再会
俺は、一度学園都市を離れてこれからのことを考える。
「ララ―シャとの約束もあるしな。力づくで攻める訳にもいかないな。まずエルフたちを助け出さないと」
コーリンは聖水結界に自信をもっているようだが、実は俺はそこまで脅威に感じてなかった。
不意打ちで食らうならともかく、事前に知っていれば対処はたやすい。
「まず、学園都市に侵入して様子を探ろう」
そう決めた俺は、夜になるのを待って空に飛びあがる。
「風舞」
レイバンの風魔法を使って、自分の身を風で包む。
そのまま突入すると、聖水で出来た霧は風に吹き飛ばされて、結界に穴が開いた。
学園都市への侵入を果たした俺は、夜の闇に同化して姿を隠し生徒たちの寮に侵入する。
貴族の生徒たちのエルフへの扱いは、ひどいものだった。
「てめえ、何ぼーっとしてんだよ。さっさと奉仕しろ!」
「ひっ!お許しください」
ある男子生徒は、エルフの少女にメイド服を着せてこき使っている。
「いい、あしたまでに私の服を全部洗濯しておくのよ!もしやってなかったら、またお仕置きだからね」
ある女子生徒は、鞭をふるいながらエルフの少年に命令していた。
皆モンスターに襲われてストレスがたまっているのか、その鬱憤を晴らすためにエルフを虐待しているようである。中には無理やり自分のベッドにひっぱりこんでいる輩もいた。
「さて、どうしたものか」
ここで生徒たちを暗殺してエルフたちを救うのはたやすいが、騒ぎを起こすのもまずい。
エルフたちは『隷属の鎖』をつけられているので、主人である生徒の意思一つで動きをとめられてしまうのだ。
もし生徒たちがエルフに不信感をもてば、なすすべもなく殺されてしまうだろう。
「反乱を起こすにしろ、エルフたちをまとめてからにしないといけないな」
そう思った俺は、ララ―シャに頼まれた第二王女を探すのだった。
私はルル。以前はエルフ王国の第二王女でした。しかし、今は人間の捕虜となり、奴隷に落とされた身です。
私の目の前では。片腕を無くした王子がうめき声をあげていました。
「痛い……苦しい……」
いい気味です。私たちが味わった苦しみの万分の一でも味わえばいいんだわ。
そんな王子を、賢者コーリンが必死に治療していました。
「王子、ポーションです。飲んでください」
「嫌だ!君の薬なんかいらない!」
なぜか王子は拒否しています。困りましたね。このまま死なれたら、計画が果たせないじゃないですか。
私はやむなく、王子を説得することにしました。
「王子、意地を張らずに飲んでください」
「ルルがそういうなら……でも、コーリンの手を借りるのは嫌だ。君が飲ませてくれ」
何を甘えているのでしょうか気持ち悪い。
仕方ないので、コーリンから薬を受け取り、口移しで飲ませてあげました。
「ああ……ルル。やはり僕を愛してくれていたんだね」
王子はうわごとのようつぶやくと、安らかな眠りに落ちていきました。
まったく、どこまでも愚かな王子ですね。国と家族を滅ぼされた私が、敵の元凶の息子であるあなたを愛せるとでもおもっているのでしょうか。
軽蔑の目で王子を見下ろしていると、コーリンに睨まれてしまいました。
「あんた。奴隷の分際でいい気になっているんじゃないわよ。王子を助けたのは私。いずれ私は彼と結婚して、王妃になるんだからね」
はいはい。勝手にやっていてください。いずれまとめて滅ぼしてやります。
私は一礼すると、王子の着替えをもって部屋を出ます。
周囲の部屋からは、貴族の生徒たちにもてあそばれるエルフたちの叫び声が聞こえてきました。
「はあはあ、もっとだ!もっと叫べ!」
「いやぁーーー!」
彼女たちの声を聴くたびに、私は耳をふさぎたくなります。ですが、これもエルフの復讐のためです。
悔しいですが国を滅ぼされ捕虜にされた私たちエルフは無力です。こうなったら奴らの子を産み、その血筋を乗っ取り、内部から滅ぼすしか方法がありません。
もちろん彼女たちだけを不幸にさせたりしません。私も憎い王子の子を産み、その子を反乱の旗印に仕立て上げます。
ですが……それまでに何人のエルフたちが不幸になるのでしょうか……。
「みんな……申し訳ないです。ですが、我慢してください。奴等の子を産み育て、エルフの誇りを教え込む。そして数十年後に反乱を起こし、人間国を亡ぼすのです」
陰鬱とした気分でそうつぶやいていると、廊下の影から声がかけられました。
「お前は王子の部屋から出てきたが、エルフの中でも身分が高い者なのか?」
「何者!」
まさか、今の独り言を聞かれたの?
まずい。この計画が貴族たちにばれたら、エルフは皆殺しにされてしまう。なんとしてでも口をふさがないと。
「心配するな。俺はお前たちエルフの味方だ」
「味方?私たちに味方などいるわけがないわ!」
そう叫びながらナイフを投げつける。しかしナイフは虚しく廊下の影に呑み込まれていきました。
影の中から、黒いローブを纏ったハゲ頭の男が現れます。
「仕方ないな。『彼女』に説得してもらおうか」
そう言いながら手のひらを見せつけてきます。
そこには、二度と会えないと思っていたお姉さまの顔が浮かんでいました。
「ララーシャお姉さま!」
「ルル。よくぞ無事だった。会えてうれしいぞ」
お姉さまの顔は、闇と同化したたかのように黒く染まっています。
それでも、なぜか安らぎに満ちていました。
「ルル。私は既に魔王様に魂を捧げた。いわば彼の言葉は私の意思でもあるのだ。彼に従うがいい」
お姉さまは凛とした口調で告げるのでした。