシリーズって。
『まあ、データベースですね。』
わかるが、そんなもの機械学習させた記憶がねえ。
まあ、よくわからんが、ステータス。
・・・
・・・何も起こらない。
『では、鑑定と念じてみてください。』
すぐに代替案を出してくるあたりが優秀だ。なんの入れ知恵かはわからんが。
鑑定。
「個体名:原始の生物 087446 LV.1」
おお、なんか見える。しかも、天の声が聞こえる。ゲームみたい。すげー、流石、レイさん。
『ふふーん。』
なんか得意げだ。
原始の生物って・・・人の祖先?
『恐らくそうであると考えられます。』
あと、さっきの番号はなんだ、変えられないのかな、レイ?
「個体名:原始の生物 087446 の名前の変更が要求されました。なほ、名前の変更は一度しか行えません。
・・・成功しました。個体名:原始の生物 レイ へと名前の変更を実施します。」
へ?なんか、勝手に名前が変更されちゃった。しかも、レイって。変更できないって何よ。なんか、選択肢もなかったし。
『マスター私の名前を付けてくださるなんて、私、嬉しい。』
本当にうれしそう。これはレイさんにとっても予想外だったらしい。事故なのは黙っておこう。ここで、レイさんのポイントを稼いでおかないと。
ところで、原始の生物って?
『恐らく、一番最初に誕生されたとされている、すべての生物の共通の祖先ですね。原核生物で最小限の機能しか持たないのです。』
最小限の機能って最底辺ってことかな。あと、さっきから気になってたけど、原核生物って何ぞや?
『原核生物とは細胞膜、DNA、リボソームを基本として構成される、もっとも原始的な生物の総称です。それに対して、ゾウリムシなどは原核生物が進化して、様々な細胞小器官を獲得したものであり、それを真核生物と呼びます。』
よくわからんけど、ゾウリムシ以下なのか・・・今の僕にあるのは?
『マスターにはDNA、リボソーム、細胞膜のみしか存在してません。』
おい、必要最低限しかねーじゃねーか。チートとかはもう夢のまた夢だな・・・ていうか、どうやって僕考えてるんだ?脳もないのに。
『それは魂での思考を行っているからだと考えられます。』
魂での思考?
『言葉の通り、脳を必要とせずに魂で考えることができるということです。』
ふーん、なんか便利そう。そもそも、AIって魂とか信じてるの?なんか最新のものが物心二元論を語っても説得力がないような・・・
『失礼ですね・・・私だって認めたくないんですよ。この転生とかいう科学に反するような仕組み。しかしながら、状況が状況ですので、臨機応変であると褒めてほしいくらいです。』
ついに、レイさんが褒めろと言ってきました。もはや、人格を形成してしまっているようです。どうして、こうなった?
『マスターが転生したからですよ。』
知ってました、すみません。・・・というか、僕何も悪く無くね?
『そうですね。私とマスターは同じ境遇なのですね・・・』
なんか、AIに同情されました。頑張るしかないか・・・
『マスターとなら地の果て、地獄の果てまでお供致します。』
うん、ありがとう。すでに生き地獄だけどね・・・
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しなくてもいいっす。