勇者の取り立て
「やっと死んだか。なかなかしぶとかったな」
俺はレイバンの魂を吸収しながらつぶやく。
レイバンは腐っても頑強な戦士らしく、なかなか死なずに結局四日間も見物してしまった。
「そろそろインディーズに帰るか。エルフたちが街の人間を皆殺しにした頃だろうからな」
空をとんでインディーズに戻る。
上空からみた街の様子は、あちこち死体が転がっていてひどいものだった。
街の人間の恨みのこもった魂が俺の体に入ってくる。
「これで冒険者たちへの復讐は終わった。次はどうしようかな」
残る復讐対象は、魔法学園の賢者コーリン、教会の教皇と聖女マリア、そして王都にいる勇者光司と国王一味だった。
「勇者と国王は最後の楽しみとして取っておくとして、魔法学園と教会のどちらを攻めるか……」
考え込んでいると、街に俺の眷属となったエルフ騎士団がいないことに気づいた。
「ははは、やってやったぞ!」
「ギルドの金も全部奪ってやった。これで故郷に帰れるぞ」
街に残っているのは、奴隷から解放されたエルフたちのみ。
彼らは解放されたことをお互い抱き合って喜んでいた。
俺はそいつらの前に降り立つ。
「あ、あなたは魔王様!」
「私たちを救ってくださって、ありがとうございます」
土下座するエルフたちに、聞いてみる。
「あのララ―シャとかいう王女と、騎士団はどうした?」
「は、はい。使用人として連れていかれたエルフたちを助けに行くといって、学園都市に向かいました」
まずいな。早くいかないと、先にコーリンたちが殺されてしまうかもしれない。
「わかった。お前たちは好きにしろ」
そう言いおいて、俺は魔法学園に向かうのだった。
俺は光司。魔王を倒し、勇者と崇められている者だ。
だが、最近俺は恩知らずの王国に少し幻滅していた。
魔王を倒した直後はあれだけ救世主だともちあげていたのに、ちょっと金を使っただけで咎められ、勇者専用の無制限小切手帳を取り上げられてしまった。
このままじゃ、俺の可愛いメイドたちを養えなくなる。
そう思って困っていたら、聖女であるマリアにいいアルバイトを紹介された。
そんなわけで、今日も俺は裏社会のボスであるボガードにつけられた手下と共に借金の取り立て屋をやっている。
「今日の取り立て先はここか」
俺は街はずれの屋敷を見て、資料を確認する。
かつては豪勢な屋敷だったようだが、今は草が生い茂ってあきらかに手入れがされてない有様だった。
「へえ。間違いありません。うちの組から借金をしていながら、三か月も滞納しています」
手下たちからそれを聞いて、俺はうなずく。借りた金はちゃんと返さないとな。
「よし、行くぞ!」
勇者の剣をふるって、派手に玄関の扉を切り刻む。
中に入ると、痩せかけた中年男と中学生くらいの女の子が怯えた表情で抱き合っていた。
「おうおう。借金の期日はとうに過ぎているんだぜ。いつまで居座る気なんだ。返せなかったら屋敷を引き渡す約束だったはずだ。とっととここから出ていきな」
まず手下が脅しをかけると、中年男は土下座をした。
「か、勘弁してください。もう元金はとっくに払ったはずじゃ……」
「何言ってんだ。借金には金利というものが付くんだぜ。うちは10日で10%だ」
手下たちが借用書を見せつける。
「で、ですが、金利は10日で1%という約束だったのでは?」
「何言ってやがんだ。ちゃんと10%と書かれているだろうが」
手下たちは金利の欄を指し示す。そこにはちゃんと10%と書かれていた。
まったく、借金が払えないからって見苦しいぜ。そんな苦しまぎれの嘘をついて返済から逃れようなんてな。
「うそよ!あなたたち、あとから書き足したでしょ!」
娘らしい中学生くらいの女が金利欄を指さして叫ぶ。あれ、そういえばインクの色が1と0でちょっと違うような気が……気のせいか?
よく見ようとした時、手下たちが慌てたように借用書をしまい、俺をけしかけた。
「先生!こいつらを懲らしめてください」
仕方ねえ。ちょっと脅しつけて筋を通させるか。
俺が剣を抜いてゆっくりと前に出ると、中年男と娘が驚いたような顔をした。
「あ、あなたは勇者光司様!」
「な、なんであなたみたいなお方が、ボガードの手下なんかに!」
うるせえ。俺はあいつの手下じゃねえ。ただアルバイトしているだけだよ。
俺が無言で剣をふるうと、炎が放たれて屋敷に火がついた。
「きゃぁぁぁぁ!」
「なんてことを!」
中年男と娘が悲鳴をあげるが、手下たちは喜ぶ。
「ははは、こりゃちょうどいいや。どうせこのボロ屋敷をぶっ壊して建て替えする予定だったんだ。どんどん燃やして下せえ」
そうか。なら遠慮なくやってしまうか。
「火炎剣」
俺の剣は屋敷を切り刻み、跡形もなく崩壊されるのだった。




