犯罪
先輩と別れた俺は、あてもなく街をさまよう。
「くそ……これからどうすればいいんだ。異世界召喚なんかされなかったら……」
改めて、俺は異世界に召喚され、勇者として持ち上げられていい気になっていたことを後悔する。
もしあのまま召喚されなかったら、たとえヤンキー高でもちゃんと卒業できて、今頃はまともな会社に就職できているはずだ。
人生を決める大切な高校時代を魔王討伐なんてくだらないことに捧げてしまった結果、残されたのは学歴もスキルも人脈も家族も失ったただの男だ。
頭を抱えたままフラフラ歩いていると、いかがわしい歓楽街にやってきていた。
「仕方ねえ。今日の所はキャバクラでも行って、バーッと遊ぶか……」
俺がそう思った時、体中が痒くなり、皮膚の下を虫が這いまわるような不快感が襲ってきた。
「やべえ……酒が切れた……」
必死にコカワインを探して鞄を漁るが、異世界から持ってきた酒はもう飲みつくしていた。
「酒……酒が欲しい……」
全身をかきむしりながらフラフラと歩く俺が裏路地に入り込んだ時、怪し気な男たちが近づいて来る。
「兄さん。いい薬あるよ」
「……あるだけよこせ」
俺は血走った目を男に向けるが、奴は薄笑いを浮かべて白い粉が入った小包を見せびらかした。
「ただじゃ分けてやれねえ。ちゃんと金払いな」
「……金はねえ」
俺の返事を聞いた男は、不快そうに眉を寄せ。
「なんだ。文無しジャンキーかよ。消え失せな。ペッ」
奴らは俺に唾を吐きかけ、去っていこうとした。
そんなことをされて、俺の怒りが沸騰する。
てめえ!勇者様である俺をバカにしやがって!いいからあるだけよこせ!
俺は怒りのあまり、フレイムソードを抜いて奴らに切りかかっていった。
「はあはあ……やっと落ち着いた」
奴らから奪った白い粉をなめて、俺はやっと正気を取り戻す。
気が付けば、裏路地は男たちの血まみれの死体が転がっていた。
ああ……ついにやってしまったか。こっちの世界で初めて人を殺してしまった。
だが、勇者である俺様をバカにする奴らが悪いんだ。俺は当然の報いをくれてやったまでだ。
「きゃあああああ!人殺し!」
俺の周囲で若い女の叫び声があがる。どうやら通行人に見られたようだ。なら口封じをしないとな。
「『火炎砲』」
震える手で火魔法を放つが、狙いがうまくつけられず外してしまう。
「た、助けて!」
「待て!」
俺はその女を追いかけて、裏路地から大通りに出る。
その女が叫びながら人込みに紛れようとするので、俺はそいつを狙って指向性を高めた魔法を放った。
「『指向性衝撃火砲』」
俺が放った極大火魔法は、大勢の人を巻き込みながら一直線に飛んでいく。
大爆発が起こり、大通りにいた奴らが数百人まとめて焼け死んでいった。




