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失楽園のネクロアリス ‐Garten der Rebellion‐  作者: 雪車町地蔵
第7幕 いつかはじまりの〝島〟で

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34/47

屍人軍隊

「エクシードに()()を用意させたわ。あたしは別にやることがあるから、あんたは先行して。現地で会いましょう……そうね、運が良ければ、ってとこで」

「ああ、運が良ければな」


 たったそれだけの会話で、ゲオルグとヘレネーは別れた。

 ゲオルグにヘレネーの思惑はわからなかったが、一刻も早くツェオのもとへ辿り着くことを彼は優先したのだ。


 そうしてゲオルグは、越種が用意したという浮上式雪原走破単車(フロート・モビル)にまたがり、白銀の大地をひた走っていた。

 積雪を切り裂き、時速にして450キロメートルを超えて疾走するモビルでは、飛んでくる雪の結晶ですら肌を切り裂く。

 ヘルメットをかぶり、指先から頭まで完全に防寒装備で覆った彼は、ゴーグルの奥の瞳を険しく細めた。

 前方に、無数の影を認めたからである。


 雪の下から這い出して来る、肌色を失って久しい凍結した人型の群れ。

 首筋で鈍く光るのは、橙色に変色した情報流体アンプル。

 3000を超えるネクロイドの群れが、彼の行く手を阻むようにして存在していた。


「…………」


 無言でゲオルグは、背嚢からそれを取り出す。

 これもまた、越種が調達したものだった。

 1200ミリの遠大な射出機構を持ち、9.1ミリメートル散弾9発を同時に射出できる破壊の具現。


 水平二連式大口径弾体(ツインバレル・)散布射出装置(ショットカノン)


 その破壊と殺戮のために存在する得物を、金属化した右手一本で構えながら、ゲオルグはネクロイドの群れへと真っ直ぐに突っ込んでいく。

 引き金が引かれる(トリガー・オン)


 鉄火とともに射出される弾体。

 それは空中で()()──9つに分かれ、降り注ぐ。

 9発の厄災が、屍人たちを蹂躙する。


『!?』


 感情を有しないはずのネクロイドの軍勢が、明らかにその足を止めた。

 先頭に立っていた数十体が、一瞬にして挽肉と化し、霧散したからである。


 更なる銃声。

 次の隊列が崩壊する。


 ゲオルグが、腕のなかで射出装置を一回転させると、中間部分が折れた。

 空薬莢が排出される。

 交叉式閉鎖(クロスボルト・)排出機関(イジェクター)だ。

 次なる弾体をこめながら、ゲオルグが凄絶な口調で物言わぬバケモノたちに勧告する。


退()()──」


 そのたった一言がもたらした効果は、じつに顕著なものだった。

 ネクロイドたちが、怯えたように後退(あとずさ)ったのである。


 だが、ほぼ同時に脊髄のアンプルが発光。

 ネクロイドたちの身体がブルリと震え。

 次の瞬間、ゲオルグへと一斉にとびかかった。

 指示式が、彼らに行動を強制したのである。


 モビルを加速させ、卓越した運転技術で屍人兵を(かわ)していくゲオルグ。

 背後で爆発的熱量の増加。

 肌を焼く熱風。


 ゲオルグが振り返れば、雪原の一部、そこに堆積していたはずの雪塊が融解し、ぐつぐつとマグマのように煮立っていた。

 誘発。

 襲い来るネクロイドすべてが、同様の現象を引き起こす。

 彼の周囲で連鎖的に起こる爆発。


 それは、屍人の爆弾だった。

 情報流体の過密供給による自爆戦術。

 あまりに常軌を逸したその戦術に、ゲオルグは顔をしかめた。


 しかし、次の瞬間には眼前に立ちふさがったネクロイドを、彼は容赦なく、モビルの加速を込めた左手で殴り飛ばす。

 舞い上がり、爆発四散する屍人兵。


 ゲオルグは止まらない。

 そんな選択肢はありはしない。


 彼は冷酷な狩人となって、ショットカノンの引き金を引く。

 1体、また1体と、ネクロイドが葬られていく。


「待っていろ、ツェオ──」


 新たなる屍人の一団が現れようとも、彼は怯むことが無かった。


 その眼差しは真っ直ぐに、〝世界樹〟を見据えている──

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