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聖女


王城 謁見の間


パーティ会場で、王子がモンスターと化して勇者と戦い、倒されたと聞いて、国王は怒り狂う。


「勇者光司!なぜ我が息子を殺した!」


国王は詰問するが、光司は恐れ入らなかった。


「ああん?てめえの息子がモンスターになったから、討伐しただけだろうが!なんか文句あんのかよ。ひっく」


そう答える光司の顔は真っ赤になっている。もはやコカワインに依存しきっていて、常に飲んでいないと正気を保っていられない状態だった。


自分に敬意を払わない光司に、国王は激高する。


「ええい!こやつを切れ!」


国王の命令に騎士団長をはじめとする衛兵たちが剣を抜く。


光司もフレイムソードを抜いて相対した。


一触即発の危機に、今までだまっていた聖女マリアが口を開く。


「陛下、心をお鎮めください。光司様は勇者としての役目を果たしただけでございます。ヴァンパイアと化した王子を放置していたら、多くの貴族たちが襲われて、王都が滅んでいたかもしれません」


「ぐぬっ」


正論を言われて、国王は沈黙する。


「光司様も剣を引いてください。息子を殺されたのです。陛下のお気持ちもお考え下さい」


マリアに諭されて、光司もしぶしぶ矛を収める。


「あなた方が本当に立ち向かうべきは、王子をモンスターに落とした魔王ライトでございます。今は協力して彼に対抗すべきかと」


その言葉に、国王はなんとか自制心を取り戻す。


しばらくして、絞りだすような声で光司に礼を言った。


「勇者光司よ。魔物と化した息子を倒してくれて感謝する。おかげて魔物の侵攻を未然に防ぐことができた」


「いいってことよ」


国王の謝罪を、光司は軽く受け流した。


「褒美に何が欲しい?」


「そうだなぁ。女も金も酒も困ってないしなぁ」


酔った頭で考え込む。


「そうだ。王子がいなくなったんだから、俺を代わりに王位継承者にしてくれよ。勇者でシャルロットの夫である俺ならふさわしいだろ」


光司の言葉に、国王は怒りのあまり立ち上がりそうになるが、傍に控えていた騎士団長に手を引かれて座りなおした。


「……いいだろう。ただし、第二の魔王と化したライトをお前が倒せたらだ」


「いいぜ。あんな奴、俺にかかれば一ひねりだぜ。はっはっは。ひっく」


光司は機嫌よく高笑いしながら退出していった。


謁見の間に残された者たちの間に、沈黙が降りる。


「ライトを偽勇者として処断し、光司を真の勇者として王国の守護者にするとしたのは、間違いであったか」


国王は今更ながらに、自分の判断を後悔する。


冷静に考えてみれば、ライトを無理に冤罪をかぶせて偽勇者扱いする必要などなかった。


普通に厚遇して手駒にしていれば、もし光司が勇者にふさわしくない行動や言動をしても、その代わりの象徴として使えたはずである。


『光魔法を使えるライトは、同じ勇者ライディンの子孫である王家の権威を脅かす可能性があります』とマリアに言われて、安易に処罰してしまったしてしまったことが悔やまれる。


