勇者のパーティ
毎日メイドといちゃいちゃし、アルバイトにギャンブル、そして新しい酒という充実した毎日を送っていた俺に、久しぶりに王家から登城命令が来る。
「王子が帰って来たって?だからってなんで登城しないといけないんだ」
いい気分で酒をのんでいた俺はその命令に顔をしかめる。
「まあまあ、きっと王国の勇者である光司様と、次期国王である王子様を仲良くさせたいのですわ」
「めんどくさいなぁ」
マリアに諭され、しぶしぶ登城する。王城についた俺は、なぜか部屋で夕方まで待たされていた。
「なんでこんなに待たされているんだ?」
「申し訳ありません。王子様は旅の疲れが出て、お休みになられています。体調が回復されるまでお待ちください」
王城のメイドは、すまなさそうに言い訳した。
「けっ。軟弱な奴だぜ」
仕方ないので、もってきたワインを飲んで時間をつぶす。
「お待たせしました。今から交流会が始まります」
「うーい。ひっく」
メイドが呼びに来たときは、俺は完全に酔っぱらっていた。
メイドに着替えさせられ、なんとかパーティの会場に入る。
「いや~このお酒はおいしい」
「さすが勇者様のお墨付きをもらっただけのことはある」
パーティ会場では、マリアのコカワインが提供され、貴族たちには大好評だった。
「うふふ。これでもっとお金が稼げますわね」
「ああ、皆喜んで飲んでいるぜ。どれ、俺も」
会場にあったコカワインの瓶を取り、ラッパ飲みする。俺はますますいい気分になっていった。
「それで、王子とやらはどこにいるんだ」
「あそこに」
マリアが指さす方向をみる。パーティの中央では、銀髪の美男子が貴族の令嬢たちに取り囲まれていた。
「リュミエール王子、お帰りなさい」
「私と一曲踊っていただけませんか?」
令嬢たちに囲まれた王子は、にこやかな笑みを浮かべてフンフンと匂いを嗅いでいた。
「くんくん……美味しそうな匂いだ。いいだろう。今夜は寝かせないぞ」
王子がそう言うと、令嬢たちはキャーと歓声を上げた。
「気にいらねえな。スカしやがって」
「まあまあ。光司様だってメイドにモテているじゃないですか」
マリアがそう宥めてくるが、俺は奴が気に入らない。
なんでイケメンで王子だからって、魔物と戦ったこともない弱ぇ奴が令嬢たちにモテるんだ?
よく考えたら、マリアとシャルロットを除いて貴族の女たちは俺に近づいてこない。そうだ。きっと奴らは心の底では、俺を身分が低い奴だと見下しているんだ。
酔った頭でそう考えていると、だんだんムカついてきた。ここは一発シメてやらねえとな。
「おうおう王子とやら、ずいぶんモテてるなぁ。俺にも分けてくれよ」
ヤンキー高にいた時によくやっていたように、俺は王子に絡んでいった。
「なによ野蛮人!」
「勇者だからって思いあがらないで!無礼者!下がりなさい」
周りにいた令嬢たちがピーピーうるさいが、睨みつけてやると慌てて逃げ出していった。
しかし、王子は嫌悪の表情で俺を睨んでいる。
「うっ!ゲボッ。君の血は臭い。いったい何飲んでいるんだ?」
「ああん?なんだとコラ!」
俺は王子の胸倉をつかむが、奴はヒビらなかった。
「近寄らないでくれ。君の汚い血はいらない」
冷たい目で睨んでくる。
「ああ?何様のつもりだ!」
ぐっと顔を近づけてメンチを切った時、俺の鼻にかすかな腐敗臭が感じられた。
「こ、これは、モンスターの匂い!てめえ!何者だ!」
そのまま一本背負いの要領で投げ飛ばすが、奴は空中でくるりと一回転して着地した。
「やれやれ、せっかちな奴だな。パーティはこれからだというのに」
銀髪をかきあげて笑みを浮かべる。その口元に、するどい牙が生えていた。
「まあいい。ライトには怒られるかもしないが、相手になってやろう」
そういうと、オレンジ色の剣を両手からはやした。
王子の姿が変わっていく。肌が黒くなり、背中からは蝙蝠のような羽が生えた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「モンスターが出た!」
その姿を見た貴族たちは一目散に逃げていき、部屋には俺とマリアが残った。
「こ、こいつはなんなんだ?」
「光司様、気をつけてください。『ヴァンパイア』です」
マリアは油断なく杖を構えながら警告した。
「その通り、僕は魔王ライトに魂を売ってモンスターになった。彼の露払いとして、王都を蹂躙してやる」
そういって、王子は高笑いした。
「くそっ!フレイムソード!」
俺は剣に炎の魔力を込めて切りかかるが、あっさり受け止められてしまった。
「無駄だね。僕の剣も君と同じ魔法剣だ。君の剣は僕には通用しない」
王子は余裕たっぷりに言い放った。
「てめえ、モンスターのくせに光の剣を使うのか」
「くくく、光と闇は決して相容れぬものじゃない。むしろ、光あるところに必ず影ができるように、表裏一体に存在するものなのだ。だからこうやって融合させることができる」
王子はそういって、オレンジ色の剣を振り上げた。
「ライトからさずかった「レーザーソード」にかけて、君をうちたおす」
「ほざけ!」
炎の剣と光の剣がせめぎあう。王子は勇者である俺と互角に打ち合っていた。
「てめえ、王子のくせにやるじゃねえか」
久しぶりの戦いで、俺の心が熱く燃え滾っていく。
「ふふふ、一応僕も勇者の血を引くものだからね」
対して王子は、どこまでもクールに剣を振るっていた。
そのまま何十合もうちあっていると、次第に疲労で体が重くなってくる。
やばい。酒が切れてきた。急激に自信が失われ、体がふらついていく。
震える手で懐から酒瓶を取り出そうとするが、奴の剣によって両断されてしまった
「てめえ!よくも俺の酒を!」
「おいおい。戦いの最中に酒を飲もうなんて、戦士としてどうかとおもうよ」
奴はそうからかってくる。
くそっ!しばらく実戦を経験してなかったからか、体がうまく動かねえ!
「これで終わりだ!」
奴の剣が俺の脳天に迫る。もうだめかと目をつぶった時、いきなり黒い糸が王子を捕らえた。
「『闇蜘蛛縛り』。闇の力で、あなたの神経を麻痺させました」
マリアの杖から黒い糸が出て、王子を縛り上げている。
「そ、その力は魔王と同じもの。貴様はいったい……」
王子はマリアの力を見て動揺していた。
「いまです。光司様!ヴァンパイアの弱点は炎です。心臓を燃やし尽くすのです」
「わかった。フレイムソード!」
俺は炎で出来た剣を王子の心臓に突き刺す。
「ギャアアアアア」
絶叫と共に、王子の体は灰になっていった。
「助かったぜ。マリア」
俺は感謝の気持ちをこめて、マリアを抱きしめる。
「どういたしまして。こんな所であなたが殺されたら、中途半端なままで終わってしまいますからね」
そういってマリアは、俺を優しく抱きしめるのだった。