逮捕
俺はボガード。闇ギルドを支配する顔役だ。
最近の俺たちはすべてがうまくいっている。
農地が壊滅したので地方から出てきた元地主、商会の経済破綻により困窮した商人たち、失業した冒険者たち、領地をうしなった貴族たち、教会を追われた神官たちが、酒と憂さ晴らしを求めてスラムにあつまってきている。
奴等は元の場所から逃げ出すときにいくらか財産を持ってきていたが、慣れない都会暮らしと故郷を追われたストレスで、あっという間に酒とギャンブルにおぼれて散財していった。
そのおかげで闇のギルドは大盛況である。また、俺たちのバックには頼もしい勇者様がついているので、たとえ騎士たちですら手を出せなかった。
そしてその勇者様は、今ではすっかりアル中になって俺の言うことを何でも聞く手下になっていた。
「さ、酒をくれ……」
「勇者様。ただでは差し上げられませんな」
必死に酒をもとめる勇者光司に、わざと焦らすように酒瓶を見せつけてやる。
「お、俺にできることならなんでもする」
「では、これからも私の言うことをきいてくださいますな」
勇者が頷くのを見て、俺は酒をグラスに注いでやる。それを飲んだ勇者は多少落ち着いたようでふーっと息をもらした。
「ああ、うめえ。やっぱこれが一番だよなぁ」
「勇者様に気に入られたようで、何よりです。これからもいい関係を築いていきましょう」
「ああ。任せな。いずれ俺はこの国の王になるんだからよぅ。そうなったらお前も取りたててやるぜ。貴族にでもしてやろうか?」
上機嫌でそんなことを言う勇者に、俺はひそかに失笑した。
ふふふ、こいつが王になるだと?身分すらわきまえぬとは、異世界人とはある意味羨ましくなるほど能天気なものなのだな。
だが、王子亡きあと有力な王位継承者候補はシャルロット姫である。こいつは確かにその婿として、王配につく可能性が高いのだ。
そうなったら、この俺が腹心として貴族になり、いずれはこの王国を裏から支配することも夢ではない。
「そうなったら、俺を宰相にでもしてもらいましょうか」
「おう、任せな」
ただの裏社会のチンピラの子として産まれた俺が、やがて宰相になり、すべて貴族たちの頂点にたつ。
そんなバラ色の夢に浸っていた俺の前で、勇者光司は酔いつぶれて眠りに落ちていった。
「ふふふ、この俺が宰相か。悪くないな。ならせいぜいこいつを利用してやろうか」
だらしなく酒瓶を抱いて寝こけている勇者をみながらそうつぶやいたとき、慌てた様子の部下がやってきた。
「親分!一大事です」
「なんだ?」
せっかくいい気分に浸っていたのに、無粋な奴め。
「騎士隊が襲ってきました。ギルドの構成員が皆殺しにされています」
「なんだと!?」
バカな!勇者をバックにもつ俺たちには、騎士といえども手出しできないはずだ!
「勇者様!起きてください!」
泥酔して寝込んでしまった勇者の頬を必死で叩くが、奴は起きようとしない。
「なんだよぅ。うるせぇなあ……ぐーーっ」
ええい、この役立たずのへぼ勇者め!
「チンピラどもを集めろ!こうなったら徹底抗戦だ!」
「む。無理です。すでに館は騎士たちに取り囲まれててます」
くそっ!こうなったら俺だけでも……。
今までためた財産をもって、逃げ出そうとするが、騎士たちに館に踏み込まれてしまう。
「大人しくしろ!闇ギルドのドン、ボガードよ。禁薬を売った罪で拘束する」
たくましい騎士たちに剣を突きつけられてしまう。
「お、俺たちのバックには勇者がいるんだぞ。お前たち、俺たちにこんなことをして、覚悟ができているんだろうな」
必死に勇者の権威を言い立てるが、騎士たちに鼻で笑われてしまった。
「勇者?ああ、そこで寝ている酔っ払いか?」
騎士たちはソファで寝ている光司を乱暴に縛り上げる。
なんだこの対応は?勇者に敬意を払わないなんて。
もしかして、俺たちは勇者という権威を信じすぎてしまったのか?
「連れていけ!」
俺たちは、勇者ごと騎士によって連行されてしまうのだった。