「マリア殿。あなたの助言に従ったせいで、ライトは第二の魔王となり反乱を起こし、光司は堕落した。どう責任を取られるおつもりか?」


「くすくす。今更私の責任を問われても。陛下もベッドの中で『それはいい考えだ』と同意してくださったではありませんか」


「なっ!」


いきなり暴露されて、国王は動揺する。それをみた騎士団長や大臣たちは、国王に軽蔑の視線を向けた。


「聖女様に手をだしただと?」


「いくら陛下といえども、あまりに無節操な……」


そんな空気が広がる中、マリアはさらに告げる。


「まあ、今更そんなことを言っても無意味ですわ。魔王となったライトに対処せねばなりません」


「あ、ああ。そうだな」


国王は頷くと、宰相に目を向けた。


「それで、ライトは今どこにいる?」


「はっ。農業都市コルタールをはじめとする各都市を壊滅させた後は、行方をくらませております」


「となると、次は教会の本部がある宗教都市エルシドか、この王都ということになるのか」

国王は地図をみながら、じっと考え込む。


「王都を落とされるわけにはいかん。マリア殿。エルシドに赴いて、わが弟である教皇マルタールに、『輝きの球』を貸し出してくれるように交渉してくれぬか」


「陛下のご命令に従います」


こうしてマリアは、援軍につけられた騎士団と共に宗教都市エルシドに向かうのだった。




「王子が殺されたか……」


宗教都市エルシドに向かう途中、俺の中に王子の魂が入ってくる。


それによって、俺は王子の最期を知ることができた。


「マリアの闇の魔力って、何なんだ?」


同じパーティにいるころは深く考えもしなかったが、マリアの力は確かに異常だ。


なぜ奴は闇の魔力なんて使えるんだ?


本来、闇属性の魔法は魔王とその配下のモンスターにしか使えないはずなのに。


もしかして、奴は先代魔王となにかつながりがあったのでは?


そう考えこんでいると、清らかな気配がして、アリシアの魂が降りてきた。


「お義兄様。まだ心が休まりませんか?」


「ああ。まだまだ満足しない」


俺は正直にそう答えた。


「次はお前の姉であるマリアを殺す。これでお前も俺に愛想を付かすだろう」


アリシアを早く天に昇らせてやりたくて、俺はそう言い放つ。もうお前はすべてのしがらみから自由になったんだ。いつまでも汚らしい地上に関わって欲しくない。


しかし、アリシアは天に帰ろうとしなかった。


「……私には、痛いほどお義兄様の苦しみが伝わってくるのです」


魂だけになったアリシアには、人の心の中も手に取るようにわかるらしい。彼女は慰めるかのように、俺を抱きしめていた。


「アリシア。もうお前には関係ないことだ。いつまでも俺を見守ってないで、天に昇るがいい」


そう勧めても、アリシアは悲しそうな顔をして、首を振った。


「お義兄さま。マリアお姉さまがお義兄様を裏切ったのにも、何か深い理由があるように思えるのです」


「なんだと!どんな理由があるというんだ」


あいつはただ俺が身分の低い農民だからという理由で、俺を裏切った。そのために自分の体まで使って国の上層部を操っていたはずだ。


「それはわかりません。ですが、魂だけになった今の私には、マリアお姉さまの先代魔王に対する深い愛と悲しみが伝わってくるのです」


「先代魔王だと……?」


そういえば、俺は先代魔王の名前すら知らず戦っていた。


彼が過去に人間に滅ぼされた魔族という種族で、復讐のために戦っていたという所までは「復讐の衣」からの記憶でわかっている。


しかし、本当に何があったのか、マリアとどんなつながりがあったことまではわからなかった。


考えてもわからない事ばかりなので、俺は一つ首を振って気分を切り替えた。


「もういい。奴にどんな理由があろうと、俺は復讐するだけだ。アリシア、醜い現世のことは忘れて、天に帰れ」


アリシアの魂は、悲し気な笑みを浮かべて去っていった。


そのまま空を飛んでいくと、遠くに宗教都市エルシドの象徴となる大灯台が見えてくる。


「よし。一気に侵入して滅ぼそう」


そう思っていると、いきなり大灯台の頂上が輝き、真っ白い聖なる光の矢がこちらに向けて発せられた。


「なにっ?」


『復讐の衣』がはぎ取られそうになる。俺は必死に意識を集中させて、消えようとする衣を再び引き戻した。


「まずい。『輝きの球』の聖なる光にあてられると、俺が浄化されてしまうかもしれん」


俺は『電化(サンダーフィギュア)』を解くと、エルシドから少し離れた丘の上に降り立つのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 結局国王の後悔がそのとおりだと思う 功績に対してそれなりに報いてやればよかったのに 理不尽な仕打ちをするからこういうことになるんだよ それも不必要なことを 人として大切なことは 不必要に他…
[一言] 今回の復讐も非常に気になります。
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