混乱
「光司をよべ」
国王に呼び出された光司は、最初から不機嫌だった。
「なんだよもう。いい気持で酒を飲んでいたのに」
酒の匂いをプンプンさせながら愚痴をもらす光司に、国王は詰問する。
「貴様は魔王となったライトを倒すと予に約束したな」
「ああ、あんな奴、俺にかかればちょろいぜ。ひっく」
しゃっくりをしながら胸をそらす光司に、国王は怒鳴りつける。
「なら、なぜ未だに王都にとどまっておるのだ!さっさとライトを倒してこい!」
そう言われた光司は、不満そうに頬を膨らませた。
「なんだよ。奴がどこにいるかもわからないのに、王都を離れても仕方ねえだろうが。だったら、王都で待ち伏せしていたほうがいいだろうが」
そう返されて、国王は言葉に詰まった。
「……魔王がどこにいるか探るのも、勇者の務めであろう」
「なんだそれ。だいたい、お前は何やってんだよ。大勢の兵士や騎士を抱えているくせに、ライト一人倒せないのか?」
光司の言葉に、国王は眉間に皺をよせた。
「……もはや奴は以前のような、ただの照明係ではない。勇者の力が覚醒した上に、魔王の力まで手に入れておる。悔しいが、兵士や騎士たちでは対抗できん」
「はっ。だったら俺の力が必要ってことだな。奴が王都に来たら俺を呼べ。それまで俺はまったり過ごさせてもらうぜ」
そういって帰ろうとする光司を、国王は呼び止めた。
「待て。そんな悠長なことは言ってられないのだ。実は避難民からの情報で、宗教都市エルシドがライトに滅ぼされたことがわかった。マリア殿も殺されたらしい」
「マリア……って誰だったっけ。ああ、思い出した。聖女とか名乗っていたビッチだな。いつのまにかいなくなっていたので、忘れていた」
どうやら酒と女におぼれていて、マリアのことも忘れていたらしい。一度は勇者として擁護した光司の醜態に、国王は血管がきれそうになるが、なんとか抑えて命令した。
「国王として命じる。勇者として王都の外にいる避難民たちを慰撫してまいれ」
「え~なんで?めんどくせぇ」
「逆らったら、支給している給金も打ち切りにして王都から追放じゃ!」
そこまで言われて、光司はしぶしぶ頷く。
「わーったよ」
こうして光司は兵士たちとともに、王都の外にある避難民キャンプに向かうのだった。
俺は光司、魔王を倒した勇者だ。
今俺は騎士たちに連れられて、難民キャンプに来ているが、その環境は酷い物だった。
あちこちに汚らしいテントが立っていて、襤褸を来た人間たちが寝転がっている。
中には病気にかかっている奴もいるみたいで、膿で全身が爛れていたいたり激しく咳込んでいたいたりする奴があちこちで見かけられた。
俺が難民キャンプに近づくと、汚い恰好をしたガキたちが近寄ってくる。
「わーい!勇者様だ」
「僕たちを助けにきてくれたんだ」
鼻水がついた手で俺に触れようとしたので、俺は思い切り蹴り上げてやった。
「汚い手でさわんじゃねえ!」
「ぐはっ」
俺にけられたガキは10メートルも吹っ飛び、地面にたたきつけられる。
「坊や!」
それを見ていた母親らしい汚い女が、慌ててガキに駆け寄った。
「坊や!ああ、坊や、しっかりして!」
必死に揺らして起こそうとするが反応はない。ガキは首の骨を折って絶命していた。
無視してそのまま行こうとしたら、母親に怒鳴りつけられしまった。
「なんてひどいことを!坊やが何をしたっていうの?」
「知るか。そのガキが俺に触れようとするから悪いんだ」
汚いガキの分際で俺に近づくなんて100年はええんだよ。
「この人殺し。それでも勇者なの?」
「ああん?なんか文句あんのか?」
フレイムソードを抜いて切り捨ててやろうとしたら、周りの騎士たちに止められた。
「ゆ、勇者様。私たちは難民を慰撫しに来たのです。ここでそんなことをすれば……」
「チッ。わかったよ」
その女は騎士たちに任せ、俺たちは避難民たちのキャンプの中央にある広場にいく。
去っていく俺の後ろ姿を、その女は恨みを込めた目で睨んでいた。