崩壊
「光の結界の中にいる自分だけは、病気とも無縁で安全だと思っているんだろう」
普段、上から目線で正義や博愛を語っているのに、いざとなると真っ先に自分の保身に走る卑怯者たちめ。
俺はエルシド中の魂を集めて、光の結界を一点突破できる闇魔法を展開する。
病魔で死んでいった者たちの苦しみや、俺の雷で打たれて殺されていった者たちの恨みが集まり、巨大な闇の矢を形作った。
「極大闇魔法『極闇矢』」
俺が闇の矢を打つと同時に、大灯台の祭壇から光の矢が放たれる。
二つの矢は真正面からぶつかりあい、すさまじい衝撃波が辺り一帯を吹き飛ばしていった。
少し前。大灯台の中
「あっ。教皇様……お返しください。そ、それは私の下着でございます」
「はあはあ、おとなしくしろ。神の代理人たるワシがそなたの信仰を試してやるのだ」
ワシは今、私室で修道女にありがたい教えを説いている。たった今、その娘の下着をはぎ取った所じゃ。
まだ若いその修道女は、恥辱のあまり顔を真っ赤に染めていた。
「ぐふふ。若いムスメはたまらんのう」
「き、教皇様。見損ないました。あなたがこんなことをする変態だったとは……」
誰が変態じゃ。これはその、神の試練なのじゃ。
下着を頭にかぶって娘を追い回していると、マリアともこういうプレイをしたことが思い出されてくる。
そういえば、マリアはどこにいったのじゃろうか。大灯台にはいなかったので、街に取り残されたのかもしれない。
まあよい。大灯台にはワシの身の回りの世話をするという名目で集めた若い修道女も大勢いる。当分退屈することはないじゃろう。
「ほれ、捕まえた。おとなしくするのじゃ」
「あれー!神様、助けてください」
ぐふふ。神は助けになどこぬわ。なぜならワシが神の代理人なのじゃからな。
娘を捕まえて、いざベッドに連れ込もうとした時、慌てた様子の聖堂騎士が部屋に入ってきた。
「教皇様!大変です!」
「なんじゃ!そうぞうしい。後にせい。今、ワシはこの娘に神の教えを説いているところじゃ」
せっかく新しい娘を味見するところだったのに無粋な奴め。
「そ、そのようなことをしている場合ではございません。魔王ライトが……」
「おう、とうとう現れたか」
ワシは娘を放り出して、最上階に昇る。すでに枢機卿たちも集まっていて、怯えた目で街を見下ろしていた。
「魔王はどこじゃ」
「あ、あそこに」
枢機卿が指さす方向を見ると、黒いローブを纏った男が浮かんでいるのが見えた。
「ほう。これは都合がいい。これで奴もおしまいじゃ」
ワシは祭壇に向き直ると、『輝きの球』を防御結界モードから迎撃光線モードに変更しようとする。
その時、ライトが両手を高く掲げ、光の魔力を放出した。
「何をするつもりじゃ」
悪い予感がして、モード転換を一時中止して結界を維持する。
しばらくして、ライトの頭上に雷雲が発生した。
「あ、あれはまさか、伝説の勇者ライディンが使った極大光魔法か?」
まずい、あれには都市一つまとめて滅ぼすほどの威力があると記録に残っている。
ワシが『耀きの珠』に魔力を捧げて結界を強化すると同時に、轟音と共に無数の雷が落ちてきて、視界すべてを覆った。
「こ、これは……」
雷がおさまると、街のあちこちで黒焦げになった死体が転がっている。このエルシドにいる者は、大灯台の中にいた者をのぞいて全滅していた。
「は、はは、馬鹿め。あれだけの大魔法を使ったのなら、魔力が尽きたはず。今『耀きの珠』の光の矢を放てば、ライトを倒せる」
ワシは慌てて祭壇を迎撃光線モードにして、魔力を再チャージする。
しかし、ライトは今度は両手に闇の魔法を纏いだした。
「あれは……死者の魂を吸収して、魔力に変換しています」
枢機卿たちが恐怖の声をあげる。クソっ、間に合え!
魔力再チャージが終わり、光の矢が発射されると同時にライトも闇の矢を発射した。
相反する二つの属性を持つ矢が激突する。しかし、次第に黒い矢が白い矢を呑み込んでいき、オレンジ色に変色していく。
「うわぁぁぁぁ!」
ついに白い矢は消滅し、オレンジ色の矢が大灯台に激突した。
「だ、大灯台が崩れる!」
すさまじい衝撃により、大灯台にひびが入っていく。
最上階の床が轟音を立てて崩れると同時に、ワシは『輝きの球』を抱きしめて結界を張っていた。




