接吻
ちょっとネトラレと姉妹百合が含まれます
「本当にお姉さまなのですね」
私は今、お姉さまの姿に変身した魔王様に抱きついています。
魔王様は私が落ち着くようにと、お話する機会を作ってくださいました。
いきなり顔を見せられたときは本当にびっくりしましたが、お姉さまは私が連れて行かれた後のことを丁寧に話してくださいました。
ああ、この匂い、ぬくもり、たくましい筋肉、まぎれもなくお姉さまそのものです。
いつまでも甘えていたいところでしたが、お姉さまは優しく私を抱きしめておっしゃいました。
「ルル。私は死んでしまったが、魂は魔王様と共にいてお前を見守っている。これからはお前が第一王女として、エルフ王国を再興させるのだ」
その言葉を残してお姉さまの姿は変わっていき、魔王様に戻ります。
「あっ……も、申し訳ありません」
魔王様に抱きしめられていて恥ずかしくなり、離れようとしましたが、彼はしばらくそのままで私を慰めてくれました。
「いい。お前もつらかったんだろう」
その言葉を聞いて涙が出てきます。ああ、魔王と名乗られていても、このお方は優しい人なんだ。
しばらくして落ち着いた私に、魔王様はおっしゃいました。
「エルフたちに話したいことがある。皆を集めてくれ」
「はい」
私は魔王様のお言葉に従い、エルフの仲間たちに呼びかけます。
深夜だったこともあり、エルフたちは主人の下から抜け出して集まることができました。
「ああ……ララーシャ様」
「エルフ騎士団の騎士団の方々が、あのモンスターだったなんて」
私の部屋に集まったエルフの同胞がすすり泣いています。
モンジュを襲った人型モンスターたちが同胞のなれの果てだと聞くと怒り出した仲間もいましたが、魔王様と同化しているお姉さまや騎士たち本人に事情を説明してもらうと、誰もが納得して深く感謝をささげました。
「魔王様。我らが同胞を奴隷から解放してくださいまして、ありがとうございました」
「俺はただ自分の復讐にエルフを利用しただけだ。感謝されるいわれはない」
魔王様は冷たく突き放しますが、その心の底ではエルフに対する深い同情を感じてくれているのが私たちにはわかりました。
「ララ―シャは俺を助けた。だから俺もお前たちを助けよう。この学園都市から逃げ出して、国に帰るがいい。この中に入れ。外まで運んでやろう」
魔王様はそうおっしゃって『勇者の道具袋』を開けますが、誰一人として首を縦に振りませんでした。
「魔王様。ありがたいお言葉ですが、まだ復讐を遂げていません」
「このまま国に戻ったところで、また人間に攻められたら同じ悲劇の繰り返しになります。なんとしてでも人間どもに一矢を報いてやらねば」
仲間たちの気持ちはわかります。国を滅ぼされ、家族を殺され、自分の身まで汚されたのです。なんとしてでも人間たちに復讐しないと、国に戻れはしません。
幸い、私たちが今いるところは人間の王国の次世代を担う魔法学園です。ここにいる魔法が使える貴族の生徒たちを滅ぼせば、王国は衰退し、二度とエルフに手をだせなくなるでしょう。
「魔王様。ぜひ私たちも眷属にお加えください」
私はエルフの王女として、魔王様に魂を捧げることを誓いました。
「いいのか?一度魔物に転生すると、二度とまともな生物には戻れないぞ」
「かまいません。ただ人間たちを殺すだけではなく、人間社会に容易に忍び込むことができ、未来永劫災いをもたらす、そんなモンスターになりたいのです」
私の言葉に、ほかのエルフたちも頷きます。
「とすると、人に近い姿をして、人を思うさま操れるモンスターか。ただ一種類だけ、そんなモンスターに心当たりがある。人間を食料とする天敵ともいえる魔物だ」
その魔物のことを聞くと、誰もが復讐できる喜びに顔を輝かせました。
「私たちを転生させてください」
「いいのか?この魔物は能力は高いが制約も多い。二度と太陽の光の下をあるけなくなるし、定期的に人間の血を吸わねばならぬ。お前たちには永遠に修羅の道を歩ませることになるだろう」
魔王様の言葉を聞いても、私たちの決心は変わりません。
「お願いします」
「わかった」
魔王様の顔が近づいてきます。私たちは歓喜と共に、その口づけを受け入れました。
「ああ……魔王様の血が、私の中に入ってくる」
「なんて甘美な快楽なのかしら……」
私たちは魔王様の血を受け入れ、魔物への転生を果たすことができました。血管の中を『闇』が駆け巡り、私たちの体にしみわたっていきます。
転生を終えた後には、私たちの口元には鋭い牙が生えていました。
「コーリンには手をだすな。奴は俺が始末する」
「わかりました」
エルフたちは静かに元の主人の所に戻っていきました。
仲間たちを見送り、私はその場にとどまります。
「どうした?王子の元にはいかないのか?」
「王子は負傷中です。すぐにはその気にはならないでしょう」
私はふふっと笑うと、魔王様の元に跪きました。
「魔王様。もう一つだけお願いがあります」
「な、なんだ?」
「私はエルフの王女として、その血を紡いでいかねばなりません。そのためには強い子が必要なのです」
ちょっと恥ずかしいですが、服を脱いで魔王様をベッドに誘います。
「魔王様。私に情けをくださいませ」
「……いいだろう」
私たちは二人でベッドに倒れこみます。たとえようもないほどの快楽を私は感じ、幸福感に包まれるのでした。
「……はっ。ルル?」
僕はベッドの上で意識を取り戻す。ベッドの脇には、もたれかかって寝ているコーリンがいた。
「あれは夢だったのか?」
ルルが口移しでポーションを飲ませてくれたように思ったが、気のせいだったのだろうか?
「そうだ?ルルは?」
ルルが傍にいてくれないと落ち着かない。幸いポーションのおかげで傷は治っているみたいだ。
僕はコーリンを起こさないように起き上がると、ルルを探して部屋を出た。
今は深夜らしく、学園都市は夜の闇の中で静まり返っている。
「誰かいないのか……?」
近くの部屋のドアの隙間から明かりが漏れていたので、僕はそっと覗いてみた。
「うへへへへ。やっとその気になったみたいだな」
「はい。ご主人様。私のすべてを捧げます」
部屋の中では、だらしない顔をした男子生徒と、その前でメイド服をはだけさせて妖しい笑みを浮かべているエルフがいた。
二人は服を脱ぎ捨てると、ベットに倒れこむ。
くっ。取り込み中か。だが、今は非常時だ。そんなことをする元気があるなら、君たち貴族も兵士として武器をとるべきだ。
決してうらやましいと思っているわけじゃないからな。
「おい!いい加減に!」
止めようと思ってドアノブに手をかけたとき、他の部屋からも妙な声が聞こえてくるのに気付いた。
「ああ、おぼっちゃま。たくましい」
「お姉さま。いろいろ教えてください」
男女関係なく、あちこちの部屋から嬌声があがっている。
「くそ。なんなんだ。ここの貴族の生徒はサルばかりか!」
これだけ沢山いたら、逆に僕の方が野暮だって責められてしまう。
まてよ?もしかしたら、ルルも生徒たちに言い寄られているかもしれない。
そう思った僕は、急いでルルの部屋に行く。
部屋の中からは、聞き覚えのある男女の声が漏れていた。