王子
サブヒロインがでます
第一騎士団の駐屯所は、学園都市の中央にある。
騎士団長にして王国の第一王子リュミエールがコーリンを出迎えた。
「ライト君が反乱を起こしたそうだね」
リュミエールが苦い顔をする。彼は銀髪の美少年で、髪の色はちがえどライトが変身したアポロンの姿に瓜二つの容姿をしていた。
「はい。偽勇者として世界をだました事にあきたらず、反乱を企てるとは。許しがたい大罪人です。リュミエール殿下」
コーリンは、彼の前でライトを弾劾する
しかし、リュミエールは悲し気な顔をしてかぶりを振った。
「なんとか彼を説得できないものか……」
「殿下!」
不満そうな顔をするコーリンを、リュミエールは冷たい目で見つめた。
「彼の気持ちはわかる。冤罪をかけられ、偽勇者呼ばわりされたんだ。復讐したくなって当然だ。ああ、僕が王都にいたら、なんとしてでも父上たちの暴挙を止めたのに……」
リュミエールは魔法学園にいた頃、ライトと知り合って友誼を結んだ。そのことを知っていた国王は、勇者パーティの出迎えに彼の参加を許さず、学園都市に留めたのである。
後でライトの処罰を聞いて、胸が張り裂けそうな思いをしていた。
そんな王子を、コーリンは嫉妬の表情で見つめる。
(なぜ王子は私を愛してくれず、ライトなど気にかけるんだろうか!いくら王子がライトと同じ光の魔法の使い手だからって、天と地ほど身分の差があるのに)
コーリンの視線に気づかず、リュミエールは嘆く。
「本来なら、僕が勇者の正統後継者として魔王討伐に参加するべきだったんだ。僕も勇者ライディンの血を引いているのだから。彼は僕の身代わりになったも同然だ」
リュミエールはため息をつきながら、手のひらに魔力を集中される。真っ白い光が輝き、辺りを照らした。
勇者ライディンの血筋は行方不明とされていたが、実は一つの家系だけは所在がはっきりしていた。ほかでもない王家である。
400年前、勇者ライディンは王家の姫を娶り、その血筋は子孫の代で王家に引き継がれた。代々の国王は光の魔法が使えるのである。
しかし、王家の者が魔王討伐に出るなど許されることではない。それで国中からほかに勇者の血を引く者が捜索され、ライトが選ばれたのである。
「彼は、僕の従兄弟のようなものだ。モンスターと戦ってもレベルアップできない彼と、そもそもモンスターとの戦いを許されない僕。照明魔法しか使えないわが身を嘆いて、よく愚痴をこぼしていたものだ」
いつまでも続く後悔と愚痴に、コーリンはうんざりしてしかりつけた。
「今更そんなことをいっても仕方ないでしょう。あなたは第一王子であり、この国を継ぐべきものです。ライトはすでに反乱を起こしました。それを許しては、王国の権威が傷付きます」
「王国の権威、か……」
リュミエールは、押し付けられた立場の重圧に苦い思いを感じながら、しぶしぶ頷いた。
「わかった。彼がここに来たら、貴族の子弟を守るために正々堂々と戦おう」
「そのお覚悟をきけて、安心しました。それでこそ勇者の血を引くお方です」
コーリンはそういって帰っていく。リュミエールは複雑な思いを感じながらも、配下の騎士に警戒態勢を取らせるのだった。
僕はリュミエール。人間の王国の王子だ。
「殿下。冒険都市インディーズから奴隷が届きました」
コーリンからそんな報告をされ、面食らってしまう。
「奴隷だって?なぜそんなものが?」
「我々、貴族の使用人にするためです。まずは王子から気に入った奴隷を選んでください」
そう言われて、興味をひかれた僕は奴隷たちが入れられている檻を見に行く。
すると、その奴隷たちとはエルフだった。
「なんでエルフが奴隷に?」
疑問をもった僕が奴隷たちをよく見てみると、緑色の長い髪をもつ美少女と目があった。
「ルル!」
僕は思わず叫び声をあげてしまう。足に奴隷の鎖をつけられたその少女は、僕の婚約者だった。
「なんで君が奴隷なんかに?いったい何かあったんだ」
「白々しい。エルフ王国を滅ぼしておいて、何を言っているのですか?」
エルフ王国の第二王女、ルルからは軽蔑の目を向けられた。
「待ってくれ。どういうことなんだ!エルフ王国と人間の王国は、共に手を携えて魔王に対抗する友好国だったはずだ。それがなぜ……」
ルルはため息をつくと、自嘲気味に話し始めた。
「人間など信じるべきではありませんでした。魔王がいるころは、必死に私たちの機嫌を取って貴重なアイテムやポーションを提供させたのに、いざ魔王が倒されたとなると、手のひらを返して冒険者たちにエルフ王国を攻めさせたのです……」
「そんな……」
僕はずっとモンジュにいて、父上に何も知らされてなかったことにショックを受ける。
ルルはそんな僕を、さげずむように笑った。
「何を驚くことがあるのです。あなた方人間は自分たちの同胞であるライトとかいう勇者の末裔も、あっさりと裏切って貶めました。そのような恥知らず、自らの欲のために友好国であるエルフ王国を攻めても不思議ではないでしょう」
「うっ……」
ルルの言葉が、僕の心を傷付ける。
その時、だまって聞いていたコーリンが、ルルに向かって鞭をふるった。
「殿下に対して無礼な!たかがエルフの奴隷の分際で」
「ぐっ!」
鞭で打たれて苦痛に顔をゆがめるルルだったが、なおも気丈に言い返す。
「そうね。今更あなた方人間を信じたことを後悔しても遅いわね。だけど、あなた方の思い上がりもいつまでも続かない。裏切りと理不尽を重ねるあなた方は、自らまき散らした恨みから生まれる復讐者によって、いつかは倒されるのよ」
「生意気な……!」
コーリンがさらに鞭で打とうとするので、僕は慌ててかばった。
「やめろ!ルルは僕が引き取る」
「殿下!なぜそのような者を」
「彼女は僕の婚約者だ!」
それを聞いたコーリンは、憎しみを込めた目でルルを睨んだ。
「エルフ王国はすでに滅びました。殿下の婚約話はすでに解消されています」
「……だとしても、彼女は僕の大切な友人であることに違いはない!傷つけることは、この第一王子、リュミエールの名において許さん」
精一杯の威厳をこめて命令すると、コーリンはしぶしぶ引き下がった。
「殿下のご命令とあればご随意に。ですが、殿下はわが王国の正統王位継承者でございます。いずれふさわしい家柄の貴族令嬢とご婚約していただきますので」
「……ああ。わかっている」
僕は頷くと、ルルの足の鎖を外してあげた。
「ルル、君を奴隷から解放する。エルフ王国に帰るといい」
「……ふっ。すでにエルフ王国は滅ぼされました。帰る家などありません。それに、わが同胞たちを見捨てることもできません。今日から奴隷としてお仕えさせていただきます。殿下」
そういって礼をするルルの顔は、まるで能面のように無表情だった。