襲撃
幸せな未来を想像して頬をゆるめていると、最近手に入れたエルフの少年奴隷が入ってきた。
「ご、ご主人様。紅茶を入れました」
そうおどおどした様子でお茶を運ぶと、一礼をして部屋を出て行こうとするので、私は呼び止める。
「ちょっと待って。なぜ砂糖を持ってきてないのかしら」
「え、だってこの前は砂糖なんていらないって鞭で叩かれて……」
わかんない子ね。今日は甘い紅茶を飲みたい気分なのよ。その程度のことも察せられないのかしら。
「口答えする気?奴隷の分際で」
私は鞭を手に取ると、その奴隷を思い切り叩いた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
必死になって謝る様子がかわいらしい。
ふふ、まるでリュミエール王子をいじめているみたい。わざわざ彼に似ている奴隷を選んだ甲斐があったわ。
「私は虐めているんじゃないのよ。これも愛情の証なの。さあ、いい声で啼きなさい」
私は奴隷を痛めつけながら、愛するリュミエール王子に思いをはせる。
その時、王都にいるマリアからの手紙が届いた。
「どれどれ……あの女が私に何の用かしら」
その手紙によると、ライトは魔王の力を手に入れ、復讐のために暴れまわっているらしい。
もし学園都市に来た場合、どう対処すべきかということが綴られていた。
「あの女のアイデアという所が気に入らないけど、確かに有効ね。それにこのやり方が成功してライトを倒せば、私とリュミエール王子の間に確かな絆を結ぶことができる」
そう考えた私は、ひそかに対ライト用の罠を張るのだった。
そして数日後、私は警備兵から緊急連絡を受ける。
「申し上げます。大勢の人型モンスターが現れました。ものすごい速さでこっちに向かってます」
「なんですって?」
この世界からモンスターはいなくなったはずなのに、モンスターの襲撃があるとは。これは何かライトに関係あるのかもしれない。
「至急、第一騎士団に迎撃をお願いして」
「は、はい」
慌てて走っていく兵士をみながら、私は治療用ポーションの制作にとりかかるのだった。
ここ数日王子は元気がないようだったが、モンスターの襲来と聞いて気を取り直し、配下の騎士をつれて迎撃に出た。
「コーリン。僕たちはモンスターと戦ったことがない。どう戦えばいいか知恵を貸してくれ」
王子に頼られて気を良くした私は、今までの戦いの経験からアドバイスしてあげた。
「そうですね。基本的にモンスターとは動物が闇の魔力を受けて魔物化したものなので、本能のままに襲ってきます。なので、何重にも取り囲まれている水堀で侵攻を阻み、間をつなぐ橋の部分に戦力を集中させるべきです」
学園都市を取り巻いている水堀は広くて深い。その間を飛び越えるなんてことは、いくらモンスターでもできないはずである。
私の意見に王子は頷き、騎士たちを配置する。
「いいか、橋を通ろうと襲い掛かってくるモンスターを、複数で取り囲んで倒すんだ」
「はっ」
騎士たちは敬礼すると、散っていった。
ああ、私の指示で騎士たちが動くなんて、なんて楽しいんだろう。
やっぱり王子と結婚して、この国の人を思うさま動かしてみたい。
王妃になって政治を影から動かす妄想に浸っていると、緊張した騎士たちから声があがった。
「見えました。人型のモンスターです」
騎士が指さす方を見ると、全身が真っ黒い肌でおおわれ、鋭い牙と爪をもつモンスターが数十匹現れた。なぜか耳だけが長い。
(待って。黒い肌って……もしかして!)
魔王との戦いの中で苦戦した、ある特別なモンスターのことを想い当たって警告を発しようしたとき、奴らはいきなり襲い掛かってきた。
「来ます……えっ?」
騎士たちが驚きの声をあげる。なんとモンスターたちの一部が水堀にかかっている橋を無視して、直接飛び越えてきた。
「ウォォォ―――――ン!」
まるで狼のような叫び声をあげて水堀を飛び越えたモンスターたちは、今度は逆に橋に集まっている騎士たちを前後から挟撃する。
「こ、これはどういうことだ!話が違うじゃないか!」
「と、とにかく戦え!」
挟み撃ちになった騎士たちは、必死に剣を抜いて切りかかる。しかし、ガキっという音とともに剣が折れた。
「あ、あれは!」
遠くから双眼鏡で見ていた私は戦慄する。
まちがいない!あれは魔王から直接力を与えられたアイアンモンスターだわ。
だとすると、通常の武器は通用しない。王子にも協力してもらって、あの策を使わないと。
「ど、どうすればいいんだ!」
王子は隣でオロオロしていて、的確な指示を下せないみたい。やむなく私は王子を無視して命令を下した。




