再審
闘技場
大勢の市民たちが集まって、異様な熱気に沸いている。
まず最初に屈強な騎士たちが、チンピラ風の男たちを引き出してギロチンにかけた。
「闇ギルドのボガードとその一味は、勇者光司と共謀して違法行為の数々を働いた」
司会の宰相が次々にその罪状を述べ挙げる。民たちはあらん限りの罵声を浴びせかけていた。
「この犯罪者め!」
「偽勇者の手先!」
「父ちゃんを返せ!」
それらの罵声を浴びせられたボガードは、開き直ったように大声を上げた。
「へっ。どいつもこいつもバカどもが。どうせお前たちもすぐに俺の後を追うことになるのに。せいぜい粋がっていやがれ」
やけになったように声を張り上げながら、ちらちらと俺に何かを期待するような視線を向けている。
こいつは、本当に寄生虫みたいな男だな。自分の仕返しまで俺頼みとは哀れなものだ。
「はっ、負け犬が何言ってやがんだ」
「俺たちには真の勇者様がついてる!何も恐れる事はないんだ。そ、そうですよね」
民たちは、ボガードを罵りながら、媚びるような視線を俺に向けた。
「いいたいことはそれだけか!やれ!」
宰相が手を振り下ろすと同時に、ギロチンの刃が落ちる。ボガードとその仲間たちの生首が闘技場に転がった。
「続いて、偽勇者光司の裁判を始める」
騎士がラッパを吹くと、檻に入れられた光司が連れられてくる。奴はやせ衰えた体をして、眼だけがぎらついていた。
「酒を……酒をくれ!」
狂ったように檻の格子を掴んで騒ぎ立てるので、騎士たちが酒をぶっかける。
その酒を必死で飲んでいる光司を、民たちはあざ笑った。
「みてみろよ。あいつ必死に地面にこぼれた酒まですすっているぜ」
「あんなのが勇者だと思っていたなんて、俺たちはどうかしていたんだ」
以前まではあれほど光司を勇者として崇めていたその口で、彼らは思い思いの罵声を浴びせていた。
光司に猿轡がかまされ、牢から引き出されて壇上に立たされた。
「静粛に!」
宰相の声で闘技場は静まり返る。そのあとは延々と光司の罪状が読み上げられた。
「このように、偽勇者光司は真の勇者であるライト様の功績を偽って報告したせいで、ライト様は冤罪に落とされたのです」
宰相がそう告げると、民たちから熱狂的な声が上がった。
「死刑だ!」
「拷問して処刑しろ!」
それらの声を聴くと、国王は満足そうな顔をして貴賓席から立ち上がった。
「皆の言う通りじゃ。光司は勇者を騙り、ライト殿を冤罪に落とした。真の勇者であるライト殿に裁いてもらおう」
王の声が響き渡ると、ワーッと歓声があがり、全員の視線が俺に向けられた。
「待て。その前に光司の言い分を聞いてやろう」
俺はそう宣言して光司に近づき、奴の口を拘束してる猿轡を外す。
「ぷはっ」
「さあ。猿轡を外してやったぞ。言いたいことあるなら言ってみるがいい」
猿轡を外された光司は俺を睨みつけると、大きな声で弁解を始めた。
「……たしかに、お前は『輝きの球』をつかって魔王の衣をはぎとった。その功績があるのは認めてやる」
「そうか、それはどうもありがとう」
俺にあっさりといなされ、光司は民にむけて怒鳴りあげた。
「だけど、魔王を倒したのはまぎれもなく俺だ!そんな俺がなぜ偽物扱いされなきゃならん!」
それを聞いた民たちは、いっそう怒り出す。
「ふざけんな!」
「それもライト様のおかげだろうが!自分だけで魔王を倒した気になるんじゃねえ!」
「勇者なら勇者らしくしていろ!てめえのせいで何人が不幸になったと思ってんだ!」
自分の言い分が受け入れられなかった光司は、やけになったように声を張り上げる。
「そもそも、俺は勝手にこの世界に呼び出されて、勝手に魔王退治に駆り出されたんだ!望みもしない『勇者』という役割を押し付けておいて、都合が悪くなったら俺に石をなげるのか!」
ああ、その通りだ。光司にとっては勝手に召喚されて勝手に勇者に祭り上げられたことは理不尽極まりないことだろう。
だが、世界は理不尽に満ちているんだ。俺の家族が無実の罪で処刑されたようにな。
「俺を元の世界にかえせ!こんなクソみたいな世界、もう知るか!俺はもう帰る!」
ついに光司は、国王に向けてそう怒鳴りつけた。
「ふざけるな!偽物め!」
「逃げようったってそうはいかねえ。真の勇者がお前の罪を裁いてくれるだろうさ」
民の反応を見て、国王は光司に言い渡す。
「では、判決を下す。光司は勇者を名乗り、我々をたぶらかしたことにより死刑に」
「ちよっと待った」
国王の言葉を遮り、俺は光司につけられていた「隷属の鎖」を外してやった。
「たしかに、お前はこの世界に勝手に呼ばれた被害者だ。いくばくかの同情できる余地もある。だから、チャンスをやろう」
レーザーソードを出現させ、光司に突きつける。
「最後まで勇者として戦え。俺を倒すことができたら、命だけは助けてやろう」
「いいだろう。受けて立ってやる」
光司の瞳に闘志が燃えあがるのを見て、俺は頷くのだった。




