厚遇
「ここから出せ!」
俺は勇者光司。目が覚めたら城の地下牢に入れられていて、全力で反抗している所だ。
「大人しくしていろ。その牢は『魔封じ』の魔法陣が描かれている特別製だ。貴様がいくら暴れても出ることはかなわん」
俺を捕まえた騎士団の団長は、そういって憎々しげに俺を睨みつけた。
なんだよ!ちょっと前まで俺にへいこら頭を下げていたくせに!俺は世界を救った勇者様なんだぞ!
何度も「出せ」と怒鳴りつけてやるが、騎士たちは命令に従わずに冷笑を浮かべるのみである。
そうしていると、酒が切れてきた。
「うう……酒。酒をくれ……」
「ふふ……これが欲しいのか?」
騎士たちは俺にみせつけるように「コカワイン」の瓶を目の前で振ってくる。やめろ!そんなことしたら炭酸がぬけてまずくなるだろうが!
「欲しければ、土下座して頼み込むんだな」
騎士たちが下卑た笑みを浮かべて煽ってくる。
俺は勇者としてのプライドをかけて拒否していたが、そうしていると全身がむずがゆくなってきた。
「か、痒い!」
俺は全身素っ裸になって、かきむしる。まるで皮膚の下を小さな虫が這いまわっているかのような不快な思いを感じていた。
「酒をくれ!」
狂ったように叫びながら全身をかきむしる俺を見て、騎士たちがバカにしてくる。
「みてみろよ。まるで猿みたいだぜ」
「勇者も落ちぶれたもんだな」
「違うぜ。こいつは最初から偽物だったんだ。陛下がおっしゃられるようにな」
仲間内で俺を指さし、嘲笑ってくる。
「しかし、このままだと発狂して死んでしまうぜ」
「仕方ない。酒をやろう」
ようやく酒を与えられて、俺は落ち着きを取り戻す。
「てめえら、勇者にこんなことして、あとでどうなるかわかってんだろうな」
精一杯の威嚇を込めておどしつけてやったが、騎士たちは恐れ入らなかった。
「せいぜいほざいていろ。ライトが来たらお前は彼への生贄に捧げられるんだ」
なに?俺を生贄にだって?今までさんざんライトを貶めて俺を持ち上げていたくせに、今になって裏切るのか。
「許せねえ……復讐してやる」
こうなったらどいつもこいつも関係ねぇ。ライトも国王も騎士たちも全員殺してやる。
俺は深い復讐心を抱きながら、牢から出される日を待つのだった。
俺はついに王都にやってくる。
以前来た時は大勢の交易商人が行きかう活気にあふれた都市だったが、今は人影もまばらで、どんよりとした雰囲気が漂っていた。
「いったい何があったんだ?」
城壁の外には、焼死体が山のように積み上げられている。
多くの兵士や市民たちが穴を掘って必死に埋めているが、人手がたりないのか、かなりの死体が放置されていた。
俺は城壁の前で地上に降り、門に近づいていく。
「ライト様だ……!」
「や、やっと来てくださった。これで俺たちも救われる」
俺の姿をみた市民たちは、土下座して拝んできた。
無視して雷を振るおうとしたら、監督していた騎士にとめられる。
「お、おやめください勇者様。私たちはあなたの味方です」
「ほう……」
以前とは全く違う対応に、俺は興味をひかれた。
「いったい何があった?」
「実は……」
騎士によると、光司が癇癪を起して避難民たちを虐殺したらしい。
そのことで奴の評判が落ちたところに、国王から俺にかけられた罪はすべて冤罪だったとお触れがでて、民たちはすっかり俺を真の勇者だと崇めるようになったとのことだった。
「勇者様が冤罪を受けて追放されて以来、我ら王都に住む者たちは偽勇者光司の暴虐に耐えておりました」
切々と、光司がやった悪行が訴えられる。
「我らが王は、自らの判断の不明を恥じ、偽勇者である光司を牢に入れ、真の勇者であるあなた様のご来訪をお待ちしておりました。さあ、馬車にお乗りください。陛下のもとにお連れ致します」
豪華な馬車を用意され、乗るように促される。
(面白い。ここは奴らの手にのってやるか)
そう思った俺は、無言で馬車に乗り込む。
ほっとした騎士は、高らかに宣言した。
「さあ、真の勇者様の凱旋だ。王都中に知らせろ」
兵士たちが中に走っていき、王都中に触れ回るのだった。