逃走
警備していた騎士たちが、慌てて俺を止めようとした。
「止まれ!」
「どけ!邪魔するな!」
フレイムソードで騎士たちを切り捨てる。
ライトならともかく、てめえらみたいな雑魚に俺が止められるかよ。
闘技場から脱出した俺は、一目散に王城に逃げ込む。王を始めとする多くの者たちが闘技場に集まっていたので、中にいたのはわずかなメイドや警備兵のみだった。
「きゃああああ!」
「偽勇者が来た!」
騒ぎ立てるメイドや立ちふさがる兵士たちを切り捨て、血だらけになりながらも目的の部屋にたどりつく。
「シャルロット!」
いきなり飛び込んできた俺を、シャルロットは驚いた顔で迎えた。
「光司様、どうされたのですか?そんなお姿で」
確かに今の俺は、素っ裸の上全身切り傷だらけ、火傷だらけの酷い有様である。
「ライトにやられたんだ。奴は今すぐにでもここに来るだろう」
それを聞いて、シャルロットの顔にも恐怖が浮かぶ。
「今すぐ俺を元の世界に戻してくれ!」
俺の頼みに、シャルロットは頷いてくれた。
「わ、わかりましたわ。ですが、その代わり私も連れて行ってください」
「そうだな。ここにいたら殺されるだけだ。二人で逃げようぜ」
俺たちは金になりそうな金貨や宝石とコカワインをバッグに詰め込むと、二人で城の奥にある「召喚の間」に行く。
そこは壁一面に白い文字で計算式のようなものが描かれていた。
「これはなんだ?」
「伝承によると、光の神コスモスのお姿の一部を壁に書き写したものといわれています」
シャルロットは壁の一部に手を触れて、呪文を唱える。
すると、白い文字が輝きだし、「召喚の間」に扉のようなものが浮かび上がった。
「さあ、いきましょう」
シャルロットが扉を開けると、そこには懐かしい日本の俺の家の映像が浮かぶ。
ああ、このオンボロ屋は間違いなく俺の家だ。俺は帰れるんだ!
「ああ、一緒に俺の世界に行こう」
次の瞬間、俺は宝が入った鞄を掴むと思い切りシャルロットを突き飛ばし、扉に飛び込んだ。
「光司様!」
「わりいな。元の世界じゃ俺はただの高校生なんだ。女連れていけるほどの身分じゃねえんだよ。うちは貧乏なんで、てめえみたいな役立たずの無駄飯ぐらいを養う金もねえしな」
中に入って内側から閉めると、扉が消えていく。
「そんな!私を見捨てるなんて!」
向こうからシャルロットの悲鳴が聞こえるが、もう俺には関係ない。
「あばよ。なかなかいい思いができたぜ」
そう言い捨てて、俺は異世界への扉が消えていくのを見守る。
こうして、俺は元の世界に帰ることができたのだった。
「逃がしたか」
煙が晴れると、光司の姿は闘技場から消えていた。
まあいい、どうせ奴はこの王都から逃げられない、あとはゆっくり追い詰めて殺すだけだ。
「勇者様の勝利だ!」
「勇者ライト様!万歳」
何か民衆が騒いでいるが、俺は無視して『耀きの球』を道具袋から取り出すと、天高く放り投げた。
「『防御結界モード』発動」
俺の命令を受け、空に浮かんだ『耀きの珠』からオレンジ色の光の結界が発動し、王都を覆う。
「これで王都は光の結界に包まれた。何人たりとも逃げ出せないだろう」
俺の言葉に、審判面で闘技場に残っていた宰相がおもねるように口を開いた。
「な、なるほど。奴を逃がさないように結界を張ったのですな。では、さっそく逃げた光司をつかまえて……」
「必要ない。奴は俺が追い詰めて殺す」
俺は宰相の言葉をピシャリと否定する。
「そ、そうですか?あ、あの。なぜ剣をお仕舞いにならないのでしょうか」
レーザーソードを掲げてジリジリと近づいてきた俺に、宰相は不安そうな目を向けてきた。
「それはな……次はお前たちだからだよ」
そういうと、俺は宰相の首を一気に刎ね飛ばすのだった。
「何をするのじゃ!」
貴賓席で見ていた国王が仰天したような声を上げるが、俺は無視して騎士たちに切りかかっていった。




