再生
「くっ……いったい何なんだよ」
「無駄だ。王都は『輝きの球』による結界が張られている。誰一人出ることはできない」
冷たい声が投げかけられる。振り返った俺が見た者は、黒いローブを纏ったハゲ頭の男だった。
「ラ、ライト……」
奴を見ると、恐怖のあまり膝が震えてくる。奴からは以前よりはるかに威力を増した魔力を感じとることができた。
「お前を召喚したのは俺だ。王都の住人は皆殺しにした。民も、騎士も、貴族も、姫も、国王も一人残らず」
奴の体に無数の顔が浮かぶ。それらは皆苦し気に顔を歪めていた。
「光司様……ひどい。どうして私を捨てたの?」
奴の手のひらに浮かんだシャルロットの顔は、恨めし気に俺を見つめていた。
「光司よ……こうなってはもはやすべて終わりじゃ。そなたもこっちに来て、罪を償うのじゃ」
幽鬼のようにやつれ果てた国王の顔は、眼も鼻もそぎ落とされていて、凄惨な拷問を受けたことが伝わってきた。
「お前のせいで俺たちは殺されたんだ」
「お前もこっちにこい……」
他にも、何千何万人もの恨みがこもった声が聞こえてくる。
「う、うわああああ!」
恐怖に駆られた俺は、魔力を振り絞ってフレイムソードを産みだし、奴に切りかかる。
「『天雷』」
しかし、奴の腕の一振りで雷に打たれ、剣を持った右腕が吹き飛ばされてしまう。
「た、助けてくれ!死にたくねえ」
「安心しろ。そのうち死にたくなる」
その言葉と共に、奴のレーザーソードが一閃する。
激痛と共に俺の頭は胴体から離れ、地面に転がっていくのだった。
光司の切られた頭は、憎しみを込めて俺を見上げていた
「くそっ……いてえ。死にたくねえ……」
しかし、次第にその表情がうつろになり、眼が閉じられていく。
おっと。勇者なんだから、これぐらいで死なれたら困る。
俺は頭上で光る『耀きの球』に向けて、命令した。
「モード変更。『勇者強制復活モード』発動」
『輝きの球』から一筋のまぶしい光が降りてきて、光司の頭と体を包み込む。
光が薄れると、完全に復活した光司が現れた。
「な、何が起こった?俺は死んだはずだ」
「ふふふ。神とは本当に残酷な存在だな」
俺はそうつぶやきながら、『輝きの球』を見上げる。
「『輝きの球』は、勇者の為に神が作ったアイテム。魔王の為につくられた『復讐の衣』の対になるものだ」
俺は自分が着ている『復讐の衣』を見せつけながら、説明する。
「『復讐の衣』に魔王を復活させる機能があるなら、当然『輝きの球』にも勇者を復活させる機能がついている。喜べ、お前はたった今、真の勇者として登録されたんだ」
『輝きの球』は光司を祝福するように、光を照らしていた。
「まあ、これは勇者と魔王の決着が早くついてしまうことがないように、神が定めたシステムだけどな。簡単に戦乱を終わらせないために」
俺はレーザーソードを光司に突きつける。
「さあ、仕切り直しだ。もう一度戦おうぜ」
「なめんな!」
怒りをたぎらせた光司が、フレイムソードで切りかかってくる。
俺はそれをあっさり躱すと、レーザーソードで腹を切り裂いてやった。
「ぐぅぅぅぅぅぅ」
裂かれた腹から内臓が飛び出し、奴は必死に腹を抱えてうずくまる。
「二回目!」
俺はしゃがんだ奴の背中めがけて剣を振り下ろす。奴は縦に真っ二つになって死んでいった。
また光が降りてきて、光司が復活する。三回目は雷で感電死させ、四回目はレーザーで焼き殺し、五回目はコーリンの沸騰魔法で爆発させてやった。
復活するたびに奴の顔が苦しみにゆがんでいく。
「も、もうやめてくれ……」
いつまでも続く無限地獄に、ついに光司は泣きわめいて許しを請う。
「情けないぞ。それでも勇者か」
「こ、こんな勇者なら、なりたくなかった。死んでも死ねないなんて、地獄じゃないか」
そう。勇者など神の目的を果たすための道具でしかない。死という救いすら与えられない奴隷なのだ。魔王と同じくな。
泣きわめく光司に、俺は容赦なく剣を振るう。
殺戮が10回を超えたころ、ついに光司はなりふり構わず極大魔法を使おうとした。
「『指向性衝撃火砲』」
しかし、ポンッという軽い爆発が起きただけで、すべてをなぎ倒す衝撃波を伴った爆炎は発生しなかった。
「な、なんで……」
絶望した顔になる光司を、俺はあざ笑う。
「残念だが、今のお前にはもう極大火魔法はつかえない。レベル不足でな」
「ば、ばかな……そんなこと。いくら死んだからって、レベルが下がる筈が……」
混乱する光司に、俺はその訳を話してやった。
「忘れたか?魔王の力を。人を殺せば殺すほど、その魂を吸収して強くなれるんだ。つまり」
レーザーソードを奴の腹に突き刺す。剣を通じて、奴の肥大した魂の一部が俺に流れ込んできた。
「お前を殺すたびに、その魂を吸収しているわけだ。お前は死ねば死ぬほどレベルダウンすることになる。そして最後には、すべての力を失ってただの小僧に戻る」
「そ、そんな!」
もはや抵抗すらできなくなったと知って、光司は泣きわめきながら逃げ惑う。
そんな光司を、俺は徹底的に追い詰めて殺し続けた。