虐殺
モーリスたちを殺した俺がダンジョンから出ると、多くの村人たちが集まっていた。
「ライト!モーリスたちはどうなったんだ」
村長の問いかけに、俺は首を振る。
「わからない。途中ではぐれた」
「なんだと!お前ひとりだけ逃げ帰ってきたのか!」
モーリスの取り巻きの一人の親が怒り狂った顔で迫ってくる。
「それより、食べ物と水をくれ。腹をすかせているんだ」
俺はそう要求したが、村人たちはせせら笑って拒否した。
「ふざけるな。奴隷の分際で」
「ご主人様も守れなかった奴隷に、食わせる飯はねえ」
村人たちの言葉に、俺はさらに怒りを募らせる。
「お前たちも人間なら、死ぬ思いをして帰ってきた俺に飯の一杯も施そうとは思わないのか」
最後のチャンスを与えるつもりでそう告げたが、村人たちには相手にされなかった。
「だれが罪人奴隷なんかに」
「てめえなんかに飯を恵んでやるくらいなら、肥溜めに捨てたほうが肥料になるだけマシだぜ」
「飯がほしけりゃ、肥溜めから残飯を拾って食べるんだな」
取り巻きたちの親がそうはやしたてると、村民たちは老いも若きも俺を指さして笑った。
「そうか……わかった。もう遠慮はしない」
そうつぶやくと、俺は両手を高く掲げた。
「勇者の怒りを思い知れ」
俺は勇者の剣を振りかざし、村人たちに切りかかっていった。
ダンジョンの出口には、ブスブスと煙を上げている消し炭のような物体が散らばっている。俺が「レーザー」で切り殺した村人たちの死体である。
ここにあるのは10体ぐらいで、残りの村人たちは全員逃げ散っていた。
「なんだ。今までさんざん俺を虐待してきたくせに、情けない」
俺は薄く笑うと、魂を吸収する。村人たちの魂を吸って、「勇者の剣」はさらに長くなり、より輝いていった。
俺はゆっくりとした足取りで、村に向かう。村を囲う木壁の入り口はぴったりと閉ざされ、村を守る兵士たちが待ち構えていた。
「偽勇者ライト!とうとう本性を現したな。俺たちが成敗してやる」
兵士たちの隊長が俺に向かって矢を放つ。しかし、何人も人間を殺してレベルアップした俺は、やすやすと矢をかわした。
「くっ……くそっ。こうなったら籠城だ。すでに使者は送った。このまま耐えていれば、コルタール城から援軍が来る」
隊長のはかない希望を、俺はせせら笑う。
「残念だが、その前に村は滅ぶさ」
俺は入り口の扉に向けて、「レーザー」を放つ。分厚い木でできた扉は、あっさりと切断されて門が開いた。
「ばかな……剣で門を切り刻むなんて。うわぁぁ!化け物だ」
俺の力を見て、田舎でまともに戦いもしたことがなかった兵たちは逃げ出していく。
「逃げるな。戦え!くっ……私が戦うしかないか。村の平和を守るために」
隊長は砦から降りると、俺に向けて剣を構えた。
「モース村駐屯部隊長、フランチェスコ・ザビ……」
「邪魔だ」
俺は奴の名乗りを最後まで聞かず、勇者の剣を振り下ろす。隊長の体は、縦に真っ二つに切り裂かれた。
「雑魚に用はない」
俺は倒れた隊長に目もくれず、村に視線を向ける。隊長の死を見ていた村人たちは、慌てて家に逃げ込んだ。
「さあ、復讐を始めるとするか」
俺はにやりと笑うと、一番近くの家に入っていった。
「ゆ、ゆるしてけろ。オラたちは勇者に騙されてたんだ」
「お願い!せめて子供だけでも助けて!」
命乞いをする父を切り殺し、哀願する母を子供もろとも焼き殺す。
「ご、ごめんなさい。ごはんなんて、いくらでも作ってあげるから!そ、そうだ。この体を自由にしていいから。ね、ねえ。私たち幼馴染でしょ。見逃して!」
必死に誘惑しようとする若い娘を、何のためらいもなく一刀両断する。
あっという間にモース村は炎に包まれた。
「うわあああああ!逃げろ!」
家に立てこもっても無駄で、俺を説得することもできないと知った村人たちは、反対側の村の門から着の身着のまま逃げ出していく。
「くくく。逃げろ逃げろ。どうせ逃げても無駄だしな」
俺はあえて追いかけず、ひたすら逃げ遅れた村人たちを虐殺していった。
そして一番奥の家に押し入ると、椅子に座った村長と対面する。
村長は俺を見ると、深いため息をついた。
「やはり、この時が来たか。もはやすべてはおしまいじゃな」
村長の顔には、諦めが浮かんでいた。
「お前は逃げないのか?」
「逃げても仕方あるまい。モース村は滅んだ。無一文で逃げてほかの村に行っても、奴隷にされるだけよ」
さすがに村長ともなれば、財産をもたない村人たちがよその土地にいってもまともに生きていけないことを知っているようだった。
「モーリスはどうなった?」
「まだ生きてはいるだろうぜ。ダンジョンゴキブリの餌になっているだろうがな」
俺がそう告けると、村長は再び深いため息をついた。
「そうか……愚か者め。あれほどお前を追い詰めるなと言い聞かせていたのに」
「知るか。止めなかったお前にも責任があるだろうが」
俺がそう指摘すると、村長は寂しそうにうなずいた。
「わしらの罪は認める。お前の罪も冤罪じゃろう。そのうえで頼む。復讐はこの村だけにとどめて、勇者の正統後継者としてその力を世のため人のために使ってはくれまいか?」
「ふざけるな」
村長の都合のいい頼みごとを、俺は鼻て笑って拒否した。
「そうか……これも勇者の血筋を軽んじた、我々に対する罰なのじゃろう。さあ、遠慮なくワシを殺すがいい」
「そうか。なら死ね」
俺はあっさりと村長の首をはねる。
家の外に出ると、もはやすべての村人たちが逃げ出した後だった。
「さてと……奴らが帰ってこれないようにしないとな」
俺は周囲の麦畑に火をつける。燃え上がる麦畑を見ながら、俺は復讐の愉悦に浸っていた。
「このコルタール地方は、王国の穀倉地帯だ。麦畑を焼いていけば、いずれ王国に深刻な食糧不足をもたらすだろうぜ」
復讐を終えた俺は、村の家々を回って食料と金を集めていく。
「まっていろよ。俺を陥れたすべての者たち」
最後にすべての家に火をつけて、俺は次の村に向かっていった。